「TOYO GLOBAL DIAMONDS」構想の実現に向けて/東洋大学

 東洋大学は、白山・朝霞・川越・板倉の4つのキャンパスに11の学部と3万余名の学生を抱える、私学有数の総合大学である。2012年に創立125周年を迎えた東洋大学では、建学以来の「哲学」を基盤とした教育理念を貫きつつも、グローバル人財育成を掲げた全学教育方針の推進やキャンパスの都心回帰等、今日の大学経営上の課題を先取りする改革を次々と実施してきた。またスーパーグローバル大学創成支援(以下、SGU)への採択を契機として、「グローバルリーダーの集うアジアのハブ大学」を10年後のビジョンに掲げ、新たな基盤教育の整備や新学部・新キャンパスの創設等、更なる成長に向けた戦略を現在進行形で進めている。東洋大学の改革の経緯と2025年に向けた戦略・課題について、竹村牧男学長にお話をうかがった。

創立125周年からグローバル人財の育成へ

 東洋大学の歴史は、井上円了によって1887年に創設された私立哲学館に始まる。「諸学の基礎は哲学にあり」を教育理念として掲げた私立哲学館は、1897年に現在の白山キャンパスに所在地を移転。1906年には私立東洋大学と改称し、三田の理財(慶應義塾大学)、早稲田の政治(早稲田大学)、白山の哲学(東洋大学)と並び称された。「円了先生は、哲学を人々の思想を練磨するものとして考えていた。ここでいう哲学は、フィロゾフィーレン、哲学する、という姿勢に当たるもので、哲学の講義だけで学ぶものではない。大学の全ての科目も含めて、自分の頭で深く本質に迫って考える、という姿勢を、東洋大学は建学の理念として守り続けている」。

 1928年に東洋大学は文学部を設置する単科大学に昇格、第二次世界大戦後の新制度化でも文学部単科の大学として再出発した。戦後の東洋大学は、経済学部(1950年)、法学部(1956年)、社会学部(1959年)、経営学部(1966年)を白山キャンパスに次々と設置するとともに、1961年には新たに開設した川越キャンパスに工学部(現在の理工学部)を設置し、総合大学へと成長を遂げた。その後も、1977年の朝霞キャンパスの開設(当初は文系5学部の1・2年次の教養教育を実施)、1997年の板倉キャンパス開設と国際地域学部、生命科学部の設置、2005年のライフデザイン学部設置(朝霞キャンパス)、2009年の総合情報学部設置(川越キャンパス)、2013年の食環境科学部設置(板倉キャンパス)と、東洋大学の教育組織は深化した。

 2012年の創立125周年事業では、「哲学すること」を根本として国際的に優れた水準の大学を目指す、との「未来宣言」が提示された。またグローバル人財の育成を目指すための教育の3つの柱として、哲学教育、国際化、キャリア教育が掲げられた。「創立125周年事業を一過性にしたくない、これを基盤に発展させようとの意識があった。特に、グローバル化については対応が遅れているとの自覚があったので、全力をあげて取り組んだ」と竹村学長は話す。

10年後の大学像─ TOYO GLOBAL DIAMONDS

 グローバル人財の育成に力を注ぐ東洋大学の方針は、2014年のSGU採択により更なる具体化を遂げた。目標とする改革は「TOYO GLOBAL DIAMONDS」と名付けられ、事業補助が行われる10年間で「グローバルリーダーの集うアジアのハブ大学」を目指す計画である。事業名称は、ダイヤモンドの原石である学生を磨き、輝きを放つグローバル人財へと成長させる、との教育目標に由来する。また、現在はピラミッド型である全学のグローバル化構造に対して、エリートから中核人材まで幅広く育成するプログラムを展開することで、総体的な底上げを実現しようとする意図も込められている。即ち、中間層が厚みを増し、頂点も高くなって、あたかもダイヤモンドの形のような人材集団が形成されるとのイメージである(図1)。

