一般選抜(未来構想方式)/視点をつくる。自分らしさはそこから生まれる。/産業能率大学

産業能率大学キャンパス

POINT
  • 1925年創立の日本産業能率研究所を起源とし、即戦力となるプロフェッショナル人材の育成を通じ、産業界の発展に貢献し続けてきた大学
  • 経営学部(経営学科・マーケティング学科)、情報マネジメント学部(現代マネジメント学科)の2学部3学科を展開し、入学定員810名に対し一般入試・センター利用入試で8085名の志願者を集める(2020年度入試)
  • 「持続可能な多様で豊かな社会を創るため、主体的に社会に関わり未来を切り開く人材」を選抜するべく、2021年度一般選抜において「未来構想方式」を導入。スマホを利用できる入試としてメディアでも注目されたが、その実は産能大独自の教育とのマッチングを測る意味合いが強い


産業能率大学(以下、産能大)は2021年度一般選抜において「未来構想方式」を導入した。その検討背景や意図について、入試企画部長の林 巧樹氏にお話を伺った。

持続可能な多様で豊かな社会を牽引する人材を選抜する

 まず、方式の概要を見ておこう。HPによると、この方式が求める人材は以下の通りである。


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2020年世界中の人々は、予想だにしない事態に見舞われ、かつてない経験を強いられており、「持続可能な多様で豊かな社会」を目標とする社会形成に本気で取り組むことが求められています。「未来構想方式」では、「持続可能な多様で豊かな社会」をつくるため、主体的に地域社会やAIなど先端事業に関わり、未来を切り開きたいと考える人材を求めています。具体的なイメージは以下の通りです。

  • 社会課題に対し、主体性を持って向き合うことができる人
  • 高校時代に探究学習、課題研究に取り組み、意欲的、積極的に行動できた人
  • 個人やチームで正解のない問いの解を考えることに興味を持ち、身の回りの課題に対し自ら考え行動したことのある人
  • 地域課題に問題意識を持ち、将来「起業家」や「組織のリーダー」となり、課題解決の担い手となることを目標とする人
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 こうした人材を獲得するべく、一般選抜にて3学科各5名の定員を配し、科目試験と本試験の2段階で試験を構成する。詳細は図1にまとめた通り、学力の3要素のうち主に基礎学力を科目試験として大学入学共通テストで、思考力・判断力・表現力を本試験の記述で問う形だ。大学入学共通テストで50%以上の得点をもって次のステップに進むボーダーとし、出願時に記述した事前記述と、試験当日に記述する未来構想レポートの2本を総合評価する。


図1 選考の流れ

産能大の教育に接続でき、かつ高校までの学習を評価できる方策を探る

 国の高大接続改革議論を発端に学内で具体的な入試検討に入ったのは2018年頃からだ。「学力の3要素評価は本当に本学にとって意味があることなのか、特に主体性・多様性・協働性をどう扱うべきかについて、他校事例を参考にしながら議論を重ねました」と林氏は当時を回顧する。国の方針に対して多様な現場判断が行き交うなか、改めて改革の趣旨を振り返り、「方法論によらず、高校で学んできたことを正当に評価し、かつそれを大学の学びと接続させるのが改革の肝である」との結論に至る。その趣旨に沿い、志願者が集まるかを度外視してゼロベースで設計したのが未来構想方式なのだという。

 「本学は地域創生にも力を入れています。経営学の知識を地域フィールドで実践し、検証サイクルを回すことで学んでいく。そうした教育を受けたいと、離島・中山間部からの入学者が増えていた時期でした。こうした本学の学びへの適性を問うことで、社会の課題に向き合うスタンスを汲み取ることができるのではないかと思った」と林氏は言う。2021年度からは経営学科3年次で選択する分野「ユニット」に地域創生も加わり、地域創生人材育成の動きが強化されることも方式導入の背景にあるようだ。

 また、産能大は高校の探究活動の支援を行っているが、「探究を一所懸命やればやるほど科目の試験対策が遅れる矛盾をどうすればよいのか。しかし、教育接続を考えた時、本学ではむしろ探究のマインドセットがされている学生のほうが伸びることに気づきました」。高校までの蓄積を評価しつつ、教育接続を問う入試を設計するという方向性が徐々に定まって行ったのだという。

 産能大のHPには、「SANNOの学び」サイクル、各フェーズ・年次で行われる知識学習と実践学習の接続と階段の上り方が示されている。これらは入試改革と並行して議論し、2019年から展開されている教育フレームだ。産能大ではどの学科でもこのフレームの中で多様に関わり、ALとPBLで学び合う。社会変化に合わせて教育を改革してきた、まさに「持続可能な多様で豊かな社会」を形成する人材を育てる教育を実践する大学だからこそ、そのために必要な素養を全学的に入試で問うことができたのだろう。


