「技術×デザイン」で未来のものづくりを支える専門職業人を育成/大阪工業大学

大阪工業大学キャンパス


 21世紀においても科学技術が目まぐるしく進化を続けるなか、政府の「第5期科学技術基本計画」は、Society5.0(超スマート社会)の実現を通して新しい社会的価値や経済的価値を生み出していく必要性を謳っている。今や、メディアやネットを通してAIやIoTといった新たな技術や仕組みが社会を変えつつあることが伝えられる機会も少なくない。我々の暮らしが具体的にどう変わろうとしているのかは必ずしもはっきり見えてきているわけではないものの、来るべき新しい社会の姿を描き、そこで求められる専門性とそれを十全に発揮できる人材を育成していく必要性が高まっていることは確かだろう。


西村泰志 学長

 本稿では、そんな最先端の知識や技術の教育を推進する大学として、大阪工業大学(以下、大工大)に着目したい。大工大は、2017年4月「ロボティクス&デザイン工学部」を新設し、21世紀に求められる理工学教育をめぐって様々な取り組みを始めている。大工大・梅田キャンパスに西村泰志学長、宮岸幸正副学長を訪ね、お話を伺った。

大阪のインフラ整備を支える学校として出発

 そもそも大工大の始まりは今から100年前の大正期に遡る。大正11(1922)年に創設された「関西工学専修学校」がその嚆矢だ。

 明治半ばから後期にかけての大阪では、電気、電話、水道、市電、ガスといった都市インフラが次々に整備されるとともに、商業都市として知られた大阪は工業都市へ

 と変化を遂げつつあった。特に、第一次世界大戦の特需景気によって軽工業から重工業へと産業構造が変化するなか、人口流入が起こり、大阪は東京よりも多くの人口を抱えるまでになった。しかし他方で、大阪には依然として都市整備や工業発展のための技術者が十分にいなかった。まずは、現場で工業化を担うことのできる技術専門職業人を育成すること、それが喫緊の課題だった。「関西工学専修学校」は、そんな時代的・社会的要請に応える地域貢献型の学校として、建築と土木の二つの学科でスタートを切った。

 それを率いたのは初代校長の片岡 安氏だ。片岡氏は、辰野 金吾氏(東京駅や日本銀行本店の設計者)とともに、大阪市中央公会堂(国指定重要文化財)を設計する等明治から昭和にかけて活躍した建築家として知られる。片岡校長は、「工業化する大阪の現場に即戦力として活躍できる人材、都市改造の現場ですぐに役立つ人材を輩出すること」に情熱を注いだ。

 そのことは、現在まで続く「建学の精神」に明瞭に表現されている。

 「世のため、人のため、地域のために、理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人を育成する。」この建学の精神に則り、「関西工学専修学校」は高度技術者養成を一貫して進めてきた。事実、学校を修了した卒業生らは御堂筋をはじめとする大阪の都市インフラ整備に携わったと西村学長は述べる。

 同専修学校は、その後、昭和24(1949)年に工学部のみからなる「大阪工業大学」として大学昇格し、平成8(1996)年に「情報科学部」、平成15(2003)年には「知的財産学部」が設置されている。これまでに送り出した卒業生は約10万5000人に上るという。関西工学専修学校に始まる大工大は、大阪はもとより日本の工業発展、特に現場において発展を支える人材育成に貢献し続けてきた教育機関だといっていい。

 現在、大工大を設置する学校法人常翔学園は、摂南大学や広島国際大学など3大学・2高校・2中学を傘下に有し、学生・生徒約2万3000人が集う総合学園だ。5年後の2022年に創立100周年を迎える。同学園はそれを見据えて、2008年から1期5年の中期目標・計画(全3期)で構成される基本構想「J-Vision」を策定し、学園経営の効率化、学園ブランドの強化を図ってきた。創立90周年の2012年、「J-Vision22-常翔学園創立100周年に向けて」を定めており、今年度その第Ⅱ期が終了し、来年には100周年に向けた最後の5年間が始まることになる。

 J-Vision22は、少子化による18歳人口の減少に対する危機感を背景に、「次代の要請に的確に応え、社会から選ばれる教育機関」であることを目指すものだ。次にみる「梅田キャンパス」の新設は、2017年度の同学園理事長指針においても、学園全体の成長エンジンとして、さらに新たな教育・研究及びイノベーションの拠点として位置付けられるなど、学園の改革・発展にとって一つの重要な画期をなすものと捉えられている。

