総合型選抜 探究・ブレインストーミング型/高校までの探究活動に直結する企業連携型入試で大学ブランディングを進める/高崎商科大学

高崎商科大学キャンパス

POINT
  • 1906年私立佐藤裁縫女学校として開学。1988年に短大を、2001年に大学を設立。「実学重視」「人間尊重」「未来創造」を教育理念とし、現在商学部(経営学科・会計学科)と短期大学部(現代ビジネス学科)を擁する
  • 従来から展開する企業連携教育にマッチする人材選抜の方策として、企業連携型入試を導入
  • 社会のニーズに即しつつ高校の変化に対応する受け皿であり、ブランディングにも資する入試と位置づけ


 高崎商科大学(以下、TUC)は2021年度入試で「総合型選抜 探究・ブレインストーミング型(以下、ブレスト入試)」を導入した。その検討経緯や実施状況について、広報・入試室室長の鈴木洋文氏、入試担当の羽鳥広平氏にお話を伺った。

高校の探究活動に直結する高大接続入試

 ブレスト入試は、3つの「変化」を捉えるために設計された入試である。「社会で活躍できる人材が変わる」→「それに対応するために大学教育が変わる」→「高校教育では探究学習が行われる」。よって、こうした高大を接続する新たな入試が必要という流れだ。入試設計全体が面白法人カヤックとの協働実施であり、企業連携による入試は全国的にも稀である。名称に「探究」を入れた意図は、「高校との教育協働への意志」であると鈴木氏は言う。2022年度より年次進行し2024年度には全面導入を控えた新学習指導要領では、探究がテーマとされ、自ら主体的に問いを立てて行動し、アウトプットを出して結果を検証する、というサイクルを回すことが求められる。現在はその黎明期、改革校による先行事例が展開されるも、大半の高校では「探究とは何か」「生徒の今後にどう役立つのか」といった納得感が持てずにいる声が多く聞かれる。「本来は本質的に取り組むべき探究についてどう取り組んでいいか分からない高校が多い。特に科目の先生からすれば、探究がどう入試につながるのかを考えてしまうのは当然のことです。だからこそ、高校で取り組む探究の延長線上に本方式を位置づけつつ、教育接続観点で真の探究を理解し、入試を通じて一皮むけてもらいたいと考えました」と鈴木氏は言う。


図1 選抜概要
図1 選抜概要


 選抜は図1に示す通り、エントリー後に試験を受け、その後希望者が出願するという形だ。

 まずエントリーである。自分のプロフィールと、「志望理由と学科選択理由」「高校時代に力を入れてきたこと」「入学後どんな学生生活を送りたいか」「卒業後の進路をどう考えているか」の4点について記述する。これらは集団面接で掘り下げるための項目で、この工程での選抜は行わない。本試験ではまず入試名称にもなっているブレストグループワークを、鎌倉のIT企業、面白法人カヤックが考案するブレストツールを用いて行う。グループには事前に研修を受けたTUCの学生がファシリテーターとして入るのも特徴的だ。「有機的なブレスト成立のためには、気軽に意見を言ってよいのだという心理的安全性をファシリテーターがいかに醸成できるかが重要です」と羽鳥氏は言う。選抜過程でそうした場作りを学生が主体となって担う教育的価値も大きそうだ。「受験した高校生同様、ファシリテーターの学生にも研修時点でフィードバックがあり、高校生も在学生も成長する入試になりました」(羽鳥氏)。ほかに、読解力と数的理解を測るためのペーパーテストと、先述した集団面接が実施される。


