学修成果の可視化を軸に、全学の教育改善に取り組む/金城学院大学

金城学院大学キャンパス


 大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働と、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。

高野副学長、渡辺学長補佐、桐原学長補佐

 この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長及び改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索するなか、様々な取り組み事例を積極的に紹介していきたい。

 今回は、学修成果の可視化を軸とする改革に取り組む金城学院大学で、高野祐二副学長、渡辺恭子学長補佐(IR室長)、桐原健真学長補佐にお話を伺った。

『一生涯、女性を支える』大学

 金城学院大学は、学院として131年目、大学としても71年目を迎える、伝統ある女子大学だ。5学部合計の学生数が約5500人と、規模としては中規模となる。高野祐二副学長は教育上の特徴について「福音主義のキリスト教に基づく、女子学生の全人教育を目指しています」と言う。

 共学とは異なる女子大学の特性については、渡辺恭子学長補佐(IR室長)が「在学中に、女性の一生というものにイメージをつけてほしい」と語る。「そのための1つの学びとして、『女性みらい』という科目を全学必修としています。青年期から出産・子育て、中年期、それから老年期までの、女性の心身の健康について学ぶ授業です。これらを通じて、女性には多様な生き方があり、多様な生き方を選ぶことができると理解し、どんな生き方をするときにも金城での学びを活かしてほしい」。

 このほか、「女性みらい研究センター」を2018年に開設し、卒業生以外も含む女性が、子育てなりのあとで再度キャリア形成をする際に役立つ、女子大学の役割を考えている。「女性の一生涯を金城が支えるというコンセプトでおりまして、在学中だけでなく、広い世代にわたって女性と関われる大学であるといい」と高野副学長は言う。

IRで科学的根拠に基づく質保証

 「学ぶと働くをつなぐ」観点での金城学院大学は、地元を中心に高い就職実績をあげ、キャリア教育にも積極的に取り組んできた。そのなかで、社会に貢献できる人物を育成していくには、科学的根拠に基づく学修成果の可視化が必要と位置づけ、その第一歩として、アドミッション、カリキュラム、ディプロマの3ポリシーの改定に着手した。建学の精神も反映した全学共通の3ポリシーを2017 年度に作り、2018年度からはそれに合わせる形で、各学部各学科の3ポリシーを整えていった。

 取り組みの中心になっているのは、2019年度に設置され、渡辺学長補佐が室長を務める「IR室」だ。高野副学長は開設の経緯をこう説明する。「2016年度から事務組織にIR担当職員をおき、IRの取り組みを進めてきました。学修成果の可視化を含め、より効率良く、有効なデータを集めて分析をしたいということ、また、内部質保証の構築・整備の観点から、教員が入る形のIR室を作りました」。

 桐原健真学長補佐は、内部質保証の担当者として「IR室の企画を全学で実施する際の『つなぎ』が私の役割」と言い、現状を「各学科での共有をさらに進めていく段階」と位置づけている。

DP達成の検証に向けた様々な可視化

 ポリシーに加え、「アセスメント・ポリシー」も作成された。学修成果の可視化は、「大学がどういうデータをとり、分析、活用、公表していくか」というこのポリシーに基づく取り組みとなっており、成績評価、アンケート、外部試験が行われる。

 成績評価のDP対応ルーブリックは、学期ごとに自己評価を行い、教育目標であるDP(ディプロマポリシー)についての成果を可視化する。「卒業に関わる科目の評価に用いるルーブリックは、学位プログラムごとのDPに合わせて作成中です」(桐原学長補佐)。学生アンケートが可視化するのは、在学中の活動や経験だ。

 ジェネリックスキルを測定するPROGテストは、他大学との比較により大学の位置づけや特徴を知るだけでなく、2回受けることで学生が自身の成長を確認できるものとなっている。

 各データは、複数の調査を連携させて複合的に分析することも想定して配置しているという。例えば、外部試験のPROGテストでも、自由設問を卒業時アンケートと連動させるといった工夫で、伸びている学生はどういう要因が効いているのかを分析できるようにしているという。

 データを取り始めたのが、新しい3Pで動き出した2019年度入学生からなので、現在はまだ、2019年度入学生の1年分と、2020年度入学生の一部をもとに、分析を少しずつ始めている段階という。

 「もっと蓄積されてくると、色々なことがわかってきますので、それを教育の改善につなげていきます。少し先の話ですが、卒業後のデータを収集することも予定していて、卒業者アンケートや企業アンケートを通じて、社会で求められているものと本学の教育がどう関連しているのかも見ていきたいと思っています」(高野副学長)。

