女子獲得戦略でイメージチェンジし志願者増へ/国士舘大学

 国士舘大学は1917年に私塾としてスタートし、95年の歴史を持つ総合大学である。かつてはバンカラのイメージが強い大学であったが、近年、女子の獲得に力を入れ、男女問わず志願者数を伸ばしている。なぜ女子獲得戦略なのか、具体的にどのような努力をし、どのような効果が出ているのか、大澤英雄理事長にお話をうかがった。

なぜ女子獲得戦略か

 そもそもなぜ女子獲得戦略だったのか。2つの理由があったという。

 1つ目は経営上の観点からである。18歳人口が減少している中、経営を安定化させるためには男子だけに焦点をあてることには限界がある。女子の大学進学率は男子に比べ20%ほど低いが、近年は大きく伸びている。それにもかかわらず国士舘大学の総志願者に占める女子志願者シェアは競合校とくらべると10%ほど少ない。これは逆転の発想で、志願者増のチャンスは女子戦略にあると感じたという。そこで5年ほど前から、学生全体の4割ほどを女子学生にしていこうと、入試広報などの工夫を始めた。若干、時代は違うが、併設の高等学校も1994年に男女共学化した。それまでの国士舘のイメージで集まるかと心配したが、意外に多くの女子生徒が入学し、女子の方が成績も良いという結果となった。

 二つ目の理由は建学の精神との関連である。国士舘の創設者・柴田德次郎は若くして上京し苦労をしたが、周りの人々の慈悲の心に支えられた。日本の革新をはかるために青年大民団を組織し、その教育部門として国士舘を作った。そこでの教育理念は、世のため・人のため・社会に貢献できる「国士」の養成である。その後も「誠意・勤労・見識・気魄」の四徳目を身につけた人材を養成することを掲げ、様々な分野で活躍する人材を育ててきた。卒業生には特に消防・警察・教育・公共サービスの分野で人命救助や治安維持などに率先して尽力しているものも多い。救急救命士を養成する体育学部のスポーツ医科学科の学生らは、東日本大震災で約3ヶ月間、現地に入り支援活動を行ったほか、東京マラソンなどでも多くの人の命を救い、感謝状をもらうなど、全国的にも高い評価を得ている。これらは、まさに同大の建学の精神を具現化した人材育成である。かつては男子を主な対象としてきたために、ホームカミングデーなど年配の卒業生が集まると「国士舘に女子なんて」という声も聞かれたが、創設者から直接に教えを請うた理事長は「創設者自身も国士の母になるものとして女子の教育の必要性も唱えていた」とし、今や、世のため・人のための人材として男女の区別はないという。

図表1 パンフレット2013の表紙

 理事長は、「時代に合わせて校風を変えていくことが大事」で「バンカラな校風、怖い学校というイメージも壊したかった」という。数年前のオープンキャンパスの日に梅ヶ丘の駅から歩いてくる高校生と保護者のグループの後ろを歩いていると、「国士舘に女子はいるのかしら」「かわいい子はいないでしょ」という保護者達の会話が聞こえてきたという。こんなエピソードを紹介しながら、理事長は「イメージチェンジは言葉だけでは伝わらない」と何度も強調した。そのために分かりやすくメッセージを伝える工夫を、多岐にわたり行っているという。

目に見える形で新しいイメージを伝える

  • 広報上の工夫
  •  イメージチェンジを分かりやすく高校生に伝えるために、広報に力を入れた。具体的には、パンフレット、ポスター、DM などの広報メディアで、女子学生、女性で活躍する卒業生を紹介するなど、女子を意識した内容を年々充実化した。表紙の色も女子を意識したもので、2010年からはポスター、ツール類も女子を意識したデザインで統一してきた(図表1)。

     また、UgoPan(ウゴパン)という学内広報誌もユニークだ。2007年から発行しており、もともとは広報課で仕掛けたが、現在は約30名の学生主体のメディア研究会が作成している。発行部数6000部のうち、3000部が学内用だが、残りの3000部は近隣地域のカフェや美容院などに配布している。思わず手に取りたくなるようなおしゃれさや楽しい内容が人気を集め、今や大手書店にも並べられるようになっている。また、ホームページ上の動画コンテンツ「虹色のドア」も作成した。在学生や教職員が出演して授業の様子、クラブ・サークル活動を楽しんでいる様子を伝えている。まず関心を持ってもらうために、こうした広報上の工夫は重要だという。

  • 建物の整備
  •  国士舘大学のイメージチェンジを伝えるために、キャンパスの雰囲気を変えていくことも重要だ。たしかに世田谷校舎に入ると、緑があふれる空間、ガラス張りの学生ラウンジで学生達が語らう姿がまず目に入ってくる。バンカラという一昔前の国士舘のイメージは、大学に来て実際に見てもらうことで、全く異なる印象に変わるはずだ。2008年には世田谷キャンパスに梅ヶ丘校舎も造ったが、開放的な建物が印象的だ。富士山も見えるスカイラウンジ、3階まで吹き抜けの快適空間アトリウム、おしゃれなデザインの学生食堂など、学生生活を快適に過ごせる空間になっているだけでなく、ピアノ実習室や美術室など教師を目指す学生のための幼児教育実習室、裁判員制度を実地で学べる模擬法廷教室、国際会議もできる大教室など、充実した学びのための環境を整えた。

