大学を強くする「大学経営改革」[92] URA制度の現状と課題を通して大学における高度専門職について考える 吉武博通

高度専門職の採用・育成と事務職員の高度化による教職協働

 高等教育への期待と要求が増すに伴い、大学における業務は多種多様化し、それぞれに求められる水準も高まりつつある。多様化し高度化する業務を誰がどう担うか、近年の大学改革における大きなテーマである。

 中央教育審議会大学分科会が2014年2月に示した「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」では、学長補佐体制の強化として、総括副学長等の設置、IRの充実、全学的な会議体の活用と並んで、「高度専門職の安定的な採用・育成」と「事務職員の高度化による教職協働の実現」を挙げている。

 そして、高度専門職として、リサーチ・アドミニストレーター(URA)、インスティトゥーショナル・リサーチャー(IRer)、産学官連携コーディネーター、アドミッション・オフィサー、カリキュラム・コーディネーター等の職を例示している。その上で、「これらの職員は、新たな職種となるため、これまでは競争的資金を原資とした任期付き採用となる例が多かった。しかしながら、こうした専門性を持った人材は、社会的要請を踏まえた大学改革の推進力として、執行部を直接支えることが期待され、安定的に採用・育成していくことが重要である」としている。

 高度専門職の採用・育成と事務職員の高度化による教職協働は、学長のリーダーシップの確立という側面だけで語られるべきものではなく、教育、研究、社会貢献という大学の機能をどう高度化するかという、より大きな文脈の中で考えるべき課題であるが、多様化・高度化する大学の業務の担い手として、高度専門職と事務職員に大きな期待が寄せられていることは確かである。

 このようななか、高度専門職の一つであるURAに対する関心が高まり、国公私立の枠を超えて導入する大学が増えつつある。URAの活動が外部資金の獲得増につながる等、具体的な成果も現れてきている。

 その一方で、本格導入開始から今日に至るまでの道程は決して平坦ではなく、試行錯誤が繰り返され、現状においても様々な課題が指摘されている。

 その歩みを振り返り、現状と課題を確認することは、大学における高度専門職のあり方、さらには高度専門職の配置と事務職員の高度化の関係などを考える上で、多くの示唆を与えてくれるはずである。

 このような問題意識に基づき、URA制度導入の背景と経緯、今日までの経過、現在の状況、今後の課題について整理した後、これらを通して如何なる示唆が得られるか考えてみたい。

国の政策主導で導入が促進されてきたURA制度

 我が国のURA制度は、2011年度及び2012年度からそれぞれ3カ年を実施期間とする文部科学省「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」事業を契機として本格的な導入が始まった。

 2011年7月に示された公募要領では、背景として、研究者に研究活動以外の業務で過度の負担が生じている状況にあるとの認識が示され、研究開発に知見のある人材をURAとして活用・育成するとともに、専門性の高い職種として定着を図ることをもって、大学等における研究推進体制の充実・強化に資することを目的とする旨が述べられている。

 そして、URAを「大学等において、研究者と共に(専ら研究を行う職とは別の位置づけとして)研究活動の企画・マネジメント、研究成果活用促進を行う(単に研究に係る行政手続きを行うという意味ではない。)ことにより、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化等を支える業務に従事する人材」とした上で、URAの業務の例示として、研究者と共に行う研究プロジェクトの企画、研究計画等に関する関係法令等対応状況の精査、研究プロジェクト案についての提案・交渉、研究プロジェクトの会計・財務・設備管理、研究プロジェクトの進捗管理、特許申請等研究成果のまとめ・活用促進などを挙げている。採択機関は、2011・12年度合わせて15機関となっている。

 その後、文部科学省は、2013年度からの10カ年を実施期間とする「研究大学強化促進事業」を創設。大学等における研究戦略や知的財産管理等を担う研究マネジメント人材(URAを含む)群の確保・活用や、集中的な研究環境改善を組み合わせた研究力強化の取組を支援し、世界水準の優れた研究活動を行う大学群の増強を目指すとの事業目的に沿って、22機関に対する支援を行っている。

 両方の事業に採択された7大学を含む合計30機関が国の支援を受け、URAの配置・育成や組織整備に取り組んできたことになる。その内訳は、国立24、私立3、大学共同利用機関法人3となっている。

