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経済的要因による学生の休学と中退

1. 中退はなぜ問題か

 日本では、これまで大学の中退はそれほど注目されてこなかった。中退者が人数的にも少ないこともある。アメリカでは卒業率が6年間でも7割に満たず、大きな問題となっているのとは対照的である。アメリカでは学業継続(persistence)や卒業(completion, success)に与える要因について多くの研究が見られる。これに対して、日本では中退の理由として主に心理的問題や家庭問題が取り上げられてきた。

 しかし、2014年に文部科学省「学生の中途退学や休学等の状況について」調査の結果が公表され、経済的要因が大学・短期大学の中退の理由として20%を占め、最大の要因であることが明らかにされたことから、にわかに経済的要因が注目されるようになった。ここで重要なことは、経済的要因による中退は、学生への経済的支援等の施策により改善可能であるということだ。他方で、中退に至る要因は複合的であることには十分注意する必要がある。例えば、慢性的な家計の経済的困窮により家族からの経済的支援が受けられず、アルバイト過多となり単位が十分取得できなかった結果、休学、ひいては退学に至るケースがある。この場合中退の最大の直接要因はアルバイト過多であるが、その根底に経済的要因が潜んでいる。

 私達は、こうした中退に至る複雑なプロセスや日本の大学における休学や中退の現状と課題、とりわけ大学の取り組み状況と課題について明らかにし、今後の学生への経済的支援に対するインプリケーションを得ることを目的とした調査研究を続けてきた※1。さらに、平成27年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「経済的理由による学生等の中途退学の状況に関する実態把握・分析等及び学生等に対する経済的支援の在り方に関する調査研究」を受諾し、以下の調査を実施した。

(1)全国大学訪問調査
(2)全国大学・短期大学アンケート調査
(3)中退者ウェブモニター調査

 ここでは、こうした調査から浮かび上がった、経済的理由による休学や中退の要因と大学の対応について、一端を紹介する。詳細は同調査報告書として、文部科学省ウェブサイトに掲載されている。

2. 全国大学訪問調査と全国大学・短期大学アンケート調査の結果から

 全国の国立大学と私立大学から、規模・地域・中退率を考慮して計20校(国立5校・私立15校)を選定して、訪問調査を実施した※2。訪問大学には、丁寧に対応して頂き、多くの知見を得ることができた。改めて感謝申し上げる。

 また、2016年1・2月に全国の全ての大学・短大を対象としたアンケート調査を実施した。主な質問項目は、授業料滞納の状況と学生への経済的支援の状況、除籍者・中途退学者の状況、休学者の状況、経済的状況の急変者に対する対応についてである。回答校数と回答率は、国立大学75校(87.2%)、公立大学61校(72.6%)、私立大学358校(57.9%)、公立短大11校(64.7%)、私立短大198校(58.1%)、計703校(61.3%)であった。多忙な中で多くの集計を含む煩雑な調査にご協力頂いたことにこの場を借りて御礼申し上げる。以上の調査から浮かび上がった休学や中退の問題と大学の対応について紹介したい。

中退と除籍の相違について

 まず、中退と除籍の定義は大学により相違していることが明らかになった。大別すれば、中退は本人の意思に基づくもので、具体的に言えば、退学届を提出した場合が中退扱いとなる。除籍はそれ以外とする大学が多いが、懲戒の場合は中退とする大学と除籍とする大学に分かれる。また、授業料(4)将来の借金を恐れ、貸与奨学金を借りない傾向(ローン回避)からアルバイトに時間を取られ、学業不振になったため(5)経済的困窮が心理的圧迫となり、学業不振や学校不適応になったため(6)奨学金を保護者や家族が使ってしまい、授業料を払えなかったためまた、就職や進路変更を理由とする中退者の中にも、その背景要因として経済的困窮がある場合もある。このように、単一選択式の退学理由を尋ねる調査では経済的理由として挙げられないが、実際には経済的要因が複合的に絡んで中退に至るケースがある。私学の約半数が休学中も学費納付経済的理由による休学や中退や除籍の防止のための大学の取り組みとして、授業料減免や給付型奨学金を用意したり、延納・分納を認める、あるいは本人もしくは保護者に連絡をつけ徹底した防止策を講じる大学もある。これに対して、学則を機械的に適用して期日までに授業料未納の場合は直ちに除籍する大学もある等、著しい差が見られる。休学や中退・除籍に関する扱いが大学によって差異があることと関連して、休学中の授業料の徴収状況を図1に示した。国公立大学では原則として授業料を徴収していない。「その他」は、学期途中で休学した場合に徴収するケースである。私立大学の場合には不徴収は53%と約半数にとど滞納については多くの大学では除籍にしているが、中退とする大学も見られる。全体として約半数の大学が除籍について、「死亡」「懲戒」「修学可能年限の超過」「学費未納」以外の理由で除籍としている。このように、中退と除籍の区別について統一基準・定義は存在しない。

