徹底的な学生視点と建学の理念の追求/流通経済大学

流通経済大学キャンパス


野尻俊明 学長

 流通経済大学(以下、RKU)は日本通運株式会社の資金の拠出で、1965年に設立された大学である。経済学科のみの単科大学として始まり、現在は5学部9学科5大学院研究科、約5500名の学生を有し、社会科学系を中心とする中規模大学として発展している。龍ケ崎(茨城)と新松戸(千葉)の2キャンパスは、必ずしも立地に恵まれているとは言えないが、これまで順調に入学定員を満たしている。この10年の志願者の推移を見ても(図1)、特にこの5年ほどは高校生からの人気も大きく向上している。順調の背景にどんな秘訣があるのか、野尻俊明学長にお話を伺った。

相手目線で信頼を得る

 創設時は日本通運が出資して法人を設立し、最初の数年間は全国規模で学生募集をしていた歴史を持つ。運送業の跡取り等が主なターゲットで、そのネットワークは現在も大きい。それに加えて、長い時間をかけて築いてきた信頼関係が大学を良い方向に動かしてきたのではないかと学長は話す。例えば現在も、大学入試の混乱やコロナ禍等、「これからの大学はどうなるのだろう」という高校生や高校の不安は大きいが、自大学の情報だけでなく、日本の高等教育に関して自分達が知っている情報を積極的に知らせる等、丁寧に信頼関係を構築してきた。相手側の視点に立てば考えられることだが、そうした姿勢で高校と付き合う大学は必ずしも多くないのではないか。

 学生目線に立つことは、2004年に新松戸キャンパスを開設した時から導入したキャンパス選択制にも象徴的に表れる。学生が入学時点で学ぶキャンパスを自由に選ぶという画期的なアイデアで、最初に聞いた時にはとても驚いた記憶がある。新松戸キャンパスを作る際に、2つのキャンパスの役割について、教養課程と専門課程で分ける案、学部学科によって分ける案も検討したが、当時も学長だった野尻学長は「教員の都合で運営せず、学生目線でやっていこう」とキャンパス選択制を提案し、当時の4学部教授会を回って積極的に議論を重ねた。極端に片方のキャンパスへの希望が偏った国際観光学科と流通情報学科、来年度からは社会学科も新松戸キャンパスのみになるが、一定の歴史的な役割が大きかったと話す。学生からすれば、通いやすいキャンパスを選べるのは大きな魅力だが、同様の取り組みをする大学はほとんど聞いたことがない。経営レベルの決定であっても徹底的に学生の視点に立ち、行動できる同校ゆえの戦略である。

近年の志願者数の推移

物流・ロジスティクス分野の際立った特徴と理解を得る難しさ

 RKUは、流通革命が叫ばれた時代に、そうした社会・経済を支える人材を育てることを建学の理念とし、日本の安定した社会基盤の骨格を支える堅実で健全な人材を育てることを重視してきた。

 最も特徴的な流通情報学部は1996年に設置したが、数年前までは募集で苦労していたという。物流=トラックの運転手、というイメージが強く、高校生の母親が受験に反対するケースもあった。東日本大震災やコロナ禍等、経済が予定通りに動かないことを経験してみて初めて、安定した物流やロジスティクスがいかにインフラとして社会を支えているのかが理解され、耳馴染みのある言葉になっていった。そういう意味では、「大学の努力というよりも、世の中が変わったことも高校生から選ばれるようになった理由として大きい」と学長は話す。

 一方で学長は、いずれはこの分野の重要性が見直されるようになるとの思いも持っていたという。中国や東南アジアの優秀な留学生から根強い人気があり、「日本のスマートで洗練されたロジスティクスを学び、国に帰ると役に立つ、ロジスティクスを学ぶならRKUだ」と選んでくれるからである。現在は日本人の志願者が増えてきたが、今後も留学生枠を作る等して、グローバルに活躍する人材を育て続けたいという。

