国際社会で活躍するポテンシャルとダイバーシティの確保/国際教養大学

愛知学院大学キャンパス


中津将樹入試室長

国際社会で活躍するポテンシャルとダイバーシティの確保本連載では、大学の入学者選抜において、高校と大学の教育の接続を担うもの、多面的・総合的評価を実践しているもの、独自の理念に基づく選抜を行うものをご紹介していく。初回は秋田県の公立大学である国際教養大学(以下AIU)を取り上げたい。

理念を体現するタフなカリキュラム

 AIUは英語をはじめとする外国語の卓越したコミュニケーション能力と豊かな教養、グローバルな視野を伴った専門知識を身につけた実践力のある人材を育成し、国際社会と地域社会に貢献することを使命とする、リベラルアーツを軸にした教育を展開する大学である。世界に通じる広い視野や自由な行動力を持つために、4年間かけて自らの知の土台を築く独自の教育システム・カリキュラム(図参照)に高い評価を集める。

 AIUは入学希望者に「高い学習意欲」「鋭い問題意識」「国際社会で活躍することを志す志向性」「世界の多様な文化・言語・歴史等の国際関係性に対する強い関心・探求心」を求める。ここに前述した理念とアドミッション・ポリシーが明確に紐づいている。

 また、入学定員175名の選抜のために、16もの入試制度を準備している。その目的は多様性の確保であると、中津将樹入試室長は話す。「開学以来掲げるダイバーシティは本学を支える大きな価値観です。入試タイプごとに採りたい学生像は異なる。卒業後は外国人と競争して渡り合える人材を想定しており、それは多様な価値観に揉まれてこそ。また、言語や学事歴の問題ではなく、教育の中身や勉強量も国際水準です。それに耐えられるスキル・スタンスを入試で見極めるのは当然のこと」。

 誤解が多いようだが、AIUは語学としての英語を学ぶ大学ではない。理念にあるように求められるのは「グローバルな視野を持って国際社会と地域社会に貢献する」ことであり、英語はその専門分野を学ぶうえで必要な国際通用ツールである。専門教育を英語で学ぶことにこそ意味があり、AIUの競合優位性があると言えるだろう。そのために入学後は徹底的に英語力を磨き、高校までの学びと大学での学びの違いに備える。基盤教育から全授業を英語で開講し、授業の宿題も多く課す。

 思考力や論理性がなければ議論に参加することすら難しいが、壁にぶつかり試行錯誤する経験を多く積ませることこそが有意義であり、そこで同志と切磋琢磨しながら挑むことで、将来につながる地力が培われていくのである。全ての学生に対し、2年次以降には1年間の留学が義務づけられており、留学先の専門教育を英語で学ぶ。こうした経験を経て、世界と自分、社会と自分といった十人十色の軸を獲得していくのである。

図 大学4年間のカリキュラム概観

卒業生による質の高いマッチング選抜

 こうした濃密な教育を4年間受けた卒業生は、まさにAIUの理念を体現する存在だ。ある企業の人事担当は、「AIUの学生に期待するのは英語力よりもタフネス。在学中に課されるハードルの数と高さが、他校の追随を許さない」と言う。学生を徹底的に鍛え上げる教育と、それを支える教職員の切磋琢磨こそが、AIUの強みそのものなのであろう。

 こうした人材輩出の高い実績を背景に、2013年度から面接官に卒業生を据えるユニークなAO入試を行っている。AO入試は志望理由書・調査書・英語小論文や英語・日本語の面接等を総合的に評価するが、そのうち卒業生を起用しているのは日本語面接だ。在学中の学業成績・課外活動・卒業後の活躍等を総合的に勘案し、起用する卒業生を決めるという。卒業生には事前の個別指導等により、面接を行う背景や採点方針の周知徹底、個人情報の守秘義務等を指導している。交通費等の費用負担は全てAIUが持つという。そうまでして卒業生を起用する理由は、「質の高いマッチングを期待して」とのことだという。「AIUの中退率は全学年通して約4%と、全国平均より低いスコアです。これは入学段階できちんと大学が志願者に求める内容とのマッチングができているから。本学では広報活動でも、在学生による母校訪問とは別に卒業生による高校訪問を依頼するケースもありますが、非常に協力的です。高校生から見ても卒業生を見ることは、この大学で精進するとどうなれるのか、教育成果の可視化という効果も大きい。これからも入試・広報活動において卒業生の協力を得ていきたい」。日本ではあまり馴染みのないやり方だが、米国アイビーリーグ等では統一テストとコモンアプリケーションによる願書入試が行われる傍ら、書類に加え卒業生による面接が行われるケースも多くある。日本では「公正性」と「公平性」が問題になりやすいが、入試の専門家による設計自体が概ね信頼を得ている米国との文化の違いが色濃い。大学の理念が明確で、それに紐づいた教育システムが盤石だからこそ、取り組める内容ともいえる。

大学教育の模擬体験で適性を確認する

 AIUではほかにも独自の入試制度がある。「グローバル・セミナー入試」と銘打つそれは、秋田県内の高校生を対象に2010年から開始された。10名の定員枠に5倍以上の志願者が集まる。志願者は、まず5月と8月に実施される「グローバル・セミナー」への参加が必須となる。セミナーは2泊3日キャンパスで行われるが、主たる目的は「県内の高校生の教養力向上」。即ち、「高校までに勉強している領域は、本来の学問領域の10分の1にも満たない。大学で学ぶとはどういうことか、その広がりを体感してほしいと思っています」との趣旨だ。日本語による授業とディスカッションのほか、EAP等英語の簡易プログラム、留学生・卒業生との交流等が行われる。入試ではセミナーで提出した2点のレポートのほか、面接・調査書・志望理由書等で総合的に合否が決まる。運営側からすれば極めて負荷の高いこの取り組みには、当然「AIUを模擬体験することで精度の高い募集マッチングを行う」という募集上の目的もある。前述したAO入試と同じく、選考段階できちんと手間暇をかけ、AIUに最適な人材を選抜しようとする大学のスタンスが強く感じられる。

 中津室長は「AIUの理念を確認すれば、厳しい教育を行う理由や、選抜で何を重視するかは理解できるはず。逆に、そこが一貫していないのは社会に対して無責任ではないか」と苦言を呈する。何を学ぶために、どんなスキル・コンピテンシーを、どう評価するのか。入試は受験生のみならず、社会へのメッセージにもなりつつある。マッチングを軸にしたAIUの入試のさらなる進化が楽しみである。

(本誌 鹿島 梓)



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