 これらの経過から、URAは政策主導で、国立大学を中心に導入が促進されてきたことが分かる。

米国におけるRAとRDの2つの専門職

 URAは、米国の制度を参考に導入されたといわれている。山野(2016)によると、米国にはResearch Administrator(RA)とResearch Development(RD)という2つの専門職があり、前者の主な役割として、米国国立科学財団(NSF)や米国国立衛生研究所(NIH)などの会計規則に則った予算申請の支援や研究管理の実施、後者の主たる役割として、戦略的なチーム研究の促進、そのための研究資金の獲得、申請書作成などが挙げられている。またRAに関しては1959年に設立のNCURA(National Council of University Research Administrators)、RDに関しては2010年に設立されたNORDP(National Organization of Research Development Professionals)という専門職団体がそれぞれ活動を行っている。

 その上で、山野(2016)は、米国のRAの役割は、日本の大学では事務部門の職員が担う役割との類似性が高く、日本のURAは、近年、米国の大学で組織の設置や専門職の配置が進むRDと同類の役割を担っているとの見方を示している。

認識され始めたURA制度導入の効果

 日本においてもURAに期待する役割や実際の業務は大学ごとに多様であり、時々の状況に応じて変化してきた面もある。その一方で、文部科学省を中心に、スキル標準の作成や研修・教育プログラムの作成などURAの育成・定着に向けたシステム整備も進められている。

 東京大学が文部科学省の委託を受けて2014年に作成した「URAスキル標準」では、URAの業務を、「研究戦略推進支援業務」「プレアワード業務」「ポストアワード業務」「関連専門業務」の4つにカテゴリー分けし、それぞれの業務内容を次ページの表の通りまとめている。

 未来工学研究所「リサーチ・アドミニストレーターの質保証に向けた調査分析(調査報告書)」(2018年3月)によると、URAが「学内唯一の組織として関与」「主として関与」を合わせた比率が高い業務は、外部資金情報収集(76%)、研究力分析(73%)、申請資料作成支援(70%)、研究プロジェクト企画立案支援(68%)などである。

 このほか、研究プロジェクト企画のための内部折衝や対外折衝、産学連携支援(地域社会連携含む)に対する関与度も高い。また、「学内唯一の組織として関与」と回答した比率が最も高いのは知財関連(32%)である。

 調査時点は遡るが、三菱総合研究所「リサーチ・アドミニストレーター業務の自立的運営に向けた調査・分析(報告書)」(2016年3月)は、URAを導入したことによる効果として、機関内での交流・情報共有が進展した(87%)、科学技術政策動向を把握できるようになった(82%)、外部研究資金の獲得額が増加した(78%)、研究活動・成果に関する広報が活性化した(73%)、他機関との共同・受託研究(産学連携等)が増えた(67%)などを挙げている。なお、これらの数字は「大変効果があった」「やや効果があった」を合わせた比率であり、前者に限るといずれも10%台後半から20%台であることに留意する必要がある。


URAの業務内容


着実に増加する導入機関数と配置人数

 文部科学省「大学等における産学連携等実施状況について」(2021年1月)に基づいて導入状況を確認すると、URAを配置しているのは2019年度において177機関、内訳は国立大学等81、公立大学等20、私立大学等76となっている。2016年度の102機関からわずか3年で1.7倍となり、とりわけ私立大学の増加(32→76)が顕著である。

 また、全機関合計の配置人数は、本格導入が始まった2011年度の323人から年々増加し、2019年度では1507人に達している。

 2015年3月にはリサーチ・アドミニストレーター協議会(RA協議会)も発足、2020年9月時点で会員数約550名の組織に発展している。

 同協議会が行った「会員実態調査2020」(2020年9月)によると、約6割が過去に研究職として研究に従事した経験を有している。また、約7割が任期あり雇用で約3割が任期なし雇用、裁量労働制は45%でそれ以外は55%、6割近くが年俸制の給与体系となっている。

 また、URAを如何なる職種として位置づけ、処遇するかについては、「教員に準じた扱い」「事務職員に準じた扱い」「新たな処遇体系を整備(いわゆる第三の職種)」の三通りがあり、機関によって位置付けは異なる。

 このようななか、文部科学省が設置した検討会は、「リサーチ・アドミニストレーターの質保 証に関する認定制度の導入に向けた論点整理」(2018年9月)の中で、

  • 大学等が求める能力・実績を有する者が必ずしも適切に採用・配置されていない可能性がある
  • バックグラウンドが多様であるがゆえにパフォーマンスに個人差が生じている
  • 人材育成面で大学間に不均衡があり、継続的な人材供給のための養成システムの整備も不十分
  • URAの実務能力を測定する指標が欠如し、成果の把握・評価が難しい
  • 期間の定めのある労働契約が多くを占め、URAの雇用環境が安定的なものではない
といった課題を挙げた上で、質保証に向けた具体的な取組として認定制度を提案し、その意義と導入に関する論点を示している。