 近年は研究機能強化にも力を入れる。2008年から3年間、経済産業省の産業人材育成プロジェクトで、物流分野の産学連携による人材育成の資金を獲得し、2018年には文部科学省の研究ブランディング事業にも採択された(図2)。ロジスティクス分野の研究拠点と人材育成を行うものだが、実は日本国内では、この分野を専門的に研究する若い研究者がそもそも少ない。たとえ現在は物流の研究を専門にしていなくても関心を持つ若い研究者を囲い込み、積極的に連携・研究を行っていかなければ、研究拠点としての将来性がなくなるという危機感を抱き、取り組んでいる。

入試方式別の志願者数の推移

 学生を育てていくうえでも、現場経験をしてその楽しさと難しさを実感することは重要で、実践科目を多数配置し、企業の担当者を講師に招き、現場で起きていることを知ってもらう機会を大切にしている。物流がなぜ大切で社会でどのように役に立っているかを知ることで、より主体的に学ぶきっかけにもなる。物流現場は危険な場所もあり、学生を受け入れることに慎重な企業もあるが、開学以来、産学連携を重視し、企業とコミュニケーションをとってきた実績があるがゆえに、こうした生きた学習が可能になっている。

建学の理念を重視しつつ将来を見据えて進化を続ける

流通経済大学の沿革

 このように建学の理念に直結した流通経済分野を大切に育て、この分野をリードしつつも、同時に社会の変化に応じて育成人材像を少しずつ変えてきた。そのことは学部学科の新設状況からもうかがい知ることができる(表1)。1988年、経済優先の高度成長期のあとには豊かな人生を歩むことが重要と考え、社会学部を作った。同じ入試をしているにも拘わらず、社会学部で4年間学んだ学生は他の学部の学生とは異なり、多様な価値観を持つ特徴があるという。1993年には国際観光学科を作った。開学後4~5年たった頃に米国大手ホテル企業から日本通運を介して、旅行や観光関係の学部を設置しないかという打診があったそうだが、当時は資金がなくて実現できず、大学としての基盤が整ってきたタイミングで、念願の観光系学科を作ったという。この学科に入学する学生は、卒業後は観光・旅行業に就職したいという思いが一貫して強い特徴がある。2001年には法学部を作り、企業法務や地方行政を担う人材養成を展開し、さらに2006年にスポーツ健康科学部を作った。この学部は、やはり何らかの形でスポーツに携わる仕事がしたい学生が多い。

 2004年にキャンパス選択制を導入したが、徐々に新松戸を選択する学生が増えてきたため、龍ケ崎キャンパスをどうするか、2013年当時の将来構想委員会で検討した。龍ケ崎の環境を活かした学部構成について様々な案を検討し、2017年にスポーツコミュニケーション学科を作り、今年で4年目となる。子供のころからスポーツをやってきた学生が、社会ではスポーツに関連した職業に就かないことも多いが、それまでに培ってきた能力、例えば目標に向かって繰り返し努力できる能力、チームワークが取れ活発であること等の良さを十分に活かして伸ばす人材育成を目指す。実際、短期留学プログラムに積極的に参加するのはこの学科の学生である。留学するには経済的な課題もあるが、例えばインドネシアでラグビーを教えながら交流してくるプログラムをJICAと連携して作り、旅費や滞在費を支援してもらい短期留学を実現させる工夫をしている。グローバルな世界に打って出られる人材を育成する点で、新しいモデルとしての期待も大きい学科である。新しい分野はその中身が理解されづらいという大変さはあるが、建学の理念を重視しつつも、その時々の社会のニーズを捉え、将来を見据えて学部学科を作ってきたことも高校生から支持される要因の一つである。

改革を支える教職員の危機意識

 こうした新しい学部学科のコンセプトは、他大学の模倣ではなく、学内の議論から生まれてきているが、なぜそれが可能なのか。野尻学長は教職員の危機意識だと話す。単科大学として開学し、その数年後には、学生は集まっていたものの倒産の危機もあった。新しく入った教員に「先生は教員ではあるけれど、一人ひとりがこの大学の経営者です。そういう考えを持って自ら主体的に経営していかないといけない。私学は学生が来ないと潰れる」と最初に話すという。大学の一番の評価者は学生、一番の宣伝効果は口コミで、今いる学生に良かったと言ってもらえるかが大事であるという。「入学者1250名を確実に確保することが大切で、志願倍率を上げることよりも、本学が求める学生に入学してもらい、しっかり教育をすることを繰り返すことで経営が安定します」(野尻学長)。学生から集めた学納金も無駄遣いせず安定した運営をすることが大事で、30年来、蓄積した約5億円を財源に、今回のコロナ禍でも全学生に「RKU学修環境整備奨学金」(自宅学生8万円、自宅外学生10万円)を支給することができた。