アセスメント・ポリシーに基づいた取り組み

全教員参加の「全学交流ダイアログ」が機能

 「実際の調査のあとは、全学のFD交流集会などの場で、各学科のデータ概要や特徴を共有する流れになっています。詳細なデータを受け取った学科は、各々でこれを活用していくことになります」(桐原学長補佐)。

 全学的に取り組みを進めていくにあたっての困難は、あまりなかったと高野副学長は言う。「このことに限らず、本学では、全学で共有する議題があるときには、全学の教員が集まる『全学交流ダイアログ』という会議を開催します。それがうまく機能していると思います」。

 文学部から、資格取得をメインとする薬学部まで専攻分野が広く、学部間の「温度差」もあるのではと尋ねてみたが、それも感じないと高野副学長は言う。「全学交流ダイアログなどで『薬学部では難しい』『文学部には馴染まない』などの声が出てくるので、それは調整します。時間はかかりますが、本学はそういう文化というか、何ごとについてもそういうやり方です」。

 そのようなやり方の一例として、カリキュラム・マップなど教学に関わる内容の調整を行う組織である大学教務委員会がある。各学部に、学科教務委員をメンバーとする学部教務委員会があり、学部教務委員長が選出されている。学部教務委員長は大学教務委員会のメンバーとなっている。このことにより大学全体・学部・学科が繋がり、情報の共有や意見のやり取りが密に行われる体制になっている。

 「『こういう形でやってください』といきなり決めて各学部におろすのではなく、『こういうことをやりたいと思います。学科としての意見をください』という形で、吸い上げて、原案を改良します。それで最終的には、概ね皆さん満足のいくものに落ち着いていく。情報を共有して、意見交換をかなり頻繁にしていることが大きいように思います」(高野副学長)。

 2017年度の3ポリシー整備からの一連の取り組みでも同様だったと渡辺学長補佐は言う。「例えばルーブリックを作るといっても、最初は何のことかよく分からない教員が大部分です。そこで、役職に拘わらずその分野に詳しい教員が、『全学交流ダイアログ』で解説役を務めます」。それによって、情報とイメージが共有でき、全体の導入でも、学位プログラム別のルーブリックを作成する局面でも、共有したイメージに沿ってスムーズに進んでいくということだ。

 渡辺学長補佐は続けて、職員の協力の大きさにも言及する。「例えばアセスメント・ポリシーの図表が、若干分かりにくい教員の原案から、学生向けのパンフレットに使えるレベルにまで分かりやすくなったのは、職員たちの協力があってこそでした。

 私の個人的な感触としては、金城のキリスト教をベースに、みんなで話し合って色々なことを進めていく、そして組織としてきちんと審議・承認はする、という体制が全体を通じてうまく働いていたと思います」。

入学前から卒業後までを見据える

 今後、学修成果の可視化の発展・活用については、カリキュラム・マップとの連動が考えられている。渡辺学長補佐はその狙いを「アセスメント・ポリシーに基づいてデータをとるだけではなく、学生自身が自分の成長を感じ、課題を把握して成長につなげてほしい。教員も、学生のアドバイザーとして、その学生がどういう状況にあるのかを知ってもらいたい」と語る。2021年8月までに学内ポータルサイト「K-PORT」を改修して、学生とアドバイザーの教員とがDP対応ルーブリックや、PROGテストの結果などを共有できるようにする。

 既に2019年度、カリキュラム・マップの全面見直し・整備をしており、両者を連動させることで、DPごとの単位取得数などを把握できるので、履修登録の際などの活用が想定されている。

 就職関連との連動、連携も考えられている。「卒業時アンケートなどにより就職の状況なども情報を収集していきます」(渡辺学長補佐)。卒業時、さらには卒業後のデータとも連携させることで、いっそうの教育改善につなげることも考えられる。高野副学長は、「社会への貢献ということを考えると、社会のニーズや、卒業生が自分の大学生活を振り返って評価する金城の教育の良さなどを見ていきたいと思っています」と言う。

 卒業生調査は、女子大学としての長い歴史の強みを活かすことにもなるだろう。「70代、80代までに至る卒業生の方への卒業生調査のデータを活用すれば、就職だけでなく、女性の一生涯のなかで、金城の教育がどう影響するのかまで、捉えていくことができるでしょう」(渡辺学長補佐)。

 こうした「卒業後」を見据えた計画の一方で、「入学前」も視野に入っている。学院の中学・高校との連携だ。「学院の中高には『Dignity』という金城学院独自の探究学習プログラムがあり、それのルーブリックを大学のDP対応ルーブリックと連動させていく取り組みを始めています。そういうところからも『一生涯、女性を支える』というコンセプトがうまくつながればと思っています」(高野副学長)。


(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)


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