受験生インサイトに沿った手作りOCを高速PDCAにより頻度高く実現/中村学園大学

中村学園大学キャンパス


塚田昭人氏

 中村学園大学(以下、ナカムラ)は福岡市に立地し、栄養科学部・教育学部・流通科学部の3学部と、短期大学部に食物栄養学科・キャリア開発学科・幼児保育学科を展開する私立大学だ。「栄養のナカムラ」「就職のナカムラ」等、地元を中心に一定のブランド力を有する大学だが、コロナ禍をどのような工夫で乗り切っているのか。入試広報部部長の塚田昭人氏にお話を伺った。

進路選択時期に入試を中心とした情報を確実に届ける

 まず、コロナ前からの学生募集の状況を確認しておきたい。福岡県は九州のなかでも大学進学者の地元残留率が65.9%と高く(2019年学校基本調査より)、他県からの流入も多いため、「募集基盤となる環境は比較的恵まれています」と塚田氏は言う。ナカムラは学部構成的に、地元の大学で免許資格を取得して地元で就職したい学生が多く、7割は福岡県出身だ。募集圏は福岡県を中心とした九州に山口県を加えたエリアとなっている。

 外出自粛で訪問活動ができなくなり、まず実施したのは、進路指導において入試情報が不足しているという高校の声に応え、入試概要の冊子を高校に送り、入試説明動画を制作してYouTubeにアップするという情報提供だった。高校からのニーズはもちろん、背景には短大の募集課題もあった。ここ20年で短大は志願者が半減し、人口動態や進学率の動向からすると今後も回復する見込みは低い。「本学短大の入学生は学校推薦が7割を占めており、高2の3学期と高3の1学期が重要な時期です。ところが今年はそこにコロナが直撃してしまった。今年は短大で総合型選抜を初めて導入したのですが、そのアピールもままならず、募集広報基盤を早期にオンラインに移行する必要がありました」(塚田氏)。高校生の進路選択の重要な時期の母集団形成を目的として生まれた一手が、オンラインのライブOC「Web de オーキャン!」である。

自前主義と高速PDCAにより毎週のWeb OC開催を実現

 初回実施は6月7日。そこから毎週末に実施する形で、お盆までに計8回のOCを実施した。視聴者に参加しているとの印象を与えたいため、できる限りライブで双方向型のイベントとし、オンラインだと画面の中の情報量がリアルに比べるとはるかに少なくなるため、それを補うために複数回実施することに拘った(図:OC参加状況)。注目すべきはそのPDCAの速さである。各回のアクセス数から視聴率の高いコンテンツの特徴を分析しつつ、やってみて出てくる「説明が長い」「もっと学生生活に触れた内容を」といった視聴者目線から捉えた反省点を次の開催に活かすため、毎日部内の会議で共有し、議論し、早期に修正を加える。「毎回同じものではリピーターも飽きてしまうので、そうした点も工夫しています」と塚田氏は言う。総合大学に真似されない差別化をオンラインでどのように発揮できるか。最初は職員主導で設計していたが、回を重ねるにつれて学生スタッフからの提案も増え、より受験生目線のOCへと改善を重ね、後半では職員と学生のMCを配置し、よりライブ感を活かしたナカムラらしいOCを作り上げていった。

 定量・定性の両面から迅速な検証を重ねていったわけだが、これだけの回数を高速でPDCAを回しながら実施できたのは、「自前主義」に秘訣があるという。「自分達で全てのコンテンツを手掛け、学内のリソースで作り上げているため、ちょっとした改変にもすぐ対応できた。コンセプトの共有も容易で、皆が一丸となって当事者意識を持って取り組むことができた。こうした動きは今後オンライン併用型広報活動において広報戦略を担う人材の育成にもなりました」と塚田氏は言う。職員同士だけではなく、学生スタッフには1対1で面談を実施して認識を合わせ、各担当パートでどのようなパフォーマンスをするか相談した。学生スタッフは、自らプレゼンを手掛け、視聴者にとって魅力的にするために方策を練ったそうだ。目指す方向性を揃え、一人ひとりが目的達成のために主体的にパフォーマンスを発揮し、その進捗を日々共有することでチームとしてプロジェクトに取り組むことができたという。

図 OC参加状況

受験生インサイトに寄り添う募集全体設計

 また、ライブ配信のイベント設計のみならず、「動画deオーキャン!」アーカイブの整備、入試相談LINE開設、参加者から寄せられた「視聴者VOICE」ページ、入試担当者とのオンライン相談会等、情報の濃淡も異なる多様な情報提供機会が整備されている。これについては、「受験生の気持ちの揺らぎのステージに細かく対応できるようなオンラインツールを整備しています」という。突っ込んだ話を聞きたい人もいれば一旦概観を掴みたい人もいる。周りの反応を見ながら空気を楽しみたい人もいれば、1対1で深めたい人もいる。コンテンツの差異だけではなく、そうしたインサイトに注目した全体設計で、最終的に志願につながるように導いていく。「オンライン化でも募集エリア自体はコロナ前と変わりませんが、一部遠方からのアクセスも増えている。とはいえ、参加状況は例年の3割に留まりコロナ前の水準まで接点が確保できているわけではない。オンラインはもともと本学の志願度が高い受験生にスピーディーに様々なコンテンツを提供できる良さがある一方で、受験生側が能動的なアクションを起こしてくれないとこちらの情報が行き届かないというデメリットもある。対面だと本学が第一志望ではない受験生にも細かく声かけすることで志願度を高めることが可能でしたが、オンラインだとそれができない。そのあたりを多様なツールで対応していますが、それぞれがどの程度アクションにつながっていくかは今後もよく見ていく必要があります」(塚田氏)。

エリア特性を鑑み併願層の確保と実志願の増加に挑む

 ナカムラ第一志望の受験生がオンラインに多く集うことは喜ばしいが、「コンテンツをしっかり作ることで達成感はありますが、そこで終わってはいけない、フォローが重要」との見解を示す。また、ナカムラは国公立大学を第一志望とする受験生が併願するケースも多いが、新規開拓よりも継続コミュニケーションに向くオンラインが主軸となった前半戦の当然の帰結として、そうした層に確実にアプローチできているわけではないことも今後の不安材料であるという。秋以降もオンラインを主軸とするが、高校訪問も再開する。「九州はまだまだ紙文化が根強く、国公立志向も強いエリアです。保護者や高校教員に確実に訴求しつつ、どういうバランスでやっていくかを模索していく必要がある」と塚田氏は言う。最終的な実志願者数を増やすために、小規模大学としてのメリットを活かした募集をハイブリッドでどう組み立てていくのか。自粛期間はオンラインに注力できたが、対面も再開するなかで、どの程度マンパワーのバランスをとることができるか等、募集広報活動の全体最適化の検討も必要だ。ナカムラの挑戦は続く。


(文・鹿島 梓)


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