デジタル化社会の中で、大学の「パーパス=存在価値」が問われるようになる(カレッジマネジメント Vol.235 Jan.-Mar.2023)

 2030年に向けた社会は、第4次産業革命への移行期と言われている。18世紀末期以降の第1次産業革命では、蒸気機関による工業化が進み、20世紀初頭の第2次産業革命では電力による大量生産が進んだ。1970年代以降の第3次産業革命では、情報通信技術によりアナログからデジタル化への大きな変化が現在も進行中である。そしてこれから迎える第4次産業革命では、データドリブン、人工知能(AI)、ブロックチェーン、仮想現実(VR=バーチャル・リアリティ)により、人間の生活自体が大きく変化すると言われている。この第4次産業革命による技術革新は、大学にも大きな影響を与えそうだ。今回、2030年に向けた乗り越える壁と称して実施した5つのテーマにおける対談は、そうした大学の大きな在り方の変化を感じさせるものであった。

 まずは、急速に進むデジタル化・オンライン化によって、キャンパスの価値が大きく変化することである。専門知識の習得だけであれば、オンデマンド型や双方向型の授業で成果が上がっている。さらに、VRにより従来のフィジカルの制約を超越し、地域や時間の壁も越えてくる。そうした中、わざわざキャンパスに集まる意味は何か、大学というコミュニティーの価値が問われることになりそうだ。

 次に、マイクロクレデンシャルやデジタルバッジといった学修履歴を評価する仕組みの登場である。日本でも、一部の職種では従来型のポテンシャル採用からジョブ型採用への移行が始まっている。大学でなくてもオンラインプラットフォーム等で最新の知識・技能が習得でき、雇用者側から価値ある学修履歴だと評価されることになるとすれば、「学位」の持つ意味が問われることになるだろう。国際的な人材流動を見据えて、一足進んでいると言われる海外の動向を、しっかりとキャッチアップしていくことも重要となる。

 3つ目は、多様性や越境である。社会が大きく複雑化し、正解が一つではない時代を迎え、これまでの同質化社会や同一文化の中でのキャリアから、異文化の中での多様性を許容し、自律的なキャリアを築いていくことが必要となってくる。そのためには、専門内や大学内に留まらずに、壁を越えて他大学や他領域、他業種、異文化との交流や連携を深めていく必要がある。第4次産業革命による技術確認によって、様々な壁が低くなっていくことが想定される。その中で、異質を巻き込みながら、どのようにして新たな価値を生み出していくかが、生き残りの鍵になりそうである。

 4つ目は、こうした大きな変化に対応しながら、意思決定できる経営人材の育成である。Society5.0 はデータドリブン社会であると言われている。しかし、最終的にデータを活用するのは人であり、このような時代の大きな変化に対応し、情報を上手く活用しながら、意思決定することができる経営人材の育成が期待される。

 以上のように、2030年に向けた大学が乗り越えなければならない壁を挙げてきたが、気づいたのは乗り越えなければならない壁(課題)は、大学も企業も、それほど大きく変わらないということだ。企業では、パーパス経営という言葉が浸透し始めている。大学も同じではないか。組織とは、元来目的を達成するために作られたものである。社会から求められる価値が多様化するなかで、本学はどのような目的=パーパスに向かっているのだろうか。建学の精神は現代に置き換えるとどうなるのか、ミッション、ビジョン、バリューは明確か、本学の存在価値は何なのか。社会に対して、どのようにそれを共有していくのか。遠いように思えた2030年はもう7年後に迫っている。今まさに、本学のパーパス=存在価値を見直す好機ではないだろうか。

 

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リクルート進学総研所長・カレッジマネジメント編集長

小林 浩

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