Vol.62 葉っぱ切り絵アーティスト／リト
【Profile】リト＠葉っぱ切り絵／1986年、神奈川県生まれ。葉っぱ切り絵アーティスト。ADHDによる過集中などを活かすために、2020年より独学で制作をスタート。SNS に毎日のように投稿する葉っぱ切り絵が注目を集める。その作品は、国内外のメディアで紹介され今や大人気作家に。
｜みんなと同じようにできない…苦悩の日々
2020年1月から葉っぱで切り絵を作る「葉っぱ切り絵アーティスト」として活動しています。今年は百貨店での初作品展と、初作品集の出版を実現できました。２つとも葉っぱ切り絵アートを始めたころからの夢だったので、ものすごく嬉しかったですね。でも、子どものころからアーティストになりたいなんて思ったことは一度もなくて、あることが転機となり、アートの道に進んだのです。
高校時代はゲーム一色の生活で、将来のことは何もわからず、不安しかなかった。特になりたいものも勉強したいこともないけど、すぐに働きたくないからとりあえず大学に行くことに。
卒業後は当時アルバイトをしていた寿司店にそのまま就職しました。でもいつまで経っても周りの人たちみたいに要領良く仕事をこなすことができませんでした。特に「臨機応変」というのがすごく苦手で。いつもと違う、イレギュラーなことが起こるととたんに頭が真っ白になって固まって動けなくなっちゃったり。また、一つの作業を始めると集中しすぎて周りが目に入らなくなったり。毎日のように怒られてたので、仕事に行くのが恐かったですね。
７年目に退職してその後２つの会社に転職したのですが、やはり同じような理由で長続きしませんでした。なぜだろうと思い、「要領が悪い性格」とかで検索したら「発達障害」という言葉に出会いました。その特徴が全部見事に自分に当てはまったので絶対発達障害だと思い、その足で病院に行くと、やはりADHD（注意欠陥・多動性障害）という発達障害の一種だと診断されたんです。このときはホッとしましたね。自分の能力のせいじゃなかったんだと思えたし、これまでうまく噛み合っていなかった人生の歯車がガチャっと音を立てて噛み合った音が聞こえた気がしました。僕の人生で最初にして最大の転機ですね。
その後、就職支援の講座を受けることに。でも授業が退屈で、なんとなくノートの隅に落書きを始めました。絵なんて全然勉強したことなかったのですが、集中力だけは人一倍あることが自分でもわかっていました。だから、画力がなくても、集中力だけで作品を作りあげることで、もしかしたらADHDの強みを発信できるかもしれないと思いついたんです。そこで1週間かけてノートにボールペンでものすごく細かい点描画を仕上げました。SNSにアップしたら思った以上にたくさんいいねがついたりコメントがもらえたので、それ以降毎日細かいアート作品を描いてSNSに投稿するようになりました。これがアートの方向に進んだ最初のきっかけで、2番目の大きな転機ですね。
でもなかなかいいねもフォロワーも増えませんでした。そんなある日、たまたまネットでスペインの作家の葉っぱで作った切り絵を知りました。その瞬間、大きな衝撃を受け、すぐ外に出て葉っぱを拾ってきて、その日の夜に作ってSNSに投稿したんです。それ以降毎日投稿し続け、半年くらい経ったころ、「葉っぱのアクアリウム」という作品に３万いいねが。これをきっかけに作品が売れるようになり、葉っぱ切り絵アーティストとして生活できるようになったんです。
｜熱中していたことを思い出してみよう
高校生のなかには将来の夢なんかわからない、自分には何の才能もないと思っている人も多いと思うのですが、振り返ってみると、好きで熱中していたことがあるはずなんですよね。嫌いなことってどうがんばってもできないんだけど、好きなことなら他人にとっては苦痛でも全然苦じゃなかったりする。だから「好き」というだけで才能なんですよ。そして、僕の場合は一般の会社で働くうえでは弱みだったADHDの「過集中」が、細かいアート作品を作るうえではこれ以上ない強みとなります。つまり戦う場を変えると障害が武器になるわけです。だからこれまで熱中していたことを思い出したり、それが活かせそうな世界を探してみてはいかがでしょう。｜Change in myself
初めて描いたカラーボールペンによる作品。
見た人はよくこんな細い絵を描けるねと驚くが、自分は苦にならない
2021年1月、福岡で初の作品展を開催。
出展した作品が即日完売するなど、新しい経験に
2021年1月、夢だった初作品集
『いつでも君のそばにいる 小さなちいさな優しい世界』（講談社）を出版
（取材・文／山下久猛 撮影／竹内弘真）
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「希望の道標」Vol.62 葉っぱ切り絵アーティスト／リト