経済的理由による中退と除籍

 純粋に経済的理由での中退や除籍は、学費・生活費が負担できない場合と考えられる。経済的理由が絡む複合的な要因による休学や中退には次のような場合がある。
(1)成績不振により奨学金が支給されないため
(2)留年が確定した場合、保護者が次学期以降の学費を負担しないため
(3)学費や生活費にあてるアルバイト過多で、単位が取得できないため
(4)将来の借金を恐れ、貸与奨学金を借りない傾向(ローン回避)からアルバイトに時間を取られ、学業不振になったため
(5)経済的困窮が心理的圧迫となり、学業不振や学校不適応になったため
(6)奨学金を保護者や家族が使ってしまい、授業料を払えなかったため

また、就職や進路変更を理由とする中退者の中にも、その背景要因として経済的困窮がある場合もある。このように、単一選択式の退学理由を尋ねる調査では経済的理由として挙げられないが、実際には経済的要因が複合的に絡んで中退に至るケースがある。

私学の約半数が休学中も学費納付

 経済的理由による休学や中退や除籍の防止のための大学の取り組みとして、授業料減免や給付型奨学金を用意したり、延納・分納を認める、あるいは本人もしくは保護者に連絡をつけ徹底した防止策を講じる大学もある。これに対して、学則を機械的に適用して期日までに授業料未納の場合は直ちに除籍する大学もある等、著しい差が見られる。

 休学や中退・除籍に関する扱いが大学によって差異があることと関連して、休学中の授業料の徴収状況を図1に示した。国公立大学では原則として授業料を徴収していない。「その他」は、学期途中で休学した場合に徴収するケースである。私立大学の場合には不徴収は53%と約半数にとどまる。また、私立大学では全額納付が2%、半額納付が17%で、計約2割が休学中でも半額以上の授業料を徴収している。私立短大でもほぼ同じ割合の18%が半額以上徴収している。

3. 中退者の実態

中退者に対するウェブモニター調査

 大学に対するアンケート調査では中退の理由は単一回答であり、「一身上の都合」と「不明」の比率が高く、中退の複合的要因を究明するには限界がある。大学中退者が中退した経緯・理由・現在の就業生活状況等を明らかにするために、2016年2月にNTTコムのウェブモニターアンケート調査を実施した。対象者は大学(昼間部・夜間部)に進学しその後中退した、18歳から45歳までの中退者である※3。47都道府県在住の722名(男性474名・女性248名)の大学中退者から回答を得ることができた。対象者の年齢分布はそれぞれ「30歳未満」20.6%、「30〜39歳」47.5%、「40歳以上」31.9%である。大学中退者本人を対象とする量的研究が欠如する中、本調査は大変貴重な個票データを収集している。ウェブモニター調査の結果から、大学中退における経済的理由の影響、中退者の大学生活、奨学金利用及び調査時の就業状況を紹介し、求められる支援策を提示したい。

約3割が大学中退に当たって経済的理由の影響を受けた

 大学を中退した理由を複合的に捉えるために、図3に示す11の理由それぞれについて4件法で質問した。その結果は、「当てはまる」と「まあ当てはまる」の比率を合わせると、最も割合が高いのは「勉強に興味や関心を持てなかった」(65.9%)、「学校生活に適応できなかった」(63.0%)、「単位が取れず卒業できそうになかった」(56.2%)である。しかし「経済的に苦しかった」も30.1%であり、最も重要な理由ではないにしろ、対象者の約3割が中退に当たって経済的困窮の影響を受けている。この割合は、文部科学省の大学調査の結果より約10ポイント大きい。さらに、大学時代の家庭年収が400万円未満の対象者に限定すると、「経済的に苦しかった」に当てはまる比率は約50%となる。

経済的理由を含む複合要因の存在が

 一方、「経済的に苦しかった」に当てはまり、ほかの10の理由のいずれにも当てはまらない回答者は1割以下にとどまる。中退に及ぼす経済的理由の影響は、ほかの多くの理由と錯綜していることが示唆される。