     そしてこの12月には新しい校舎Maple Century Hall(メイプルセンチュリーホール)も完成させた。心と体を育てる複合施設として設計し、教室や会議室以外にも様々な用途の施設を用意した。若者が自由に使える施設、女性が喜ぶ施設というところにこだわり、カフェ、温水プールやスポーツジム、美容室やネイルサロン、パウダールームなども備えた地下3階、地上5階の建物。学生がより利用しやすいように、低価格でサービスを提供できるようにあらゆる努力をするという。地域社会に学生達のスポーツ活動がよく見える全面ガラス張りの「スポーツ ショーケース」も開放的な印象を与えている。大学を「憩いの場、もっと過ごしたい場」にしたいという理事長の強い思いがあるようだ。

    図表2 女子カフェのチラシ

  • 女子カフェのスタート
  •  また、2011年からはオープンキャンパスの女子向けイベント「女子カフェ」を実施してきた(図表2)。国士舘の在学生女子の大学に対する満足度は高いのだが、それを女子高生に伝えることがなかなか困難であった。そこで「国士舘女子の本音を伝える場」を作れないかという狙いで開始し、女子在学生(1回50-60名の女子在学生が参加)による個別形式の本音テーブルトーク(お茶やパフェをふるまう)を実施することにした。2011年7月、8月のオープンキャンパスの来場者数は6477名で、このうちの13%の869名が女子カフェに参加、2012年7月、8月のオープンキャンパスでは、来場者数6268名のうち、16%の977名が女子カフェに参加した。参加者数が伸びているだけでなく、来場者アンケートの自由記述を見ると「雰囲気がとても良かった」「女子学生がとても親切でうれしかった」など、評判もかなり良い。ほとんどのアンケート回答者が自由記述回答にこうした記述をしている。「学生が親切だった」という声が多いのが国士舘の特徴であるし、とてもうれしいと理事長は語る。理事長は常々、機会があるたびに、教職員に対して、学生に親身になって接してほしいとお願いしているが、そうすることで学生にも親切さが自然に身についてきたのではないかという。2012年の来場者アンケートでは参加高校生の87%が大満足、8%が満足と回答しており、実際に2011年の来場者アンケートに回答した高校生の39%が実際に出願するなど、志願者増加にも大きな効果を発揮している。

     確かに開放的な雰囲気の建物に生まれ変わった世田谷キャンパスの中を楽しそうに歩いている明るく、おしゃれな学生達を見ると、一昔前の国士舘のイメージはない。まず大学に関心を持って足を運んでもらい、そこで学生と話をしてもらうことが重要だというのもうなずける。

女子だけでなく、男子志願者も増加

 大学の中身を分かりやすく伝える一連の努力によって、女子の志願者数は着実に増加してきた。この5年間で、女子の志願者数は2726名から4107名へと、1.5倍に増加した。また、その結果、入学者に占める女子割合も、少しずつ増加した。また、女子志願者獲得戦略の結果、女子の志願者数増加に成功しただけでなく男子志願者も増加し、総志願者数も5年間の1万1939名から1万7826名へと、1.5倍に増加した(図表3)。女子獲得戦略は男子にも効果があったということだ。また、女子学生が増えることによって、キャンパスに活気が出る、男子学生も含めてマナーが良くなるなどの効果を実感しているという。

図表3 志願者数、入学者数などの推移

 なお、学部別の女子割合も図表4に示した。学部によって女子比率には差があり、文学部や体育学部(子どもスポーツ教育学科、スポーツ医科学科)で女子割合が高いが、小学校の教員を目指す女子学生が多いためだという。

 さらに女子学生を惹きつけるためには、女子に人気の高い学部の設置や、女子学生がより関心を持つような授業内容やカリキュラム上の工夫などはしないのかと尋ねてみた。新学部の設置については、2009年ごろから町田キャンパスに新学部の設置構想を検討してきたものの、様々な理由から廃止したが、今後は既存学部の改組などで新しい学部・学科を創ることなども検討しているという。その際に①建学の精神に沿ったもので世のため、社会に貢献できるような内容であること、②女子学生が関心を持つような分野であること、③就職の保証ができる分野といった条件に見合う内容にしたいと検討中だという。また、女子学生が増えることで教学面、例えば提供するカリキュラムや授業内容がかわるのかは、3年前に学長に見直しを依頼し、それぞれの学部学科に合った見直しを行ってもらっている。カリキュラム改革は時間がかかるので、最低4年はかけて行い、見直しをしていく予定だという。

図表4 2012年の学部別の学生数と女子割合

今後の課題

 国士舘は2017年に100周年をむかえるが、今後の課題についても尋ねてみた。教育環境をさらに整備し、日本一面倒見の良い大学を目指したいという。理事長は機会があるたびに教職員に「学生の面倒をよくみてほしい」「学生と対話してほしい」とお願いしている。専門分野の話だけでなく、それ以外の話をしたりすることが大事だという。

 近年、志願者が増加してきたからといって、「むやみに規模を拡大するつもりはない。今後の18歳人口の動向や質の維持という観点から考えればむしろ規模を減らしたいくらい」という。法人全体で15000名くらいの現在の規模を維持し、教育環境や教育の質を向上させることに投資していく予定だ。新しい校舎Maple Century Hallも創立100周年事業の一環であるし、2つの寮(合わせて600名ほどの収容規模)の建て替えの時期でもあり、より大学で過ごしたくなるような環境を作っていく予定だ。今後の経営環境を考えれば、新たな借金をするのではなく、節電など、圧縮できるところは徹底的に無駄をはぶいて、教育環境の整備を進め、さらなる質の向上を目指すという。今後の展開が楽しみだ。


(両角亜希子 東京大学大学院教育学研究科 講師)


【印刷用記事】
女子獲得戦略でイメージチェンジし志願者増へ/国士舘大学