高等教育の最新事情

私立大学の中期計画に関する学長調査 詳細分析vol.1

中期計画の習熟効果
-経験を重ねることによる中期計画の策定・運用の変化-


森 卓也・両角 亜希子


2020年4月から中期計画の策定が義務づけされた。そこで、四年制大学の学長に対するアンケートを『カレッジマネジメント』と東京大学大学院教育学研究科の両角亜希子准教授と共同で、私立大学の中長期計画の策定・運用状況等について実施。同研究科において詳細について分析を実施した。

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カレッジマネジメント220号「私立大学の中期計画に関する学長調査」
両角 亜希子(東京大学 大学院教育学研究科 准教授)

1. 策定回数による効果を検証

 2019年7月に実施した「私立大学の中期計画に関する学長調査」(以下「学長調査」)では、回答した大学の92.5%が中期計画を策定(策定中を含む)しており、その策定回数をみると「今回が初めて」の大学は34.5%に過ぎず、「2回目」が31.5%、「3回目以上」が34.1%と既に中期計画が2期目以降に入っている大学のほうが多い(両角 2020)。中期計画の策定がある程度普及するなか、中期計画の運用を1期、2期と重ねることにより、大学内において中期計画の位置づけや策定方法、運用の仕方などが変化している可能性がある。本稿では、中期計画の習熟効果として、①中期計画への評価、②中期計画の策定方法、③中期計画が大学経営に与える効果の3つに着目し、学長調査回答データを用いて、中期計画の運用経験(=策定回数)による影響をみていく。なお、中期計画の策定回数と大学の選抜性や規模の関係を確認したが、特に関係性はみられなかった点を付記しておく※1

2. 経験を経ることで計画の低評価は減少

 最初に、中期計画の運用経験により中期計画への評価がどのように変化しているのかに着目する。学長調査では、現在の中期計画が2回目以上の場合にのみ、前期の中期計画をどのように評価しているかを「とても適切」「ある程度適切」「適切でなかった」の3件法で尋ねている。全体としては「ある程度適切」という回答が多いが、ここでは「適切でなかった」という回答に着目する(図1)。

 中期計画の策定回数が「2回目」と比べると「3回目以上」ではいずれの項目でも「適切でなかった」回答の割合は低下しており、運用を重ねることで中期計画への低評価は解消していることを示しているが、その変化は一様ではない。特に「2回目」と「3回目以上」の間で大きく回答割合が低下した項目は、数値目標数、予算額であり、特に数値目標数は有意に差がある(χ2=7.716, df=2, p<.05)。これらの項目は、最初の中期計画では適切ではなかったが、経験を重ねることで適切に設定できるようになったことを示している。他方、計画見直しの頻度、計画進捗確認の頻度は2回目と3回目以上の間で回答割合がそれほど低下しておらず、経験を重ねても計画の進捗確認や見直しをどのように実施していくかが中期計画を運用するうえで課題であることを示している。

図1 前期の中期計画において「適切でなかった」回答の割合

3. 他大学ではなく、自大学の達成度を基に策定するように

 次に、中期計画の運用経験により中期計画の策定方法がどのように変化しているのかをみていく。学長調査では、計画策定に当たり、どのような情報をどの程度参照したかを「かなり参照した」「ある程度参照した」「あまり参照しなかった」の3件法で尋ねているが、ここでは「かなり参照した」という回答に着目する(図2)。

 中期計画の策定回数によらず「認証評価・自己評価の結果」や「高等教育政策」をかなり参照したという回答割合は高いが、中期計画の策定回数による違いがあるのは「旧中長期計画の達成度」と「他大学の中期計画」である。中期計画策定が「今回が初めて」を除くと、「2回目」と比べて「3回目以上」では「旧中長期計画の達成度」をかなり参照したという回答割合が有意に高い(χ2=3.964, df=1, p<.05)。一方で、「他大学の中長期計画」をかなり参照したという回答割合は中期計画の経験を重ねることで有意に下がる(χ2=7.135, df=2, p<.05)。初めて中期計画を策定する際は、学内に知見・ノウハウが不足し、他大学の中期計画を参照しながら策定せざるをえないが、経験を重ねることで、自大学の前期計画の達成度を参照して新たな計画を策定するようになることを示している。

図2 中期計画の策定時に「かなり参照した」回答の割合

4. 回数を重ねるだけでは、大学経営改善の影響は限定的

 最後に、中期計画の運用経験により中期計画が大学経営に与える効果がどのように変化しているのかをみていく。学長調査では、中期計画を実施するなかで、大学経営にどのような効果をどの程度与えたかを「とても当てはまる」「やや当てはまる」「あまり当てはまらない」「当てはまらない」の4件法で尋ねているが、ここでは「とても当てはまる」という回答に着目する(図3)。

 中期計画の経験を重ねることで大学経営に与える効果は徐々に高まることが予想されるが、実際は必ずしもそうなっていない。「構成員が計画の実現に向けて努力」「計画推進者がリーダーシップを発揮して実施」は経験を重ねることで徐々に回答割合が高まり、特に「構成員が計画の実現に向けて努力」は有意に高まる(χ2=6.490, df=2, p<.05)。一方、「計画によって大学が発展・好転」は「今回が初めて」と「2回目」の間では有意に高まるが、「2回目」と「3回目以上」の間ではほとんど変化しない(χ2=6.885, df=4, p<.05)。中期計画が大学経営に与える効果は回答者(ある学長)の実感である点に注意すべきではあるが、中期計画策定の最終的な目的が、大学が発展・好転することであるとすれば、学内構成員の計画実現に向けての努力や計画推進者のリーダーシップだけでは十分ではないことを示している。ここでは具体的に検討しないが、計画の良し悪しなど、ここで扱った内容以外の効果も大きいと考えられるためである。

図3 中期計画が大学経営に与えた効果が「かなりあてはまる」回答の割合

5. 回数を重ねても学長は発展・好転し続けている実感を持てていない

 本稿では、「学長調査」で多くの私立大学が中期計画の2期目以降に入っていることを踏まえ、中期計画の運用経験(策定回数)が、中期計画への評価や策定方法、大学経営に与える効果に影響を与えているかを分析した。中期計画の運用経験を重ねるにつれ、数値目標数のように適切に計画のなかで記載できるようになる一方、計画の進捗確認や見直しをどのように実施していくかといった運用上の課題は依然残っている。初めて中期計画を策定する際は他大学の中期計画を参照するも、次第に自大学の計画達成度を基に次の計画を策定するようになる。中期計画が浸透し、構成員の計画実現に向けての努力や計画推進者のリーダーシップは高まるが、特に2期目以降、中期計画で大学が発展・好転し続けているという実感を学長は持てていない点が課題である。


    【参考文献】
  • 中期計画の策定回数と大学の選抜性(代理変数:偏差値)、規模(代理変数:収容定員数と専任教員数)の間で分散分析を行った結果、F検定でそれぞれの有意確率は77.5%、96.3%、60.0%であった。

(2020/4/2掲載)