 図4のように、「経済的に苦しかった」は他の7つの中退理由のいずれとも統計的に有意な相関を持っている。とりわけ、「経済的に苦しかった」と「家庭に急変があった」の相関係数(.568)、「経済的に苦しかった」と「アルバイトが忙しかった」の相関係数(.354)が大きい。パーセンテージで説明すると、「経済的に苦しかった」者のうち、43.8%が「家庭に急変があった」にも当てはまり、36.9%が「アルバイトが忙しかった」にも当てはまる。さらに、「家庭に急変があった」と「単位が取れず卒業できそうになかった」のいずれにも当てはまる者は「経済的に苦しかった」者の25.8%、「アルバイトが忙しかった」と「単位が取れず卒業できそうになかった」のいずれにも当てはまる者は「経済的に苦しかった」者の28.6%を占めている。

 図5は経済的理由の該当者が他に当てはまる中退理由数の分布を示している。「経済的理由+他6つ以上の理由」に当てはまる者が最も多く、「経済的に苦しかった」者の28.6%を占めている。「経済的理由+他5つの理由」に当てはまる者は20.3%である。全体的に、「経済的に苦しかった」に当てはまる者の約7割半が、3つ以上の他の中退理由にも当てはまっている。中退に当たって、経済的理由がほかの理由と関連しあって複合要因となり、錯綜した状態にあることが浮き彫りになっている。

 さらに、対象者の中退に影響を与える潜在的因子の存在を明らかにするために、11の理由について因子分析(最尤法)を行った。表1のように第1因子を「学習的要因」、第2因子を「経済的要因」、第3因子を「進路的要因」、第4因子を「心身的要因」と名づけた。対象者の中退に対して最も説明力が大きいのは「学習的要因」である。しかし、「経済的要因」はそれに次いで説明力が大きい。「経済的に苦しかった」「家庭に急変があった」「アルバイトが忙しかった」及び「仕事をしたいと思った」の間に強い関連が示され、第2因子を構成している。

 以上の結果から、経済的要因は中退に与える最大の要因ではないにしろ、他の要因と複合的に中退に影響を与えていることが明らかにされた。

4. 中退と奨学金の関連

中退者は奨学金の利用率が低い

 中退者の日本学生支援機構の奨学金(以下「奨学金」)の年齢層別の利用率を図6に示した。18歳〜24歳においては中退者の41.7%が奨学金を利用しているが、25歳〜39歳においては、年齢が上昇するにつれ、奨学金の利用率が下がる傾向が見られる。40歳〜44歳では16.5% と、35歳〜39歳の14.2%より奨学金の利用率が若干高くなったものの、中退者の1割強程度にとどまっている。このように、中退者の年齢層の上昇に伴い奨学金の利用率が減少していく傾向は、折れ線グラフに示した「学生生活調査」による全国平均の傾向と同様である。しかし、いずれの年齢層においても中退者の奨学金利用率が全国平均を下回り、中退者の奨学金の利用率は比較的低い。

奨学金は中退者の生活費の一部を補うが、受給者はアルバイトも多い

 中退者の学費と生活費の原資はどこから調達されたのか。図7のように、奨学金利用者は、学費の46.2%を保護者に出してもらい、42.9%が奨学金で支払われていた。生活費については、43.6%を保護者に出してもらい、25.0%が奨学金で、30.1%がアルバイト収入で支払われていた。一方奨学金を利用しなかった場合は、学費の92.5%と生活費の72.4%が保護者負担となっていた。このように、奨学金は中退者の学費と生活費の一部に充当され、家計負担の軽減につながると見られる。しかも、奨学金は生活費と比べて学費にあてる割合が高いことから、進学または修学継続における奨学金の役割が重要であると考えられる。

 図7のように、アルバイト収入は学費に充当するものではなく、生活費の収入源として使われている。しかも、奨学金を利用しなかった(26.7%)と比べて奨学金利用者(30.1%)のほうが、よりアルバイト収入で生活費を支払う傾向があった。奨学金利用者が、保護者からの支援がないために、奨学金に加えてアルバイトをしなければ生活費を賄えなかったことが読み取れる。

 また、中退者の一週間あたりのアルバイト時間数については、図8の棒グラフにあるように、「5時間未満」の割合は低いが、5時間以上の割合が高い。しかも、20時間以上アルバイトの割合は中退者の3割以上(奨学金利用者では「20時間〜30時間」(16.5%)と「30時間以上」(16.5%)の合計、奨学金を利用しなかった者では「20時間〜30時間」(24.3%)と「30時間以上」(15.5%)の合計)にも達した。これは日本学生支援機構「学生生活調査」の全国平均と違う傾向となっている。つまり、図8の折れ線グラフに示したように、全国平均における「5時間未満」の割合は41.1%と高いが、5時間以上アルバイトの割合はそれほど高くない。特に「30時間以上」アルバイトの割合は2.7%と極めて低い。このことは、全国平均より中退者のアルバイト時間のほうが長いことを意味している。

