「語学力+α」を柱に、企業などのパートナーと教育連携/神田外語学院

 神田外語学院は、「言葉は世界をつなぐ平和の礎(Languages are the foundation to link the world in peace.)」を理念とし、語学力と専門スキル、そして異文化を理解する心をもち、世界の人と心を伝えあう人材を育てている。

神田外語学院 概要

 1963年にセントラル英米学院として設立。1964年に神田外語学院と名称を変更し、1976年の専門学校法施行により、外国語専門課程の専門学校として認可を受けている。50年にわたる歴史と伝統をもち、5万人以上もの卒業生を各業界に輩出する老舗の専門学校である。1987年に姉妹校として神田外語大学を開学し、1992年には1年次推薦入学制度を、2001年には3年次編入学制度を導入している。

 現在は、「英語専攻科」「グローバルコミュニケーション科」といった英語のコミュニケーションスキルをベースに、「アジア/ヨーロッパ言語科」など、英語にプラスしてもう1カ国語を習得する学科、あるいは「国際エアライン科」「国際観光科」「国際ホテル科」など、専門スキルを身につける学科や、「留学科」といった海外の大学3年次への編入学ができる学科などを、高校卒業者以上を対象に昼間部2年制で設置している(右ページの学校データ参照)。ほかにも、専門・短大・四大卒業者を対象とした「総合英語ビジネス専科」を昼間部1年制で設置し、多様なキャリアをもつ学生を受け入れている。

 将来に対する目的意識が明確であるとともに、多様なキャリアをもつ学生の学び(学び直し)をサポートすべく、実務に直結する教育にも注力し、多様なパートナーとの連携を積極的に展開している。その影響は、90%以上の高い就職率にも表れているようだ(図表1)。佐野元泰理事長に、そのあたりのお話をうかがった。


図表1 過去10年における神田外語学院の就職率推移


外国語専門学校に求められる「語学力+α」

 神田外語学院には、18カ国81名の外国人教員が在籍し、ネイティブによる英語教育の質と数にこだわっている。これは、学生の実践的な語学力を伸ばす目的で、年4回の受験を必須としているTOEIC®の同校のListeningスコアがほかを上回っている点にも表れている(図表2)。

 さらに、常に先の時代を見据え、外国語専門学校でありながら、「語学力+α」についても考え続けてきた。例えば、1994年には、独自の英語教育手法であるKIFLタスクベース学習法を導入、95年にはカリキュラム改訂も行い、同学習法を全コースに導入した。前述のとおり、創立以来、外国人教員が多くの授業を担当してきたわけだが、「単に『外国人が教える』というだけではなく、教え方のメソッドをもつことが大事であるとの考えが、導入の背景にはあった」と理事長は語る。

 こうした考えを発展させ、よりアカデミックに、かつ中国語や韓国語をはじめとするアジア諸国の各言語、南米で使用されるスペイン語などを学科構成とした「環太平洋」というコンセプトを取り入れて開学したのが、姉妹校の神田外語大学である。それは現在の日本が置かれている状況から顧みると、きわめて先見性のある取組みであったといえるだろう。

 「+α」に対するニーズが多様化している現在、神田外語学院では、専門学校ならではの“できること”、なかでも“即戦力として活躍できること”を念頭に置き、「語学力をいかにして社会に活かしていくか」に注力した。その手法が、実社会とのつながりを求め、多様なパートナーとの連携を積極的に行うことである。連携先は企業、団体など幅広いが、企業であれば「お客さまから選ばれているか」という観点や、学生に対する教育成果などを見据え、教育理念の一致するパートナーとの連携を主体的に推し進めている。


図表2 TOEIC®受験生の平均スコア比較


 以下、主な取組みをいくつか紹介していきたい。

・デュアルシステム(働きながら学べる制度)

 国際ホテル科デュアルシステムは、神田外語学院と都内ホテル各社とのパートナーシップにより行われている実践的なシステムである。学びながら働くことで、即戦力として活躍できるプロを育てる新しい「人財」育成システムである。

図表3 実習カリキュラム内容

 夏期や冬期の休暇中も含めた1年9カ月間(入学~2年次2学期)、同一ホテルでの実習を有給で行う。この実習はカリキュラムに組み込まれており、卒業に必要な単位としても認定している。

