カレッジマネジメント Vol.210 May-Jun.2018

人生100年時代の社会人教育

リクルートが行う調査データ、国内外の先進事例、人材市場、専門家の解説などにより、「高等教育経営のサポート誌」としてタイムリーなテーマを発信しています。

編集長が語る 特集の見どころ

  働く人が主体的に学び、キャリア形成を支援する教育訓練給付制度が導入されたのが1998年。

 当時筆者は、社会人の学びをサポートするリクルートの情報誌「ケイコとマナブ」の商品企画責任者だった。1997年の山一ショックの記憶に象徴されるように、不景気のまっただなか、1999年の大卒求人倍率は1倍を切り“就職超氷河期”と呼ばれた時代だった。インタビューした有名大学文学部の女子学生は、就職活動がうまくいかず、卒業後専門学校に進学し直して、資格の欄を埋めて、自信を持って就活に臨みたい、と語っていた。当時の支援の主たる目的は、失業対策、若者の自立支援であり、人気を集めたのは、パソコン教室、英会話学校だった。

 それから20年、状況は大きく変化している。人生100年時代と言われる一方で、産業構造が大きく変化し、企業の寿命は30 年から20 年弱まで短くなっている。IT 化、グローバル化、技術革新のスピードが加速するなかで、企業の寿命より人間の就業期間のほうが長くなっているのである。「一社で勤め上げる」という言葉も、今の30歳代にとっては、既に過去のものとなりつつある。まさに、会社に頼るだけではなく、個々人が自律的にキャリアをデザインする時代になっているということである。人生100年時代にあっては、かつての「学ぶ時期→働く時期→老後」といった人生3ステージではなく、「学ぶと働くが相互に行き来する」人生に変わってくるといわれている。当然、支援のあり方も変わってきて然るべきである。そうした時代の変化に対応した社会人の学びとはどのようなものなのかを考えるために、今回の特集を企画した。

 これからの社会人教育に求められているのは、個々人のキャリアに寄り添った学び方や支援のあり方であり、時代の変化に合わせたセーフティーネットと高度化への対応ではないだろうか。本来であれば、高等教育機関はこの変化に対して大きな役割を果たすべきである。しかし、日本は欧米諸国に比べて高等教育機関での社会人比率は依然として低いままである。では、日本の社会人の学習意欲は低いのだろうか。厚生労働省の能力開発基本調査によると、ビジネスパーソンが主体的に学んでいる割合は46%と約半数である。さらに本誌でも紹介しているが、昨年末にリクルートキャリアとリクルートワークス研究所が実施した調査では「自主的に学んでいる」と回答した社会人は70%に上っている。一方、学ぶ場としては、文部科学省の調査(下図)によると、民間の教育訓練機関が8割を超えている一方で、大学、大学院、専門学校は1割に達していない。学ぶ意欲がないわけではなく、学んでいないわけでもなく、高等教育機関で学んでいないということなのである。労働政策研究・研修機構の調査によると、民間の教育機関(教育訓練プロバイダー)の市場規模は、1兆3000億円程度(2007年)と推計されている。

 では、社会人が高等教育機関で学ぶことのハードルは何なのであろうか。これは、「費用」「時間」「内容」「評価」といわれている。まず、「費用」については、政府も一般教育訓練給付金に加えて、より中長期的キャリア形成を支援するための専門実践教育訓練給付を拡充しようとしている。「時間」については、Ed-tech(education+technology)と言われるオンライン講座をうまく活用して、リアルの授業をブレンディッドされた講座や、教科・科目を期限を決めず柔軟に取得できるモジュール型のカリキュラムが人気を集めている。「内容」については、文化教養や資格取得といったものだけではなく、これからの時代を創造するための高度な研究に基づいた、体系的で実践的なカリキュラムが人気を集めている。そして「評価」。ここについては、資格取得が仕事に直結する分野が先行し、終身雇用を前提とする一般企業は遅れていたように感じる。しかし、多くの企業が産業構造の変化、高度化への対応を迫られている。そのための学び直しは今後必須である。ますます高度な学びの社会的ニーズが高まることは間違いない。

 しかし、前述したとおり、社会人にとって必ずしも高等教育機関で学ぶ必要はない。高等教育機関は、減少する18歳人口の補填として社会人教育を考えていてはいけない。その発想から、早く抜け出す必要がある。社会人は、自ら汗して働いたお金を拠出して、目的意識を高く持って、学んでいる。全く18歳とは異なるマーケットなのだ。この点を忘れてはいけない。2019年には専門職大学が新設される。先に制度化された専門職大学を含め、社会人が学ぶための“システム”は充実してきた。しかし、実際そこで学ぶとは限らない。これを機に、社会人が学ぶための経済的なサポート、時代の変化に対応した実践的で機動的な教育プログラム、学修成果を示せる質保証の仕組み、こうした点を改めて検証する必要がある。事例でもご紹介した通り、社会人が多く学んでいる高等教育機関も増えている。ポイントは、学習者の立場に立って考えられているかどうかである。社会人が高等教育機関で「学びたい、学んでよかった」と思えるような仕組みづくり、各高等教育機関の対応が求められている。

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩

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