 さらに、奨学金を利用しなかった者と比べて奨学金利用者のほうが、「5時間〜10時間」(30.4%)と「30時間以上」(16.5%)でアルバイトの割合が高い。奨学金利用者は短時間だけでなく長時間のアルバイトにも従事していたと見られる。

奨学金を利用した中退者は年収が低く、雇用が不安定

 図9のように18歳〜24歳の場合、奨学金を利用しなかった者の平均年収は193.8万円で奨学金利用者の129.5万円より高く、大きな差が見られる。年齢層の上昇につれ、奨学金の利用有無による差はあるものの、それほど大きく開いていない。一方、民間給与実態統計調査による全国の平均年収は、折れ線グラフのように、どの年齢層においても中退者の平均年収より上回っている。18歳〜24歳においてはその差は小さかったものの、年齢層の上昇につれその差が大きくなっている。

 図10のように、年齢層の低下に伴い中退者の非正規雇用の割合が高くなる傾向が見られる。18歳〜24歳においては半数以上の中退者が非正規雇用で雇われていた。奨学金利用者が80.0%と、利用しなかった者の66.7%と比べて非正規雇用の割合が高い。25歳〜34歳においては非正規雇用の割合が5割台まで下がったが、奨学金利用者は59.1%で、利用者のほうが非正規雇用の割合が高い。そして35歳〜44歳においては、3割前後の中退者が非正規で働いていた。

 また、中退者の非正規雇用の状況を「労働力調査」による全国平均と比べてみると、18歳〜34歳は中退者の非正規雇用の割合が全国平均を大きく上回っている。35歳〜44歳は全国平均に近づくものの、奨学金を利用しなかった中退者の非正規雇用割合は全国平均よりも高い。

 このように、中退者が年収においても雇用形態においても、全国平均より不利な状況に置かれている。しかも、奨学金利用者のほうが在学中にはアルバイトが多く、若年層では非正規雇用が多い。保護者からの学費や生活費の支援が少なく、その分アルバイトを多くせざるを得ないことが、中退さらには非正規雇用につながっていると見られる。

5. 中退者が必要とするのは心理相談・授業料免除・学習支援

 中退者の卒業後の厳しい状況に対して、大学はどのような支援をすれば中退を防ぐことができるのであろうか。中退者が在学中に受けた支援と必要と思う支援を尋ねた。図11のように、中退前に受けた支援のうち、貸与奨学金(10.0%)と心理相談(6.9%)の割合が比較的高いものの、そのほかの支援の利用率は低い。一方、支援を得られたら中退しなかったと思われるもののうち、心理相談(31.6%)、授業料免除(21.6%)、学習支援(21.2%)、キャリア相談(17.2%)と給付奨学金(11.9%)への希望度は高いのに対して、貸与奨学金への希望度(5.3%)は低い。つまり、心理相談・授業料免除・学習等に関する支援のほうが必要とされている。経済的な支援に関しては、中退前に実際に大学から受けた支援が少ない中、貸与奨学金の利用率は比較的高いが、貸与奨学金よりも授業料減免や給付型奨学金のほうが必要とされていると言えよう。これは、中退者が必要と思う支援と実際には受けた支援の間にギャップが生じていることを意味している。

 以上の分析から、貸与奨学金は現在よく利用されているものの、支援策としては限界があることが明らかにされた。特に中退者を支援するためには、給付奨学金や授業料免除のような、一層充実した経済面での支援策が求められている。しかし、そうした経済的な支援だけではなく、学習支援や心理相談によるメンタル面でのケアもあわせて必要であることも、中退者の調査からは明らかにされている。

6. 経済的要因による中退予防の処方箋

 休学や中退は、経済的要因だけでなく、様々な要因が複合的に影響して発生する。それだけに、そうした複合的な要因を全体的に捉えるとともに、個々の要因をひとつずつ解きほぐしていくことが必要である。これまでの分析結果から経済的理由による休学や中退の複雑な経路は図12のように表すことができる。図で赤線は経済的支援により休学あるいは中退に至ることを防ぎ、学業を継続・卒業するための経路も示している。例えば、経済的困窮による授業料未納などの問題は、授業料減免や延納・分納あるいは給付型奨学金や貸与型奨学金といった経済的支援によって、ある程度解決することが可能である。また、アルバイト過多についても、それが経済的必要性によるものであれば上記のような経済的支援策が有効である。しかし、アルバイトが面白くて学生生活の中心となっている場合や、いわゆるブラックバイト等でアルバイトを辞めることが困難になっている場合には、経済的支援によるよりもアルバイトそのものに原因があるので、学生へより積極的なアドバイスや介入が必要とされる。心理的圧迫についても同様に、それが経済的要因による学生生活の継続困難性が要因となっているのであれば経済的支援が有効であるが、そうでない場合にはメンタル面のケアが必要とされる。

