工業系ならではの志向を問うAO創造入試/千葉工業大学

世界文化に技術で貢献する大学

 千葉工業大学(以下、千葉工大)は1942年開設の興亜工業大学を起源とし、2018年度の志願者総数8万449名という人気校(大学通信調べ)だ。5学部17学科という幅広い学びと、津田沼・新習志野・東京スカイツリータウンにキャンパスを擁し、入学定員は1学年約2000名という規模で、「世界文化に技術で貢献する」との建学の精神を守り、時代に必要な技術を追求している。AO創造入試について、津田沼キャンパスを訪ね、入試広報部の日下部 聡部長にお話をうかがった。

基礎学力以外の要素を評価するための多彩な課題演習

 千葉工大がAO入試を導入したのは2001年度。指定校推薦に代わる入試と期待してのことであり、「基礎学力以外の要素をきちんと評価するAOに」と当初から意図していたという。工学部主体の学部編成を鑑み、「ものづくり」人材を選抜するにはどうすればよいか。模索を経てAOが進化したのは2008年度。ものづくりへの目的意識・志向性を「課題演習」という実践によって評価する現在の方式にスイッチしたのである。

 AO創造入試の要素は書類審査、課題演習、面接の3つ。学科によっては2日間かけて選抜を行う。キーとなる「課題演習」は学科により内容がかなり異なる。例えば、2018 年度の過去問題によると、機械工学科では「単2の乾電池を収納できる、底面形状が正6角形の容器を製作したうえで、その容器を垂直方向に5cm上昇させ、次いで5cm下降させて元の位置に戻す装置を製作しなさい」という出題がなされている一方で、情報工学科では「出題内容についての自分の考えを、結論先出し形式で5分程度の発表を行うポスターを作成しなさい」といった具合である。

 選考内容や評価実務は学科主導だが、大学としてのコンセプトを揃えるため、入試広報課主導のAO担当者会議を設置した。4月からAOのある9月まで概ね月1~2回の頻度で開催し、入試設置の意図、評価観点の整理等を行うという。入試広報課は裏方全てを取り仕切るが、課題演習に必要な部材を全学科分揃える調達も含まれる。例えば先に挙げた機械工学科では、配布材料は「単2乾電池1個、工作用紙3枚、厚紙3枚、コピー用紙3枚、セロハンテープ」、作業道具は「工作用マット、直定規、三角定規、コンパス、カッターナイフ、はさみ」とあり、「多様な部材を学科別に志願者数分揃えるだけでも非常に手間がかかります」と日下部部長は言う。あるべき姿を追求するには、検討から実施に至るまで、教職員の多大な尽力があるのである。千葉工大にとっては、それだけの手間をかけてでも続ける必要がある入試とも言えよう。

ものづくりに親しみメタ認知が高い人材が学科教育を牽引する

 では、AO創造入試はどのような出願資格を課しているのか。どの学科も評定平均の条件はない。一方で、全ての学科ではないが、出願資格に「自己評価」が入っているのも特徴的だ。学科ごとに経験してきてほしい内容について、その内容と自己評価を求める。当然そうした内容は面接で掘り下げられ、資質能力の評価に結びつく。自分が何を修得してきたかを自己理解しているということは、メタ認知の高い人材だということであろう。

 また、基礎学力以外の要素を多面的に評価するべく、大学独自のルーブリックを構築。評価の段階は学科ごとに異なるが、概ね主体性の評価に重点を置いているという。「18歳時点の教科・科目の点数はそこまで高くなくとも、『作るのが好き』『やりたいことがある』という人材を選抜したい。そうした人材は、理論に応用が加わってくる3年次以降に、飛躍的に伸びる傾向があります」と日下部部長は話す。専門性が高くなっていくに従って、ポテンシャルとして持っていた目的意識の差が出てくるというのは興味深い。AOは第一志望比率が高く、必然的に大学教育へのモチベーションが高い。結果として各学科の牽引人材となるケースも少なくないという。AOは学内の活性化にも貢献しているのである。

 AO募集人員は学科により異なるが、全学で見ると定員の10%を占める(図表参照)。また、千葉工大には専門高校出身者も12%ほど存在する。2つの属性は「学力以外の要素評価」「目的意識が高い」という点で似ている。「知識重視ではない層が全体の22%存在することは本学の研究開発にも寄与します。多様性はイノベーションを産むからです」と日下部部長は言う。

手厚い入学前教育と仲間作り

 こうした選抜で入学してくる学生について、学科教育で必要な基礎学力はどう補うのか。「もちろん、数Ⅲや数Cを履修していなければ厳しいという学科もありますが、そうした学科は基礎学力重視の入学者選抜の定員を多く配置します。選抜したい人材の異なる多様な方式を設け、定員配置等で学部学科のアドミッションポリシーに合う人材を選抜できれば、それが最善と考えています」と日下部部長は話す。

 なお、入学前のフォローアップとして、大学全体で実施する「科目別リメディアル教育」とAO特有の「ウォーミングアップセミナー」を用意している。前者は英語・数学・物理・化学について習熟度別にクラスを分け、eラーニングで知識補てんを行うもの。中間や期末テストもあるという。「リメディアルとしても機能しますが、それ以上に、大学ではここまでやらないとダメだという意識づけに一役買っています」。基礎学力以外を評価する入試形態でも、入学後に数学や物理が必要になるのは変わりない。AOは青田買いではなく、一般・センター試験で評価できない観点にスポットを当てた入試なのであり、また、学科教育のカレッジ・レディネスは1つではない。「学力もやる気も志向性も全て1つの入試で求めるのではなく、それぞれにスポットを当てた入学者選抜方式の多様性こそが肝要」と日下部部長は言う。

 入学前に2日間かけて行われる「ウォーミングアップセミナー」はさらに手厚い。初日はチームに分かれ、企業研修等でも使われる「プロジェクトアドベンチャー」にて様々な課題解決に挑戦する。2日目は講義とキャンパスツアー等で、大学への理解を深める。セミナーを実施する目的は「同じ志を持った仲間を見つける」ことだそうだ。「その意識を持って学科横断的に人脈を持つことでモチベーション維持にもつながる。AOは一般に比べて入学までの時間があるからこそ、コミュニティー作りには配慮しています」と日下部部長は言う。

トライ& エラーを繰り返して選抜の意義を磨く

 順調に見えるAO創造入試だが、大学教育を通じた付加価値の付け方は今後の課題の1つだという。現在、大学院に進学する研究者志望層には一般選抜の学生比率が高く、AO学生が相対的に少ないのがその背景にある。「本学の場合、基礎学力重視の入試形態で入学した学生の研究志向が高い傾向がある。AOはものづくり等手を動かすことを好む比率が高いため当然の結果とも言えますが、もともとの志向が卒業進路まで一貫して変化しないのは大学教育が変化を促せていないとも言える。多様性を進める中で進路の軌道修正を柔軟に行えるようにしなければいけない」と日下部部長。ポテンシャルを開花させた先にある多様な進路発掘へ。今後の動向にも注目したい。

(カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓)