高松大学・高松短期大学 学長 佃 昌道氏

(2015年2月9日更新)

社会で通用する人材になるためには
学生時代に経験値を積むことが大切

幅広い年代の学生が集まることで、社会適応能力が身につく

 香川県は大学新卒者の県外流出や少子化傾向に歯止めがかからず、人口の減少が続いています。そんな問題を抱えながら、大学として何ができるのか。それは地域で活躍できる人材を育成するということが一番なのではないでしょうか。学生を教育して社会に出す。そして社会人になっても、またいつでも大学に戻ってくることができる仕組み作り。このリカレント教育の実践が必要だと考えています。

 そのためには社会人になっても、いつでも戻ってこられるような大学が必要です。高校を卒業してから進学する大学というだけでなく、市民のための大学という位置づけですね。本学は現在、幅広い年齢層の学生がいます。留学生や社会人など多様な人が集まることでミニ社会ができるのです。ミニ社会ができることで人とのコミュニケーション能力が高まります。たくさんの経験をしながら、助け合いの精神を学んだり、人を敬う気持ちを育てたり、そういう社会適応能力が身につくことで、職業意識も高まっていくと思っています。

 そして、地域の学びの場として何を提供するのか、中身も大切。例えば保育学科だと、一度別の仕事に就いたけれど、やはり保育士になりたいという方や、結婚後に保育力を身につけて子どもを育てるときに役立てたいという方などニーズはさまざま。一部の人だけが大学に行っていた時代から、全員が大学に行けるような時代に変化している現在、昔と同じような教育をしていたらダメなのです。魅力あるカリキュラムを作りながら、社会に適応する人材を育成することが現在の大学に求められていることだと思っています。

 実は私は日本うどん学会の会長をしておりますが、全国的にも有名になった香川の特産さぬきうどんをテーマに研究するのもおもしろいと考えています。さぬきうどんがどうやって伝わっていったのかなどを研究することで地域の人とのコミュニケーションにもつながりますし、うどんの歴史から文化、経済まで学べます。地域の人たちと連携しながら大学の必要性を感じてもらうのが、トップの仕事だと思っています。

学生時代にさまざまな経験値を積むことで、人間力を養う

 大学は就職率よりも、学生自らが社会に出て働く意欲をもたせることが大切。学生にいろいろなことを経験させながら、社会に出るための準備をしっかり整えてあげることが、大学としての役目だと思っています。今の子どもたちは失敗をあまり経験していません。ネットでいろいろな知識が手に入る時代なので、知識はあるのですが、世の中は知識だけでは動かせない。それは全部がバーチャルな世界。リアルではない。たくさんの経験をして、失敗するところから人生は始まるのです。

 経験値を積むことで、多少のことは我慢できるコシの強いうどんのような人間になれる。だからこそ学生にはインターンシップはもちろん、ボランティアに積極的に参加させています。一部の学校に見られる、選りすぐりの学生だけを連れていくような見せかけのボランティアではダメ。本学もこれまで、ボランティアやインターンシップ終了後、地域や企業からお叱りもいただきました。でもそれを怖がっていては人を育てることはできません。厳しい状況になってはじめて、学生たちは自分で考え、行動できるようになるのです。経験にまさるものはないと思います。

 秘書科では、授業の一環で「さぬきマルシェinサンポート」という地域の活動に参加しています。企画から運営まで学生が行っており、1年めは販売だけでしたが、2年めには店舗経営まで考えるようになりました。3年めは農家で収穫した野菜をピクルスにして販売したいという意見も出ました。そうすると学生は自分の作ったピクルスを本気で販売しようとします。レンコンをハート型にして入れたり、瓶を工夫したり、いろいろな発想が浮かんでくる。結果的にとてもよく売れて、原価率が安くても、アイデアをかけた良いものは売れるという体験につながったのです。経営のP(計画)、D(実行)、C(振り返り)、A(改善)を実践することで、知識だけではない経験値になる。これが自信になって人間力につながっていくのだと自負しています。

気づき力が行動を変え、学生の未来を動かしていく

 今の世の中はまだまだ偏差値重視。ともすれば、「技術さえ身につけばいいじゃないか」と言われることも多いのですが、やはり大事なのは“人”。日本経済を考えると、目先のことだけをやるのではなく、先を見越す力をもった人材や何かやってくれそうな期待感がもてる人材が必要だと強く感じています。そのためにはいかに学生のモチベーションを上げて、実践力を身につけさせられるかが勝負です。

 学生たちは興味があると学ぶ意欲をもちます。以前、サッカーは大好きだけど、英語が嫌いという学生がいました。ですが大好きなサッカー選手が掲載された英語の雑誌一冊が彼を英語好きに変えました。つまり、そのインタビューを読みたい一心で自分自身で英語を訳したのが興味をもつキッカケになったのです。学生たちは勉強が嫌いなのではなく、興味がないだけ。まずは興味をもたせることが大切だと考えています。

 ほかにも大切なものが“気づき力”。例えば保育士になりたい学生が実習で子どもに泣かれたとします。なぜ自分は子どもに泣かれたのか、自分自身の何を変えればいいのか、その学生は真剣に考えます。いろいろな気づきを通して、次の行動に変化が訪れ、将来を動かしていく。自分なりにひとつの解答を出すことが社会の中で生きる糧になっていくのです。世の中はどんどん変化していきます。本学も建学の精神を中心に据えて、学生が経験を積める環境を整えながら、時代のニーズにマッチした学びを今後も取り入れていきたいと思っています。

佃 昌道氏

【Profile】

佃 昌道(つくだ・まさみち)氏
1957年5月1日生まれ。1985年に高松短期大学秘書科に採用され教鞭をとる。1996年に学校法人四国高松学園 副理事長に就任。2000年には高松大学経営学部の教授に着任するとともに、高松大学・高松短期大学 副学長に就任する。2004年に高松大学・高松短期大学 学長、2008年に学校法人四国高松学園 理事長に就任。現在は、学長と理事長を兼務しながら、学会をはじめ社会活動にも尽力している。【学会および社会活動等】かがわ情報化推進協議会副会長、瀬戸内国際芸術祭実行委員会委員、高松市図書館協議会委員、栗林公園にぎわいづくり実行委員会アドバイザー、高松国際ピアノコンクール統括委員・事務局長、高松市生涯学習センター等運営協議会会長、公益財団法人高松市国際交流協会理事、香川学会理事、日本うどん学会会長、鎌倉芳太郎顕彰会会長、高松市瀬戸・高松広域定住自立圏共生ビジョン懇談会委員、中讃広域行政事務組合情報システム調達総合評価委員会委員、魅力ある屋島再生協議会会長、高松市日中友好協会会長、かがわ県産品コンクール実行委員会実行委員長、高松市文化芸術振興審議会委員、公益財団法人高松市文化芸術財団評議員

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