地域に開かれた交流拠点としての梅田キャンパス


図1 各キャンパスにおける学部・学科構成の変化

 大工大は2017年4月、大宮(大阪市旭区)、枚ひらかた方(枚方市)に次ぐ第三のキャンパスとして梅田キャンパスを新設し、4番目の学部として「ロボティクス&デザイン工学部」を設置した。これにより、大工大は4学部・4研究科体制、学生数約7000人を擁する大学となった。「ロボティクス&デザイン工学部」は、これまで大宮キャンパスにあった工学部の空間デザイン学科とロボット工学科に、システムデザイン工学科を新たに加えて創設された新学部だ(図1)。「ロボティクス&デザイン工学部」という学部名称はなかなかに斬新だ。英語の「&」が入っているのは極めて珍しく、実際に全国初だという。その斬新さに学内から反対の声が上がったのではないかと懸念したが、思いのほかすんなり決まったと宮岸副学長はふり返る。3つの学科を分かりやすく伝える学部名として、「ロボティクス&デザイン」が最適だったという。

 さて、このロボティクス&デザイン工学部が入る梅田キャンパスは、大阪の中心地・梅田茶屋町に位置し、JR大阪駅や阪急梅田駅からは目と鼻の先だ。2016年10月、もともと小学校だった跡地に、地上21階・地下2階建ての「OIT梅田タワー」が竣工した。

 1~2階と21階にはコンビニエンスストアや有名レストランが入り、3階から5階にかけては576席を有するコンベンションホール(常翔ホール)も備える。3階までは市民らが自由に出入りすることが可能だ。コンビニを利用して足早に立ち去る市民も珍しくなく、梅田の街にすっかり溶け込んでいる様子だ。そして、6~20階が大学施設となっていて、講義室や実験室はもちろんのこと、学生の自発的な学習を支援しイノベーションやデザインの創発を促すべく、ラーニング・コモンズ(6階)、ロボティクス&デザインセンター(8階)、デザインスタジオ(17階)といった学習・研究施設が整備されている。実際にキャンパス内を歩いてみると、機械や電気といった伝統的な工学分野が持つ堅いイメージはあまり感じられない。ロボット工学やデザインを学ぶにふさわしい洗練された空間が広がり、市民や地域との交流が十分意識された開放的な都市型キャンパスとなっている。

 それにしても、これだけの施設だ。その整備に相当な資金を要したことは想像に難くない。近年「都心回帰」を進める私立大学は珍しくないが、少なからぬ資金を投じて、いま大工大が梅田への進出を決めた理由はどこにあるのだろうか。

 そもそも梅田構想は3~4年前に始まったのだという。西村学長は、背景として、少子化による、いわゆる「2018年問題」への対応も当然あるが、それ以上に大工大が「市民志向」を強化していく必要性があったことを強調する。その意味で、梅田キャンパスは産官学連携の場であるだけでなく、市民も巻き込んでデザイン思考で新しいものを創っていける知の拠点であり、「前線基地」だと西村学長は表現する。JR大阪駅・阪急梅田駅の乗降客は一日平均240万人余りだ。情報の最先端に触れ、社会との接点となり得るのが梅田キャンパスだと言っていい。学部学科も最先端の知を扱い、教育していく開かれた場になっている。

 実際、梅田に工業大学ができたことで社会的な発信がしやすくなったそうだ。大阪にもものづくりの町があり、地元の茶屋町を中心に多様な企業から話が来るようになったと西村学長は語る。それを象徴するように、道路に面した1階入口のギャラリーでは、企業と共同開発したロボット介護機器が展示・実演されている。なるほど、人に優しく、人を大事にする技術の創出を目指すロボット工学やデザイン工学だからこそ、人と情報が集まる梅田という経済中心地で展開することに意義があると言えそうだ。さらに、JR大阪環状線内に立地する大学数は限られていることを踏まえれば、他大学との差別化を図って競争力を保持するという点においても梅田進出の意味は極めて大きかったと言える。

未来にイノベーションを起こす「デザイン思考」


図2 志願者数の推移

 こうして、梅田に拠点が整備され、そこで「デザイン」を含む教育研究が展開されるようになったことで、今後は学生の志願動向にも変化が生じる可能性が高い。過去10年の志願者数の推移を振り返ってみると、全体として確実に右肩上がりで増加してきていることが分かる(図2)。特に、女子志願者数はここ10年で3.2倍となっていて、男子の1.8倍増に比較しても伸びが顕著だ。前述の通り、人のQOL(生活の質)の向上に寄与する空間とプロダクトのデザインについて学び研究する「空間デザイン学科」が梅田キャンパスに設置されていることは、女子学生の入学増につながっていく可能性を秘めている。実際に、現在同学科のほぼ40%が女子学生だという。

