Vol.74 上古町の百年長屋 SAN/金澤李花子
【Profile】かなざわ・りかこ●1993年、神奈川県生まれ。新潟明訓高校時代は吹奏楽部でクラリネットを担当。現役で神奈川大学に合格していたが、東日本大震災で入学を断念。新潟で浪人生活を送り、専修大学法学部政治学科に入学。国内外の政治を学ぶ。卒業後、グラフィティに入社。若者向けカルチャー雑誌の編集な どに約5年間従事。その後アマナに転職し、広告制作業務や地方自治体の媒体制作などを担当。2021年退職し、新潟市上古町商店街に上古町の百年長屋SANを知人と設立。副館長として活動中。
2021年、東京から新潟に戻ってきて、上古町商店街に「上古町の百年長屋SAN」(以下、SAN)を立ち上げ、副館長を務めています。SANは喫茶店や生花店が入っているほか、旅行で訪れた人に観光案内などをしています。
|原点は高校時代にあり
上古町商店街にこのような施設を作りたいと思った原点の一つは高校時代の経験にあります。家では親から勉強しなさいと言われるので、放課後は上古町商店街で遊んでいました。通ううちに古着屋の店主と仲よくなり、いろいろと話をするのが楽しかった。上古町商店街は私にとって息抜きができる心地よい居場所だったんです。
高校卒業後は地元を離れ、東京の大学に入学したのですが、そのときから将来は新潟に帰ると決めていました。大学卒業後は出版社に入社。編集者として、カルチャー雑誌や大学の広報誌、企業の採用パンフレットを作っていました。すごく忙しかったのですが、やりたいことをやれていたので楽しかったですね。
5年ほど働いた後、将来新潟に帰ったときのためにビジネスにおけるお金の流れを勉強したいと思い、広告会社に転職しました。担当していたのは大企業の広告制作における撮影ディレクション。有名芸能人や大御所フォトグラファーはじめ、1案件で100人くらいのスタッフが動くような、まさに東京の仕事といった感じのキラキラした現場でした。
そんな仕事を1年ほど続けたある日、見ていたドラマの登場人物が「東京は夢を叶える場所じゃなくて、叶わなかったことに気づかずにいられる場所だ」と言いました。そのセリフを聞いたとき、まさに自分のことだと大きな衝撃を受けました。東京でなければできない経験を積んで、新潟に帰りたい。そう思って働いていたことを思い出したんです。
それで社内の地域活性促進部に異動。いろいろな自治体のWEBサイトやビジュアルを制作したり、イベントを運営していたので、月の半分は日本全国を飛び回るような生活となりました。しかし、しばらくしてコロナ禍で出張があまりできなくなりました。リモートワークが可能になったので、月の半分を新潟での生活にまわせないかと思い上司に相談。了承いただけたので、2020年9月から新潟と東京の2拠点生活を始めました。
|自分とみんなの居場所を作りたい
月の半分を新潟で生活するようになって、上古町商店街を歩いたとき、自分自身が心地よくなれる、そして20〜30代の若い人たちが街中で交流できるような場所があればいいなと思いました。イメージをイラストに起こしたフリーペーパーを作って、知り合いの書店に置いてもらったところ、ある日、たまたまそれを見た上古町商店街で雑貨とデザインの店を営む方が、一緒にやろうと言ってくださったんです。最初は自分でお金を貯めてやろうと思っていたのですが、人と一緒なら挑戦できると思い、会社を退職。2021年9月にフリーランスになり、12月にSANをオープンしました。
SANでは副館長という肩書ですが、営利目的の「仕事」ではなく、私自身といろいろな人々にとっての心地いい居場所であり続けるための「活動」と認識しています。ですので、生活するためのお金は企業や行政の媒体制作で作っています。SANを始めて2年半ほどですが、平日はたくさんの地元の方々が、土日は観光の方々が来てくれています。中にはここが気に入って北海道から3カ月に1度通ってくれる人もいるんですよ。高校生のときに上古町商店街に助けられたので、今は私が居場所を提供できる立場になれて嬉しいです。
生まれ育った地元から出て生活してみると、地元にあるもの・ないもの、いいところ・悪いところがよく見えてきます。私がSANを立ち上げられたのも、一度新潟を離れたから。もしいつか地元の外に出てみたいと思っている高校生の皆さんも、気軽に一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。新たな人生の可能性が生まれるかもしれませんよ。
|Change in myself
若い世代が実際に町を知る・見る・体験する機会を提供しようと、新潟市、新潟日報、新潟商工会議所の皆さんと半年かけて構想した
「にいがたまちあそび学校KAIKOU!」が今年春、オープンしました。私はプロデューサーとして関わりました。
高校時代の友人とはSANで同窓会をしたり、結婚式に参加するなど、今でも交流が続いています。
上古町商店街にはおいしいラーメン屋さんが多く、しょっちゅう頂いています。暖かい季節は外で食べるのが好き。
(取材・文/山下久猛 撮影/竹内弘真)
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「希望の道標」Vol.74 上古町の百年長屋 SAN/金澤 李花子