 同事業計画では、分厚い中間層を形成するための幅広い学生を対象にしたプログラムの展開や、リーダー層の育成を図るための先進的な教育組織の新設が掲げられた。具体的な施策例としては、「国際通用性の高い教育プログラム」としてUMAP(アジア太平洋大学交流機構)の活用及び国際編入制度の確立に基づくアジア版エラスムスの実現、「普遍的な全世代グローバル教育」としてUCLA等との連携のもと幼稚園からシニア層までを対象とした英語教育の展開、「持続可能な教育プラットフォーム」として各種国際機関や企業との協力による「東洋グローバルアライアンス」の確立と、それを基盤とした独立採算型の事業法人「株式会社東洋グローバルダイヤモンド(仮称)」の設立等の教育システム・インフラの改革が構想されている。

図1 10年後の東洋大学のあるべき姿― 「TOYO GLOBAL DIAMONDS」構想

新基盤教育カリキュラムの始動と3つの新学部構想

 2016年度には「TOYO GLOBAL DIAMONDS」を支える新基盤教育(教養教育)カリキュラム「東洋大学スタンダード」が始動する。新基盤教育では、哲学教育、国際化、キャリア教育の3つの柱をつなぎ、グローバル人財の育成をより確かなものとする目的で、既存の教育科目の根本的な再編が行われる。具体的には、グローバル人財に必要な素養として設定された7つの目標を、「哲学・思想」「学問の基礎」「国際人の形成」「キャリア・市民形成」「総合・学際」の5つの領域で育成する(図2)。例えば「国際人の形成」領域には、コミュニケーション関連科目や異文化理解に関する科目のみならず、伝統文化等の日本人としてのアイデンティティを理解するための科目も含まれる。また「哲学・思想」領域では、東洋大学の歴史と伝統、創立者の考えを学ぶとともに、東西の哲学を通じて、自ら考え、判断し、行動する能力を身につけることを目指している。

図2 グローバル人財の育成に向けた新基盤教育カリキュラム 7つの目標と5つの領域

 さらに2017年度には、全学のグローバル化を先導する新たな学部として、国際学部(仮称・以下同)、国際観光学部(仮称・以下同)、情報連携学部(仮称・以下同)の設置が構想されている。国際学部はグローバル・イノベーション学科(仮称・以下同)(入学定員100名を予定)と国際地域学科(仮称・以下同)(入学定員290名を予定)の2学科構成が構想されている。このうちグローバル・イノベーション学科では、全授業を英語で実施する、1年間の留学を義務とする、入学定員の30%を留学生とする等の取り組みが計画されており、「行き詰まった社会にイノベーションを起こす、本当の意味でのグローバルリーダーの育成」(竹村学長)を担うことが期待されている。また国際地域学科では既存の国際地域学科をブラッシュアップし、現場を重視した教育をより強化・発展させ、開発支援ビジネスを通じて世界各地域の発展に貢献できる人財の育成を目指す。国際観光学部(入学定員366名を予定)では、「観光立国」を主導する中核人材の育成を目指して、1年次から4年次まで段階的に英語力を高めるプログラムや、アジア圏からの観光者増を想定した中国語の必修化等が想定されている。

 もう一つの情報連携学部(入学定員400名を予定)では、国際社会の情報戦略に長けた人財の育成に向け、異なる国のメンバーで共通の課題に取り組むチーム実習等が企図されている。情報連携学部は、赤羽台に開設される新キャンパスへの設置が構想されている。赤羽台キャンパスでは、学内どこでも利用できる無線LAN等のICT環境に加え、多用途の小規模実習室等、チーム実習を支える各種施設が整備される予定だ。「新学部では、授業内容も最先端のものとしたい。情報連携学部では、全学生にタブレットを持たせ、事前に世界のトップ大学のMOOCs等を受講させ、授業の時間は討論に充てるような、フリップドクラスを多用した授業内容が企画されている」と竹村学長は話す。

加速した将来構想と変革の組織基盤

 「TOYO GLOBAL DIAMONDS」の完成に向け、急ピッチの改革を進める東洋大学であるが、この間の大学の変化について、竹村学長は次のような印象を抱いているという。「125周年事業では、“世界標準の大学へ”との未来宣言を打ち出した。自分としては創立150周年までに達成する目標として示したつもりであったが、SGUへの採択を契機に、達成までの期間が短縮されたように感じている。これは素晴らしいチャンス。大変な課題だが、頑張らないといけない」。