ブレストグループワークの様子


実業界で活躍する卒業生を輩出するための実践教育

 こうした入試が実現した背景には、建学の理念に裏打ちされた実践的な企業連携教育がある。

 発端になったのは「3.5本の矢プロジェクト」だ。これは、各業界で先進的な活動を行う企業と連携し、次世代を担う学生を育成しようとする取り組みである。「与えられるものをこなすだけでは社会の流れに追いつけない。我々は、授業で一方的にインプットするだけでは通用しない時代を生き抜く学生を育てたい」(鈴木氏)。教育自体を社会のリアリティと連携させなければならないとの課題感から、インプットに長けた大学教員とリアルなアウトプットが可能な企業の両輪で構成するカリキュラムの構築に至ったのが2014年。在学中に企業連携活動を豊富に経験し、AIやロボティクスが前提となる社会で活躍できる人材育成を目指すというコンセプトに共感し、アドビシステムズ、楽天、電通等、多くの企業が参画した。企業からのお題に対し、学生が企業と協働しながらアウトプットを構築するプロジェクトで、学生は挙手制で応募する。企業・学生双方から好評を得て、現在は全員必修の「達観シリーズ」と称する企業人の哲学や思考にスコープを当てた企画へと展開が広がっている。そうした企業連携の1つであったカヤックとの協働において、「企業の採用と大学の入試が似てきている」という会話から、実業界で活躍する人材を育成するというTUCの理念に合致した教育、その教育に合致する志願者を入試工程で丁寧に見定めるために設けたのがブレスト入試というわけである。


「3.5本の矢プロジェクト」「達観シリーズ」イメージ画像


明快に「何をどう評価するのか」評価割合を公表

 では入試で何をどう評価するのか。図2に示す通り、TUCでは各入試評価を明快に公開している。評価する素養については在学生の教育成果等をIRで分析して決めたという。「本学では、自己肯定感が高い学生の活躍度合いが高い傾向があるため、主体性の高い学生を多く募りたい。あるいは、今主体性が必ずしも顕在化していなくても、その素養がある学生をブレストグループワークの中で見定めたい。例えば、集団で自分の役割を俯瞰的に考えられる人、個の力で突破できる人、優秀なフォロワーである人。つまり、協働のマインドが基盤にあって、自分なりのやり方でチームに貢献できる人です」と羽鳥氏は言う。


図2 総合型選抜の評価割合
図2 総合型選抜の評価割合
※1 書類審査では、調査書、志望理由書、推薦書、活動報告書を活用(入試により異なる)。


理念に基づく接続入試を育てて大学ブランドに仕立てる

 入試結果はどうだったのか。「想定はしていたが、やはり志願者は極端に少なかった」と鈴木氏は言う。高大接続として実施していたワークショップに参加したうえで他方式を受験し入学に至ったケースもあるが、あるべき論のど真ん中を直球で射貫く入試であるが故に対策がとりづらく、ハードルは高かったようだ。しかし、「これから高校の学習指導要領が変わり、探究学習が全国的に推進されることで、受験者が増えていくのではないかと期待している」と鈴木氏の声は力強い。入試としての精度は高いため、どう募るかが今後の課題だという。「例えばICUやSFCは教育接続型入試でもしっかり集まりますが、本学はまずブランド力をより確固たるものにしていかなければ、結果は出づらい」(鈴木氏)。高校の教育改革のベースが整う2024年度。そこまでに強いアイデンティティを持った大学になるよう改革をより進めることで、この入試が大学の存在価値を象徴するフラッグシップとなる。「それまでは入試を育てるフェーズと位置づけ、入試広報発の大学改革を加速させたい」と鈴木氏は締めくくった。

 建学の理念を体現する教育を実践し、そこで活躍できる素養をIRで見極め、入学時に必要な素養を入試で問うという原則は、時に偏差値や「志願者数の最大化」という経営課題とハレーションを起こす。そこを貫くには、大学名から想起される価値で志願者が集まるというブランド力をセットで構築する必要がある。TUCはその方策として、理念に基づくこの入試を育てて大学ブランドに仕立てることを志向するという。この入試を通過した入学者の質が大学ブランディングという文脈で検証できるようになるまで、どうか長い目で入試を育てて頂きたい。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2021/5/18)