 さらに、交通至便な梅田キャンパスができたことで学生の通学圏も、兵庫県、滋賀県、和歌山県などに広がりつつあるそうだ。従来とは異なる地域からの志願者が増える「梅田効果」にも期待がかかる。

 さて、21世紀社会に入り、「工学」が扱う範囲は色や形のあるモノを対象とする技術にとどまらなくなっている。従来の技術中心から、人間やシステムを含むコトも扱う工学へと広がりつつある。そんな人間中心の工学においてキーワードとなるのが「技術」に加えて、「デザイン」だと宮岸副学長は説明する。高い技術だけでなく、魅力的な製品やシステムにまとめていくデザイン力によって人に優しい社会を創り、真の豊かさを実現していこうという試みが進んでいる。

 そこでロボティクス&デザイン工学部が重視するのが、「デザイン思考」の教育だ。「デザイン思考」とは、従来の考え方では解決できない問題に対し、①観察、②アイデア創出、③プロトタイピング(具体化)と検証を繰り返しながら、解決策を生み出していく発想法だ。「デザイン思考」は3学科共通のカリキュラムに通底する教育手法であり、例えば全1年生向けに「デザイン思考工学概論」が提供され、さらに「デザイン思考実践演習」、「ものづくりデザイン思考実践演習」といった関連科目も開設されている。「イノベーションを創出できる起業家型の人材」を育成するためには、従来通りのものづくり教育だけでは十分ではない。技術はどの時代にも必要なものだが、求められる資質能力が変わってきたというわけだ。

 その意味では、狭い「工学」だけでなく、一般教養を担当する教員も巻き込んで教育が提供できる体制がとられている点も重要だ。ロボティクス&デザイン工学部では、一般教養担当教員も3学科に所属し、常に専門教育担当教員と相談しながらプロジェクトを進めるなど、一体的に教育活動を行っている。ここ3~4 年で、専門のほうから一般教養に対して要求を出すなどを通して相互の有機的連携が着実に深化してきていると西村学長は述べる。

ミニマム・リクワイアメントによる「工大質保証」

 ロボティクス&デザイン工学部では現在、卒業要件124単位のうち共通科目が38単位を占めている。この38単位を無駄にすると124単位の値打ちが全体として下がってしまう。あらゆる科目についてしっかり学習し成果を出していくことが必要になっていると宮岸副学長は述べる。そこで強化が図られているのが、ディプロマ・ポリシーを基盤とした卒業時における質保証だ。

 大工大は昨年、文部科学省の「大学教育再生加速プログラム(AP)テーマⅤ―卒業時における質保証の取組の強化―」に採択された。現在、「工大質保証」として、ディプロマ・ポリシーを軸に学習成果の可視化と修学指導の充実を図っている。とりわけ今年度からは、各授業科目で最低限達成すべき基準を定める「ミニマム・リクワイアメント」を設定し、最終的にディプロマ・ポリシーの達成を確実なものにしようと取り組んでいる。そのために、主要科目については、単位を落としても次の学期に同じ科目を勉強できる体制を整備し、基本的な知識や技術の定着を促している。大学としては当然の取り組みだが、しっかり学ばせることで、学生が勉強の面白さを身につけ、ひいては大学院進学も現在の1割強から2~3割に増えてくれるのではないかと西村学長は期待をかける。

 大工大は、高い就職率を誇ってきた伝統があるが、それも元を辿れば、簡単には卒業させてもらえないと言われるほどに厳しめの教育がなされてきたからだ。そんな良き伝統を維持するためにも、質保証の取り組みが効果を上げていくことが大切だという。「施設の素晴らしさだけに終わらせずに、どういう成果をもった学生を送り出せるかが勝負のポイントになる」と西村学長は言う。

 近年、日本全体で理工系人材の減少が進むなか、理工学教育の活性化は全国的な重要課題だ。日本の理工学教育の水準や魅力の向上に向けた取り組みも始まっている。今年6 月には大工大を含む5つの私立工業大学が梅田キャンパスに集い、「第1回 工大サミット」が開催された。現場で活躍できる実践的な人材育成を担ってきた大学として、大工大が展開する「技術×デザイン」で専門性を身につけた人材育成への期待は高い。

(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)



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