 いずれにせよ、表層的な支援を整備する前に、そうした真の要因を突き止めることが何よりも求められる。そのうえで、経済的要因は心理的な要因に比べて、大学が対応することが比較的可能であり、経済的な支援は効果があるということを強調したい。本調査で明らかになった経済的理由による休学や中退の防止のための課題は、以下の通りである。

(1)大学によって、休学や中退や除籍に対する対応には大きな差がある。特に大学は中退と除籍の定義を明確にする必要がある。また、大学によって休学中の授業料の扱いや授業料未納の場合に除籍に到るプロセスにも差が見られる。こうしたことは学生や学外にはほとんど周知されていない。社会的な混乱を招く恐れがあり、大学は休学や中退や除籍の防止に向けた対応を学生や保護者に示すことも必要である。

(2)経済的理由による休学や中退や除籍には、その他の複合的な要因が絡む。この点に留意して、単なる経済的支援だけでなく総合的な視点から対応を検討するべきである。この点で、かなりの大学や専門学校が実施している、個々の学生に対する担任制(教員の場合が多い)は、学生の困難性を包括的に捉えることができ、有効な対応策と考えられる。しかし日本の大学の多くは、経済的な支援は学生部や厚生課等の担当だが、メンタル面のケアは学生相談所等の担当であるというように、縦割りとなっている場合が多い。このような場合には、上で述べたような休学や中退に至る経路を把握することが難しい。これに対して、関連する部署が相互に緊密な連携を取ることが求められる。例えば、学生の状況を把握するために、履修状況や授業料納付状況や学生生活等の学生の記録を共有することができるようにすることが考えられる。これはIR(Institutional Research)の重要な役割であり、こうした観点からも大学がIR を積極的に推進していくことが望ましい。特に、学生の入学前から在学中、そして卒業後まで一貫して把握し、ケアするエンロールメント・マネジメントとして捉えることも重要である。いずれにせよ、学生の状況をトータルに捉え、対応することが必要である。

(3)日本学生支援機構奨学金を主とする現在の経済支援は、多くの学生、特に経済困難な学生に教育機会を与え、学費や生活費の一部を補っている。しかし、貸与奨学金のみで休学や中退防止に十分効果があるとは言えない。さらに、奨学金を利用していた中退者のほうがアルバイトが多く、中退後も厳しい状況にあることも明らかにされたことは、貸与奨学金の問題を示している。とりわけ、家計急変に対しては、現在の日本学生支援機構奨学金は十分とは言いがたい。必要性が生じた場合に申請したとしても、実際に支給されるまでタイムラグがある。また、支援額も第1種・第2種とも月額相当に留まっており、授業料の支払い等には十分ではない。ただ遡って支給されるため、例えば、6月に申請すると4月から3カ月分が支給される等、一定のまとまった金額になる場合もあるが、これも申請時のタイミングによる。家計急変はいつ生じるかわからないため、これに対応した支援制度が望まれる。

(4)これに対して、家計急変に対応するための授業料減免や大学独自奨学金制度を有する大学は約半数に留まる。現在創設が検討されている給付型奨学金は低所得層に対する高校在学時の予約型である。今後は、授業料減免や給付型奨学金等の効果的な経済支援の充実が休学・中退の有力な防止策として期待されるが、特に今後高等教育機関在学時の給付型奨学金の創設について、検討する必要があろう。

(5)高校や大学では、学生や保護者に学生への経済的支援制度について、十分な説明と情報提供を行う必要がある。また、在学中のファイナンシャル・プランを予め明確にしておくために、ガイダンスやカウンセリングも求められる。とりわけ、新しい所得連動型奨学金返還制度は、従来の定額制と選択制になったため、学生や保護者に選択を支援することが必要である。その他、大学が用意している学生への経済的支援制度についても、休学や中退に至る前に学生や保護者に十分情報が伝わるように努めることが肝要である。

※1 科学研究費基盤(B)「教育費負担と進路選択における学生支援のあり方に関する調査研究」平成27-30年度(研究代表 小林雅之)
※2 公立大学は中退者が少ないため対象としなかった。
※3 通信教育課程の出身者の属性は大きく異なると考えられることから、対象から除外した。