 実際にホテルで働くことにより、社会人としてのマナーやおもてなしの心、コミュニケーション能力を身につけることを可能とし、自分の適性も判断できるため、将来のキャリア形成にも役立つシステムとなっているようだ。

・カウンターセールス実習

 2009年には、旅行業界と学校法人の間では初の試みとして、産学協同で旅行業界の将来を担う「人財」の育成を目指し、神田外語学院と大手旅行会社・近畿日本ツーリストグループの店頭販売専門会社である株式会社KNTツーリストとの間で、旅行業務実習制度「カウンターセールス実習」の導入において業務提携を結んだ。

 本制度の企画は、神田外語学院で調査を行い、その結果に基づき、「理論だけではなく『ホスピタリティマインド』が必要である」とし、神田外語学院側から働きかけたものだという。数多くある旅行業者の中で、KNTツーリストをパートナーとしてセレクトした理由として、「教育や指導に対して熱心で注力していること」「学院との教育方針の一致がみられること」を理事長は挙げている。

 実習カリキュラムの内容は、主には、神田外語学院の学内にオープンしたKNTツーリストの一般顧客向け営業所において、学生がカウンターセールスの業務実習を経験するというものである(図表3参照)。事前研修はKNTツーリスト新入社員が受ける研修とほぼ同じ内容となっている。

 一般的なインターンシップ授業とは異なり、直接お客さまに接することで、コミュニケーション能力を高め、ホスピタリティマインドを身につけることができるうえに、KNTツーリストの専任教育担当社員が指導するため、学生一人ひとりにきめ細かいサポートをすることができるという。

 さらに応用編として、実習を経験した学生がKNTツーリストと共同で、一般消費者向けの募集ツアーを企画するプロジェクトを発足させ、商品化も実現させるなど、真の実社会経験をさせている。


KNTツーリストカウンターセールス実習中の学生の様子


・APECアジア太平洋経済協力会議での接遇支援活動

 2006年より神田外語大学で取り組んできた通訳ボランティア活動を下地に、2010年11月に横浜で開催されたAPECアジア太平洋経済協力会議でのインターンシップ活動にも取り組んでいる。

 国際社会で活躍する人材育成の教育方針に沿って、神田外語大学の学生とともに、国際エアライン科の学生101名が、羽田空港および成田空港において、参加各国および地域の首脳や閣僚および同行の外国人記者団の案内をはじめ、入国手続きや通関手続きなどの接遇業務支援を行った。

・読売新聞東京本社との公開講座

 読売新聞東京本社と共催で、7~8月にわたり、東日本9都市にて「教育ルネサンス『英語と文化の公開講座』」として、「教科書にのっていない世界の授業」「英語教育公開講座」の公開講座を開催し、学生もインターンシップ活動として受付などを担当しながら、参加をしている。

 「教科書にのっていない世界の授業」は、神田外語大学・神田外語学院の講師陣と読売新聞の記者が、世界の言語と文化を教える無料公開講座であり、今年度で4年目を迎えるものである。色々な国の言語や文化を学ぶ講座のみならず、国際的な仕事で活躍するためのヒントが詰まった、キャリアビジョン形成に役立つ講座なども展開している。

 「英語教育公開講座」は、小学校・中学校・高校の英語教諭をはじめ、実践的英語教育に携わる教育関係者を対象に、神田外語グループの講師陣がさまざまな角度から、時代に即した語学教育に関する教授法をレクチャーしている。この講座自体は、神田外語学院にて30年以上前から開講されているものである。

 本制度の企画も、「内向き志向といわれる学生、特に地方の学生の意識を少しでも外向きにしたい」という願いのもと、神田外語学院側から働きかけたものである。「学生の世界観、職業観を意識させる必要性が両者で一致したこと」を理由に、読売新聞東京本社をパートナーとしてセレクトしたという。インターンシップ活動として、学生がこうした場で得るものは、知識以上のものがあるに違いない。