 改革の加速を可能にした基盤の一つとして、竹村学長は「都内へのキャンパス集中を早くに進めていたことが大きい」と話す。東洋大学は、1990年より、都市型大学の再生を目指して、白山キャンパスの再開発を進めてきた。2000年代以降には、工場等制限法廃止の追い風を受け、キャンパスの都心回帰を他大学に先駆けて推し進めた。2005年には、文系5学部の1・2年次の教養教育が白山キャンパスに統合され、4年間一貫教育が開始された(図3)。また、その後に続くキャンパス用地の取得やキャンパスの移転は、大学のみならず、学校法人京北学園との法人合併(2011年)も含め、初等・中等教育機関を網羅した総合学園計画として進められた。法人合併は、井上円了の建学の精神を継承しつつ、幼稚園及び中学校から大学院に至る総合学園として、更なる発展を目指したものであるという。

 これら学部再編やキャンパスの都心回帰等、東洋大学のドラスティックな変革の背景にあるのが、強力な法人組織の存在だ。「理事会、常務理事会の指導力が大きい。頭脳、人脈、広い視野を有する優秀な人材が揃っている」と竹村学長は話す。特筆すべきは理事会の構成である。学校法人東洋大学の理事会は、専任教職員、卒業生、学識経験者が、それぞれ3分の1を占めている。このうち卒業生、学識経験者は、業績及び社会的評価の観点から学外有識者としてふさわしい者が選出される。理事会の約3分の2が学外有識者によって構成されており、大学外の意見が反映されやすいところに、東洋大学における管理運営の特徴がある。

図3 キャンパスと学部の変遷

改革の成果と次なる課題

 東洋大学における改革の現時点の成果について竹村学長は、「少子化の中ではあるが、入学者の学力レベルは上昇傾向にあり、評価されていると考えている」と話す。特に2015年入試では、文学部、経済学部を筆頭に、志願者数が大幅に増加した(図4)。国際化に対する取り組みについても、海外インターンシップの開拓と、参加学生の増加が噛み合って進んでおり、一定の手ごたえを感じているという。また大学全体が未来を見据えた変革を重ねる中で、職員の意欲も高まっている。近年では、大学全体の国際化の方針に対応すべく、英語力を重視した新入職員の採用や海外協定校における長期研修、1年間の国連出向等、グローバル戦略を担う職員の育成が積極的に推進されている。

 一方、東洋大学の更なる成長に向けた具体的な課題としては、語学教育の徹底、研究の高度化、本学の教育研究活動のIRに基づく分析と検証、FD活動による授業手法の改善等による質保証の確立が、一層の力を注ぐべき課題であるという。またSGU構想とも関わり、世界標準の質保証システムの設計に向けた、情報収集、研究、分析機能の強化が企図されている。「アジア版エラスムスを実現するためにも、諸外国の高等教育システムについて専門的な調査や分析を担う組織・人材の配置をしていきたい」と竹村学長は話す。

図4 学部別 志願者数推移 (※第1部のみ)

変わらない理念と、不動の目的

 東洋大学が10年後の完成を目指す「TOYO GLOBAL DIAMONDS」構想は、創立125周年の「未来宣言」で示した方向性のもと、SGU採択事業として具体化されたビジョンである。同構想は、キャンパスの都心回帰をいち早く進めたことによるアドバンテージと、強力な法人組織の存在が改革を加速させたと言える。今後の数年間においても、3つの新学部の設置構想、新たなキャンパスの開設等、目に見える大きな変化が予定されている。

 学長になった2009年からの改革を、竹村学長は次のように振り返る。「東洋大学は明確に変わった。ただ、“哲学すること”を根本とする建学以来の理念は変わらないし、国際化は不動の目的として揺るがない。大きな長期ビジョンを考えつつ、細かい対応は時々に応じて決めてきた」。東洋大学の掲げる時代を超えた理念と目標は、時々の経営・教学上の改革を一過性に終わらせることなく、大学を含めた学校法人全体の持続的な成長へと繋げていくための得難い基盤であるといえるだろう。2025年と、さらにその先の未来に向けて、「哲学をする」ことの伝統がどのように引き継がれ、花開いていくのか。「アジアのハブ大学」を目指す東洋大学の今後10年間の展開から、ますます目が離せない。


(丸山和昭 福島大学総合教育研究センター 准教授)


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