企業とのアライアンスを強化し、就業力を育成/千葉商科大学

 2011年に大学設置基準が改正され、「大学は、生涯を通じた持続的な就業力の育成を目指し、教育課程の内外を通じて社会的・職業的自立に向けた指導等に取り組むこと」が明記され、就業力育成は大学教育の重要な課題となっている。各大学が活動の方向性を模索する中、地域産業人材の育成や地域経済の活性化にもつながるような就業力育成の取り組みが注目されている。

 この連載では、産業界との連携や地元自治体との協働によって学生の就業力を高めることに成功している事例などを、積極的に紹介していきたい。

 今回は、2009年度にサービス創造学部、2014年度に人間社会学部を創設、2015年度にも国際教養学部の開設を控える千葉商科大学で、島田晴雄学長にお話をうかがった。短期の補助金プロジェクトのみに頼らず、中長期の教学の設計に就業力強化を組み込む方針を貫いている。

機会を与えて伸ばす教育

 千葉商科大学(CUC、以下千葉商大)の島田晴雄学長は「就業力を強化することが大切っていうのは文科省が言い出したことですけれど、われわれも全く同感です」と言いつつ、「大学生の就業力育成支援事業」をはじめとする補助金事業には、「抽象的。現場を知らない空論」と批判的だ。就業力強化に「紐つきのカネ」は不要と手厳しい。その一方で学生に対しては、長所短所を見極めつつ将来を案ずる「親心」を見せる。

 「千葉商大の学生って、小さい時からあまり褒められたことがない学生が少なくない。また、うちの大学は個性を重んじると言ってるので、これはイージーだと思って入学してくる学生も存在する。例えばある時陸上競技場にいた女子学生に、『おい、俺が誰か分かるか』って声をかけたら、『学長でしょー!』『サングラス似合うね、学長。ちゃらいね』と。そんな口の利き方ですよ。そうした学生を鍛えてあげないと。でもその子なんか、チアリーダーやって大評判で、すっかり自信をつけた。なんだったら踊ってみせましょうかなんて。

 みんないい子なんだ。人柄もいいし、やりたいことを見つけたら、一生懸命やるんだから。そういう学生は企業に評価される。学生は機会を与えれば伸びるんです」。

 これが島田学長の考える「具体的な就業力」の一例だ。

CUCアライアンス企業ネットワーク

 素直ないい子ではあるが、就職試験には苦戦する千葉商大の学生。素直な人材が欲しいと思っているが思うように採用できない中堅中小企業。両者が提携する「CUCアライアンス企業」の制度は2008年に始まり、現在約620社(2015年1月現在)が名を連ねる(図表1)。

 アライアンス企業の関係者は年間を通じて頻繁にキャンパスを訪れる。学生が企業と接する機 会も自然に多くなる。「学生たちには、君たちが行けば、企業側は親戚の子が来たみたいに思ってくれるよって教え込む。僕が企業側にそう言ってあるからと。そうするとわりと気楽に会いに行ける。そのうちに、何の仕事がいいかなって考えるじゃないですか」。

 そのような就業観・職業観を養う場としてはもちろん、実際の就職先としても機能しており、現在、学生の約4割がアライアンス企業に就職しているという。

 全学的な取り組みとして千葉商大は「国際力教育」も掲げている。例えば、2011年度から、中国、韓国、インド、米国などから学生を招待する「CUCサマープログラム」を実施。参加大学とは相互に「学生の自己負担は原則として渡航費のみ」という同じ条件で学生を受け入れる協定を結んでおり、千葉商大の学生は、中国、韓国、インドなどの「交換サマープログラム」を体験している。

 島田学長がもう一つ挙げた取り組みは、アジア学生交流会議 Global Partnership of Asian Colleges(GPAC)だ。持ち回りの開催国にアジア各国の学生が集まり、1週間ほど合宿しながら英語でディスカッションする。

 「これは24年前、僕が慶應で始めたもの。慶應ではハーバードクラスの議論ができる。千葉商大でもやれるかと思ったけど、突っ込んで応援したら、やれるんだよね。チャンスを与え自信を与えれば、こんなにも伸びる。涙が出るほど嬉しいね」。

 また、加藤寛・前学長時代から12年間にわたり留学生を送りあうなどして深い信頼関係を築いてきた中国の上海立信会計学院とは、2014年度にダブル・ディグリーのプログラムをスタートさせている。

図表1 CUC アライアンス企業ネットワーク

メガトレンドを捉えた学部新設

 島田学長は就任以来、3つの新学部構想を手がけ、実現してきた。2009年度にサービス創造学部(吉田優治学部長)、2014年度に人間社会学部(朝比奈剛学部長)。そして2015年度には国際教養学部(宮崎緑学部長)が設立される予定だ。

 「世の中が変化していくメガトレンドを捉えて、その要請を先取りするコンテンツを持った学部を作る。学生が卒業する頃にちょうど『進んでいるね』という評価になる。そういうのが大学の役目だと思うわけです」。