安定的な雇用のための財源確保と認定制度による質保証の確立が課題

 岡山大学でURA導入に携わり、現在も同制度の普及・定着に取り組む山本進一豊橋科学技術大学理事・副学長は、「導入当初は多くの大学で混乱が見られたが、それぞれに改善が進み、外部資金の獲得増などURA導入の効果も現れ、広くその役割や存在意義が理解されるようになった。最大の課題は、安定的な雇用を実現するための財源の確保と認定制度による質保証の確立の2つ」と述べる。

 筆者が在籍した東京都立大学でも当初の混乱を乗り越え、2021年3月現在、多様な専門性を有する10名のURAが、研究IR・情報提供、外部資金獲得支援、研究プロジェクトの形成支援、研究広報支援、企業等とのマッチング、知的財産管理・活用と実用化・事業化に向けた支援など、大学の研究活動をトータルにサポートしており、必要不可欠な機能として学内外で高い評価と信頼を得るに至っている。

 総合研究推進機構の十津川剛上席URAは「外部資金の獲得だけでなく、新しい研究テーマや研究チームの創成、大学の研究戦略策定など、研究推進に係る様々な活動に対して、新たな価値を提供できたと感じられることがやり甲斐だが、研究に最適化された環境整備に向けて課題も多い」と話し、田中有理URAも「研究者に伴走しつつ、研究が円滑に進むように企画・提案・支援することが、大学ひいては日本の学術研究の発展につながると思えることがやり甲斐につながっているが、任期付きの場合、関連機関との人事交流などで難しい面もある」と述べる。

 山本氏によると、当初は事務職員の専門能力を高めて対応すべきとの考えもあったが、高度専門職としての配置・育成が進むなか、岡山大学では二人のURAが副理事に登用されるなどキャリアパスが見え始め、博士課程の学生の進路選択肢の一つになりつつあるという。その上で、「大学機能全体を高めるためには、教員と事務職員に加え、URAをはじめとする高度専門職や技術職員がそれぞれの能力を向上させながら協働する体制を確立する必要がある」と述べる。

教員・職員二元論的発想では解決できない問題

 URA制度の普及を強力に後押ししてきた研究大学強化促進事業も2023年度で終わり、補助を受けてきた大学には独自財源に基づく自走化が求められる。

 また、本格導入から10年足らずで急速に普及しつつあるとはいえ、依然として国立中心であり、公立や私立での導入例は全体の一部にとどまる。大学の規模や性格によっては、URAという制度をあえて導入する必要性が低い場合もあると思われる。

 しかしながら、冒頭に掲げた「多様化し高度化する大学の業務を誰がどう担うか」という本質的・構造的な課題は全ての大学に共通であり、これを考えるにあたって、URA制度を巡るこれまでの経過や議論は多くの示唆を与えてくれる。

 現在のURAの機能を、専門能力を高めた事務職員に担わせることができるかと考えると、現実は極めて厳しいと言わざるを得ない。

 研究IR一つとっても、研究活動に対する理解、学術や学会の動向への関心、内外の調査報告等を読みこなす能力、データ分析力などが必要となる。研究者として一定の訓練を受けた人材への期待が高いのはそのためである。これらの能力が備わることで、教員と互いの役割を理解しつつ、協働することができることになる。

 このような問題は研究だけにとどまらない。教育に関しては、教学IRやFD等の活動を担う専門スタッフの必要性が指摘されている。このほか、学生生活支援、キャリア支援、国際交流などの業務でも、これまでにも増して高度な専門能力を有したスタッフが求められることになるだろう。

 そのためには、これらの職に期待する機能、具体的な業務、遂行に必要な能力を明確にするとともに、人材ソースをどこに求め、採用後の処遇、キャリアパス、育成をどうするかなどについて十分に検討しておく必要がある。

 そこには、人件費抑制を余儀なくされるなか、これまでの教員・職員二元論的発想では容易に解決できない難度の高い問題が横たわっている。

 その問題を解く鍵を、URAのこれまでを振り返り、今後のあり方を考えるなかで見つけていかなければならない。


【参考文献】
山野真裕(2016)「大学のリサーチ・アドミニストレーターの導入と変遷に関する日米比較−リサーチ・デベロップメント機能の拡大−」『大学経営政策研究』第6号
山本進一(2019)「解説:我が国へのURA の導入−その経緯, 活動と課題−」『大学評価・学位研究』第20号


(吉武 博通 公立大学法人首都大学東京 理事)


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