連携における教職員の役割

 こうした連携活動のフィールドは、学外にあることが多いが、教職員のフォローは積極的に行われている。憧れていた職業であれども、こうした活動の中で、仕事の厳しさを痛感する学生が少なからずみられるという。教職員は、活動期間の間にも学生へのフォローを行い、アウトプットさせることにより、本人の「気づき」も促している。

 さらに活動後には、事後報告会を行っている。そこでは、学生の洞察力や分析力の伸びを驚くほど実感することが多いという。多角的に物事をみることができるようになった背景には、憧れとして「イメージしていた」現場にしっかりと身を置き、その実社会の中で、苦難や挫折に直面したことが大きいようだ。

 それを教育の「成果」として教職員が実感することができるのは、教職員が一体になって個々の学生と日頃から向き合い、日常生活や将来のキャリアについても理解していることが大きい。神田外語学院では少人数の語学授業以外に1クラスを30人程度とした担任制をとっている。授業によっては数回の欠席でも単位修得が認められないので、その前段階で教職員が連携して対象者に連絡を入れるなど、日頃の学びに対するサポートも丁寧に行っている。こうしたかかわりを日頃から行っているからこそ、学生の成長を実感し、教育の「成果」としてとらえることができるのであろう。

 こうしたサポートの影響は、退学率にも顕著に表れている。神田外語学院では数年前から退学対策にも取り組み、現在の退学率は10%を切るまでに低下している。その多くは、進路変更などというケースがほとんどであるという。

社会人教育についての考え方

 就職氷河期、大学中退者・早期離職者の増加、多様な学びの推進といった背景の中で、専門学校の門をくぐる学生には、すでに高等教育を経験・修了している者や、社会人経験のある者も増えている。国際化が叫ばれる中、実践的な語学力を身につけるために、外国語専門学校での学び直しを行う学生も少なくない。

 その数は年々増え続けており、神田外語学院もその例外ではなく、大学・短大・専門学校の卒業・中退、または社会人・アルバイト経験者などの19歳以上の入学者は24.6%にまで達している。

 先にも記したように、神田外語学院では、専門・短大・四大卒業者以上を対象とした「総合英語ビジネス専科」を1年制で設置している。しかし実際には、「1年より2年かけてじっくり語学を身につけたい」「入学後、すぐに就職活動との両立になる」といった理由から、専門・短大・四大卒業者以上の学生でも、2年制の学科で学ぶケースは多いという。現に、卒業要件をTOEIC®700点以上としている2年制の「グローバルコミュニケーション科」では、在学生の約半数が四大・短大卒業あるいは就職後1年程度での早期離職者で占められているという。こうした点について理事長は、「社会に出てから語学の重要性に気づき、実践的な英語スキルを身につけたいというニーズが高まっている。今後は、高等教育のなかでの専門職大学院のような役割を担っていく可能性もあるように思う」と語る。

英語が当たり前となった時代に何ができるか

 神田外語学院は、かねてよりそうであったように、先の時代を見据える目をもちながら、常に「“いま”の学生にとってよいもの」を追い求めてきた。近い将来、英語ができること自体は、さして珍しくはない時代がくるだろう。こうした時代を見越し、「外国語専門学校とは何か」を問い直し、いまの学生にとって必要な「語学力+α」に、教育を通して正面から向き合って取り組んでいる。

 専門学校へのニーズは、今後、ますます多様化していくだろう。「今後は、語学を活用したボランティアセンターの設立も視野に入れている」と理事長はいう。小学校での英語教育、スポーツ国際大会、企業でのカンファレンスなど、これまでもそうであったように、教育理念の一致するパートナーとの連携を主体的に推し進めることにより、学生の「語学力+α」を体現できるフィールドをさらに拡げていくという。

 ここでいう「+α」は、「職業教育を通した人間力である」とも理事長は語る。コミュニケーション力、主体的に学び続ける力、生きる力といったチカラがいまの学生には必要であるという認識は、専門学校であれ、大学・短大であれ、同じであろう。確かに、大学や短大に比べて、専門学校のカリキュラムの柔軟さは大きい。しかし、専門学校の教育・支援から学ぶ点は、少なからずあるのではなかろうか。


(望月由起 お茶の水女子大学 学生支援センター准教授)


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