 メガトレンドとは例えば「ものづくりの時代からサービス化の時代へ」。それを捉えたのがサービス創造学部だ。「日本は先進国の中ではサービス化がまだ遅れている。遅れているということは、伸びしろがあるっていうことなのですよね。しかしそのサービスを体系的に教える学部がないじゃないか、というのが学部設立の趣旨」。

 島田学長と吉田学部長は、新学部設立準備の過程で、経済学、マーケティング、組織管理などの専門家はいても、サービスを専門にしている教員・研究者はいない、という問題に行き当たる。「それで考えたのは、世の中の9割ぐらいのサービス関連企業では、目の前のお客さんの評価が全てであるわけでしょ。ならば学問にはなっていないとしても、現場の知識の蓄積がある。経験もね。そこに学ぼうと」。

 サービス創造学部は、学問から学ぶ・企業から学ぶ・活動から学ぶという「3つの学び」を掲げた。「企業から」に関しては、学長のトップセールスにより、「公式サポーター企業」の協定を50社以上と結んだ。講義への講師派遣、インターンシップ、集合実習の受け入れなど、非常に密接な関係を作っている。「活動から」の例としては、地元の千葉ロッテマリーンズと提携して、球場のアレンジ、チアリーダーの派遣、イベントの企画などに学生が携わっている。

 企業から・活動から学ぶ際、学生は自ずとキャンパス外へ出ていき、学内では得られない様々な体験をする。「就職の時、私はこんなことをやったんだってストーリーをきちんと語れば、就職に受かるのです」。第1期生卒業の2012年度、翌2013年度と2年連続で、サービス創造学部の就職率は99.3パーセントという高水準に達した。

 人間社会学部の場合、メガトレンドはこうだ。「現代社会で、人は傷つきやすく弱くなっている。地方は空洞化する、家庭は崩壊する、病人は蓄積する、税金は上がっていく。こんな不安を乗り越えて生きていくという難問を、商科大学として、民間のナレッジとスキルをもって解いていく学部を作ろうと」。

 島田学長と朝比奈学部長が議論の末に新学部のコンセプトとして打ち出したのは「われわれが助けるのは家族です、コミュニティーです、医療福祉機関です」というもの。

 家族支援とは例えば健康づくりであり、コミュニティー支援とは「お金をかけない観光」だという。「そういうノウハウを身につけて、田舎で生活する学生を、首都圏の大学である千葉商大と地方とで循環させていきましょうと。そのために学生を連れていって、田植えを手伝ったりしながら田舎のエトスを学んでね、その土地を愛するようにしなきゃいけない。これも一つの就業力なんだよね」。

 医療福祉については、会計や経済を専門にしつつ、介護の国家資格も持っている人材を輩出したいという。

 「大手の医療福祉グループの代表が言うには、国家資格を持つ介護福祉士はもちろん大切だけれど、一番不足しているのは、経営スタッフだというんです。今従業員が8000人ほどいて、大半が介護士だけど、本当は3000人ぐらいは、経営の分かる人が必要なんだって」

 介護は補助金産業で、介護度が上がれば補助金が増える、即ち儲けが増えるという構造がある。悪徳経営者にかかれば、寝たきりの人と国民負担とが共に際限なく増えていきかねない。そんな事態を防ぐために、「非常に効率的で合理的で、良く考えられた経営」が必要だと島田学長は言う。「学生に言ったんだよね。色々な人が滞在するホテルが舞台のテレビドラマとか映画とか、見たことあるだろうと。介護施設っていうのはホテルと病院を組み合せた施設だ。どのくらい高いスキル、幅広いスキルが必要か想像してみなさいと」。

 2015年度開設(予定)の国際教養学部は、政策情報学部の宮崎緑教授を学部長に任命。

 最も知りたい「本当に役に立つグローバル人材とは」「その養成法とは」を探るべく宮崎学部長は、中国・アジアに進出する数十人の経営者に合計何百時間という聞き取りを行った。しかし、島田学長曰く、「結局、こういうふうに教えればグローバルで稼げる力がつくってノウハウは、なかった。要するに、見える化できてないんだ。まあそうは言うけど、多少は体系的なものがあるんじゃないのと。それを、大学と協力して、開発していこうじゃないかというコンセプトの学部です」。「見える化できていない」は、「大学で教えることなんて役に立たない」と言い換えることもできる。「就業力の元があるのは大学じゃなく、たぶん、現場ですよ」というので、学生を、どんどん現場へ連れていく。国際教養学部の「現場」は、もちろん「世界」だ。4年間のうちに短期留学は全員、長期留学はオプションだが、多くの学生に参加させたいと考えている。

 入学式からして、パスポートとキャリーバッグ持参。入学式を終えるとすぐ成田に直行して、夕方には上海。3泊4日の海外フレッシュマンキャンプが始まる。

ハイスピード経営

 こうした前例のない新しい取り組みを実践していくに当たり、スピードが必要だという。

 激動の世の中、ハイスピードで企業経営する感覚があれば大学は面白い、と島田学長は言う。「面白いっていうか、人間育てるのだから、楽しいじゃないですか。打てば響くから、若い者は」


(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)


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