学校法人新静岡学園 理事長 大坪 檀氏

(2015年4月13日更新)

静岡県に新しい価値を提供できる人材の育成と同時に、
地域社会からも利用される、真の「県民大学」をめざす

大化け教育のノウハウを活かし、第三の創業をめざす

 本学園は1965年、静岡市に創設された静岡学園高等学校を祖とします。1994年には磐田市との公私協力方式により、学校法人第二静岡学園(現・新静岡学園)として第二の創業を果たしました。いわば、その当時から「地域のために人材育成を行う学校」という志を強く持っていたということでもあります。そして今日、私たちは21世紀の静岡県の発展に貢献する公器である「県民大学」となるべく、第三の創業期を迎えようとしています。

 本学は10年以上前から、独自のティーチングメソッドである「大化け教育」を提唱し、主体的に行動できる学生の育成を行ってきました。この大化け教育は、学生が持つ無限の力への信頼がベースになっています。できない学生はいない。心のどこかにあるスイッチを押し、やる気を出せるように導くことができれば、学生は見違えるほど大化けする。大化け教育には、そんな思いが込められています。実はこの考え方、学生自身の言葉から生まれました。以前、私が学生に「勉強しない大学生は、なぜ勉強しないのだと思う?」と尋ねたことがありました。すると彼らは自主的に討論会を開き、彼らなりの理由を見つけてくれました。曰く「勉強が嫌いなのではなく、人生の目標がないから勉強しないのだ」と。逆に言えば、勉強しない学生に目標を持たせることができれば、彼らは大化けするに違いない。それが、私が大化け教育メソッドに着目するきっかけとなりました。

 事実、本学に大検で入学したある学生は、このメソッドによって卒業後に東京の大学の大学院に進み、博士号を取るに至りました。また、父親から「どうしようもないワルだけど、どうしても跡取りにしたい」と言われて社会人入試で入った別の学生は、卒業後に首都圏の国立大学の大学院に進み、今では立派に事業の承継者として成果を上げています。

 こうした大化け教育のノウハウを存分に活かし、これまで以上に地域に価値を提供できる人材を育成するためにさまざまな教育イノベーションを手がける。それが、我々のめざす第三の創業です。

多彩な生きた教材に接しながら、学生は成長する

 本学の教育は座学ではなく、徹底的な議論と実践によって行われます。

 一例をあげれば、磐田キャンパスの経営学部には、子どもたちに楽しく安全にスポーツを体験してもらう「キッズスクール」を主催し、経営の難しさと楽しさを学ぶ学生がいます。驚くことに、この取り組みは一年間で約1700万円の売り上げを計上しているそうです。藤枝キャンパスの情報学部でも、地域の病院のロゴや地元企業の商品デザインを数多く手がける学生がいます。蛇足ですが、情報学部は技術を学ぶ理系学部ではなく、情報によって価値を創造する方法を学ぶ、文理の枠に捕らわれない未来志向型の学部といえます。

 経営・情報の両学部ともに大切にしているのは、マーケットを読んで価値を創造する「センス、スキル、パッション」。実践を通してこのSSPを身につけることで自信が生まれ、もっと学ぼうと思う。その繰り返しから学生が成長する。それが、私たちが提唱する大化け教育の本質です。近年「アクティブ・ラーニング」が注目されていますが、その意味で、本学は10年以上前からアクティブ・ラーニングに取り組んできたといえます。

 そしてもう一つ、本学が地域とともに取り組む特徴的な教育が、本学では「冠講座」と呼ぶ多彩な「寄附講座」です。現在、学生は23タイトルもの寄附講座を自由に受講できます。最も早くから行われている静岡銀行の講義は今年で14年目を迎えました。他にも地元のプロスポーツチームや自動車メーカー、広告代理店など、錚々たる企業の一流のビジネスパーソンが講師を務めます。企業以外には静岡・藤枝・磐田市が寄附講座を担当し、過去には市長自らが教壇に立ったこともありました。他に商工会議所やロータリークラブなどによる講義もあります。こうして、さまざまな企業・団体が実際の体験に基づく生きた教材を使って学生を育てようとするところに、本学の寄附講座の大きな特徴があります。

県民にも広く開放された大学をめざして

 そして「県民大学」を標榜する本学ですから、これらの寄附講座を静岡県の人々にも無料で開放しています。企業や団体で働く意識の高い社会人にとって、また学生にとっても、さまざまな人と机を並べて共に学び、議論を闘わせた経験は、将来に向けて大きな財産となるはずです。その証拠に、社員教育の一環として本講座への参加を希望する企業や団体は年を追うごとに増えています。中には、はるばる東京の士業団体から提供いただいている講座もあります。

 また2012年には、本学の学術成果を地域に還元するため、本学の8つの研究所・研究センターを包括した「総合研究所」を開設しました。当センターではこれまでの研究成果を活かして大学院に匹敵する高度な教育を行うと同時に、地元企業と積極的に共同研究を推進していきます。たとえば地域の企業から何らかのテーマで研究したいという依頼があれば、本学の多彩な教育者・研究者から最適なチームを組んで対応します。また学内だけでなく、企業や大学をリタイヤした識者を当センターの客員教授に迎え、地域と大学が手をとりあって産業の活性化に取り組みます。

県民から信頼され、利用される大学になる

 しかし、どれだけ本学と地域で熱心に教育を行っても、そこから生まれる学生が市場から評価されないのでは、価値ある「県民大学」とは呼べません。ですから、最も厳しく顕著な評価軸である就職率の向上には常に全学を挙げて取り組んでいます。

 そしてもう一つ、大きな評価軸として、社会人が本学の教育機能をどれだけ活用してくれるかという視点があります。現在、一つの寄附講座に常時5~6名の社会人が参加してくれています。その他にも、より多くの社会人が本学の教育を利用してくれるよう、さまざまな活動を行います。

 たとえば、企業をリタイヤしたビジネスパーソンに向けて「ルネサンス制度」という社会人プログラムを用意しています。これは、第二の人生に向けてもう一度勉強し直したいと考えるシニア層をターゲットにしたプログラムで、頑張れば授業料が安くなるというユニークな制度が特長です。プログラム修了後、彼らの多くは再就職や起業、さらに大学院への進学をめざします。

 また今後、入試制度の大幅な改革を進めることで、毎年1~3月の先生方の負担を大幅に軽減することが可能だと考えます。その分の時間を研究・教育に充当することで、先生の知識とスキルをより地域に還元できる仕組みづくりを推進していきます。その手始めとして、総合研究所が開講している宅地建物取引士の資格取得のための講座は、不動産業界の方々も参加し、好評を得ております。

 このように、私たちは柔軟な発想力で大学と社会との接点を増やし、本当の意味で県民の大学をめざします。

大坪 檀氏

【Profile】

大坪 檀(おおつぼ・まゆみ)氏
東京都出身。1953年、東京大学経済学部卒業後に渡米。1957年にカリフォルニア大学大学院にてMBAを取得。1958年、株式会社ブリヂストンに入社。経営情報部長・米国法人経営責任者・宣伝部長を歴任。ハーバード大学やノースカロライナ州立大学で客員研究員を務める。ペンネーム千尾将(ちおまさる)で執筆活動。1987年より静岡県立大学経営情報学部教授・学部長・学長補佐を務め、1998年に静岡産業大学に移り、国際情報学部教授・情報学部教授を経て、学長に就任。現在は学校法人新静岡学園の理事長。静岡県行財政改革推進委員、富士山静岡空港二次交通検討会議座長などの公的活動にも従事。

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