図 SANNOの学び



学修システム


自らの視点で問いを立てる力を問う

 では、再び図1を見ながら、選抜の詳細を見ていこう。

 まずは大学入学共通テストである。これは物事に取り組むに当たり最低限必要な基礎学力を測定すること、及び高校までの学習を評価する位置づけで設けられている。次の工程に進むには得点率50%以上が必要だが、これは、大学入試センターが試行テスト段階で初年度目標平均点として公表していた50~55%という値に準拠する。一方で、私大の一般選抜で国語は現代文のみを対象とする大学が多いなか、古文・漢文は対象に含めた。これは「試験のための勉強を強いるのではなく、高校での学びをきちんと評価することが大学入試における接続観点の1つだと考えているため」だという。

 次に、2つの記述である。まずは事前記述課題だが、これは主体的なスタンスと高校までの経験を問うために設定されたものだ。ここで問われる「未来への意欲」は、自分が当事者意識を持てる内容に置き換えないと記述できない内容である。林氏は、「どの大学に対しても雛形のコピペで対応できてしまう一般論ではなく、テーマに即した主体性の具体を、自らの経験に基づいた思考として書いてほしい」とその狙いを説明する。事前課題とすることで保護者が書いてしまう可能性は否定できないものの、「このプロセスだけで合否を決めるのであれば問題だが、本試験も踏まえた選抜なので問題なかった」と林氏は言う。何より、親が書いたからといって良い内容とは限らないという確信もあった。ここで問いたいのは、レポートにもつながる自らの視点であるからだ。

 未来構想レポートは、サンプル問題にあるように、実在する村や島の衰退から、そうならないためにはどの段階でどういう打ち手を講じれば良かったと思うか、自らの視点で分析し、提言する力を問う内容だ。情報収集のためにデバイス利用が許可されているが、これはデバイスを使うほうが測りたい力を測れるからだという。「データを読み解いたり、周辺情報を集めて仮説を立てたり、ベンチマーキングから参考情報を引き出したり、社会活動を成り立たせている様々な行動能力を入試で問いたい」(林氏)。現在「検索」という行為は基礎行動であり、そこを逆に開放したほうが実社会に近い状態での活用力が測れると踏んだのだ。問いたいのは「自らの視点で問いを立てる力」であり、情報を検索できたほうが仮説は立証しやすい。そこで必要なのは想像力や分析力であり、情報統合力である。

★サンプル問題 【外部リンク】https://www.sanno.ac.jp/exam/system/general/qi05c50000002pu4-att/sample_problem.pdf

総合評価で顔の見えるコア学生を教育に配置する

 最終評価は、2つの記述の総合評価である。総合評価とは、4名いる評価者それぞれの評価について、ばらつきがあるのを前提に、点数を単純平均せず、一人ひとりの受験者の納得できる判定を評価者全員で話し合うプロセスである。「本学の教育にフィットすることが予め検証されているコア学生を選抜するため、丁寧な設計にしています。そのコア学生を初年次ゼミに分散配置することで、教育に向かう姿勢を波及していってくれることが期待できる」と林氏は言う。

 なお、主体性評価の代名詞といえば面接があるが、林氏は「面接をしようという発想はなかった」と言う。「これだけ自分の言葉で書く工程を選抜に入れ込めば、自ずと顔や思考は見えてきます。本学でも総合型選抜等では面接を用いた選抜を行っていますが、今回は趣旨に照らし記述というプロセスを採用したまで」と林氏の言葉は明快だ。「一般選抜での主体性等評価」と聞くと、方法論として面接を固定的に捉える大学が多く、また一般選抜の志願者数の多さから面接では無理≒主体性等評価は無理という判断に至る大学が大半であるなか、面接以外の手法で教育接続観点からも主体性を問うているのは貴重な事例と言えるだろう。

高校までの学習をきちんと評価する高大接続を強化する

 初年度は15名定員に対し、25名志願、17名合格、13名が入学に至った。「量を集める入試ではないため、まずは成立したことに安堵しています」と林氏は言う。今後は入学した13名の入学後の成長を追い、入試成果の検証をしていきたいという。「本学は経営やマーケティングという視点で地域創生の担い手を育てていきたい。そうした人材がまた本学の教育のコアとなり、新たな発展につながると期待しています」。次年度は未来構想方式の日程を増やすことや、科目試験部分のチューニングを予定している。「より多くの学生の、高校までの学習をきちんと評価することで、高大接続の意味合いを強めたい」と林氏の言葉は揺るぎない。高校で本格的に探究が始まる5年後に向けて、産能大の進化が楽しみである。


カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2021/5/25)