 同大学の資料を拝見していると、一般教養も全学共通であり、1年次から4年次までゼミに所属させる「全員ゼミ制」、キャリア教育や入試を見ても、大学全体で共通の枠組みや姿勢があるため、何か工夫をしているのか尋ねてみた。学科ごとの事情や方法に違いはあるが、何かやる時は学部長連絡会や大学協議会で議論し、「一緒にやれるならやろう」と意思疎通しており、大学内の風通しも良いという。かつてはある学部で、独自の入試をしたいという話もあったが、今は大学として同じ方向を向いて苦しい時は補完し合おうという雰囲気が醸成されている。教員を採用する場合も、全て公募だが、学部の人事委員会を経て、最終的には理事長、学長等が最低2名は面接をして、「こういう大学だけど、本当によいか」としっかり説明して、強調している。入学定員の推移を確認すると、1996年から多少の増減はあるが、現在の1250名とほぼ同じ水準で維持しており、その時々に学科の人気度も変化している。純増ではなく、既存の学部学科の規模を小さくして、新しい学科を作ってきており、長い間、全学的な観点での協力・助け合いで大学が発展してきたことが、そうした雰囲気を構築してくるうえでも重要な役割を果たしてきたのかもしれない。

今後は大学教育の質をいかに高めるかが最大の課題

 今後の課題は教育の質だという。昨年カリキュラム改革を行い、特にディプロマポリシー、つまり世の中にいかに良い人材を送り出すかということから逆算した教育設計を行い、全学を上げて取り組んでいる。コロナ禍で、思いもかけず春学期はオンライン授業になったが、これを契機に「これまでの授業でよかったのか」という思いを抱く教員が多いという。100人規模の教室では居眠りをする学生も少なくなかったが、オンライン授業では反応が直接的で、教員も学生も緊張感があり、居眠りする学生もほとんどいない。いくつかの学部で学生にアンケートをしたところ、学生からもオンライン授業は極めて評判が良い。例えば、流通情報学部の新入生では、約4割が「オンライン授業が良い」と答え、学生は教員側が想像していた以上にすんなりと受け入れているという。翻って、ウィズコロナの時代の大学教育の中身はこれまでと同じものと考えてはいけないという危機感を多くの教員が持っている。「必要があればカリキュラム改革ももう一度見直す必要があるかもしれないが、一気に目が開けた思いだ」と野尻学長は前向きだ。ロジスティクス分野は労働力不足という大きな危機を抱え、AIやIoT等の科学技術を取り入れて進化する必要があるが、教育の場面でもそういう社会になることを見据えて、プログラムを作っていかないといけない。新しい時代や社会の中で、どういう教育展開ができるか、若い発想力に期待しているという。

 また、「学生を勇気づけ、自信を持たせてあげることも重要だ」と言う。RKUでは就職に力を入れているが、なかでも流通情報学部は企業からのニーズも非常に高い。運送会社からの求人のみならず、それらを使う側である大手企業や商社、メーカーからの引き合いも多いという。かつてはロジスティクスの会社に任せていたが、自社の中でそれらを点検し、計画できる人材が欲しいというニーズがあるからだ。しかし、学生達は企業の名前を見て、巨大な企業で自分に何ができるのかと不安になり、引き合いがあるのに、そうした企業を選ばない学生も多い。そうした不安をいかに取り除き、学生に自己肯定感を持たせてあげられるかは教育上とても大事で、社会で挑戦する機会や自分が認められる経験をたくさん積ませたいという。RKUの中でもスポーツ健康科学部の学生は「これが得意だ」というものがあり、堂々とどこにでも入っていける良さがあるが、そうしたスタンスは勉強以上に重要な生きる力として、他学部でも身につけさせたいという。徹底的な学生視点と建学の精神の追求。この先のRKUのさらなる発展が楽しみだ。



(両角 亜希子 東京大学 大学院教育学研究科 准教授)



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