新潟薬科大学 学長 寺田 弘氏

(2015年5月11日更新)

理系の大学に文系学科を創設
有機的な連携で「健康・自立」と「食」に取り組み
成果を地域と社会に還元していきます

サイエンスとビジネスを結ぶキーマンになれる人材を育成

 2015年4月、新潟薬科大学に新しい学科が誕生しました。応用生命科学部の文系学科「生命産業創造学科」です。薬学・応用生命科学の理系2学部を貫いてきた本学に、なぜ文系の学部なのかと、疑問に思う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、21世紀という時代に照らし、本学の根幹である「生命と健康」、米どころである地元・新潟の農業や産業というテーマを研究・実践していくときには、「ビジネス」という視点をもつ人材の育成もまた非常に重要だと思います。

 薬局経営学という学問分野が注目されているように、農業や食、ライフサイエンス等々、多種多様な分野で、その分野を総括して理解し、マーケティングや事業企画、経営等の領域での専門的知識をもつビジネスがわかる人材が求められているのです。少し具体的にお話ししますと、新学科と同じ「応用生命科学部」にある「応用生命科学科」には、バイオ工学や食品科学など4つのコースがあり、新しい技術や素材を開発しています。例えば、超微細な米粉を作る技術などがあり、地域の企業に貢献してきました。しかし、良い製品を世に出すには、素材や技術の価値を理解した上で、製品の開発や企画を担う人材が不可欠です。いくら技術が優れていても、製品が売れるとはかぎらない。多くの企業が抱える課題です。私は、「生命産業創造学科」に学ぶ学生が将来、サイエンスとビジネスを結ぶキーパーソンとして活躍することを心から願っています。そして、そうした人材を輩出するべく、理系の学科、教職員と連携し、しっかりと育てていきたいと考えています。

フィールドワークと英語教育を重視したカリキュラム

 「生命産業創造学科」のカリキュラムには、2つの特徴があります。一つは、フィールドワークを中心に、学生が専門知識や情報の活用能力を実践的に養えるカリキュラムです。いま本学では新潟市秋葉区の駅前商店街などでつくる「まちなか活性化検討委員会」と連携し、商店街の活性化プロジェクトを推進していますが、「生命産業創造学科」の学生には授業の一環として参加してもらう計画です。

 もう一つは英語教育です。英語の授業を必須科目とし、取得単位も2倍にします。ビジネスに必要な英語力を養うことが目的ですから、伝えられる英語力に力をいれていきます。また本学と協定を結んでいる米国ニューヨーク州立大学フレドニア校での短期語学研修もプログラムに加えています。

意欲的な取り組みで地域との連携・貢献を推進

 新学科の創設に加え、新潟薬科大学ではいま様々なテーマやプロジェクトに意欲的に取り組んでいます。たとえば薬学部・応用生命学部の2学部合同で推進している「健康推進・健康自立」への取り組みは、その一つです。

 健康を維持・発展させ、人間として自立した生活を営む「健康・自立」は、全ての人に共通する願いです。本学では、「健康・自立」を支援するために、医療機関や薬局と健康全般を考えた連携を積極的に進めています。現在計画中のまちなかの薬局を拠点とした住民の健康データベースづくりは、その一環です。どんな疾病や症状でどのような薬剤が処方されたのか、それをデータベース化することによって、地域の人びとの健康状態を把握することができます。健康維持や病気になったときの薬の取り方などを効果的に行うために生かしていけると思います。

 新潟の大きな産業である「食」では、2014年に「健康・自立総合研究機構」を創設し、食品が身体のなかでどう作用しているかという研究とサプリメントの開発に取り組んでいます。食というとこれまでは食材やカロリーに比重が置かれがちでしたが、実は食べ方というのも非常に重要なのです。人間の身体は、食事をするとき、食を受け入れる準備をします。準備が整うには7~8分の時間を要するとされています。「食」するという行為=食べ方、身体内での作用等々、多方面から研究し、その成果を地域や社会に還元していきたいと思っています。

 ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、本学は新発田市の酒造メーカーと共同で六条大麦を原料とした焼酎を開発しました。麦焼酎は二条大麦から作られるのが一般的です。一方、六条大麦は主に麦茶などの材料になります。新潟では伝統的に味噌の原料としてきたのですが、作柄が安定しないため生産量は激減し、新潟の発酵文化の一部が消えかねない危機があったのです。これを何とかしたいと取り組んだのが、六条大麦焼酎の開発でした。12年に着手し、昨年試作品ができました。今年度からは「生命産業創造学科」の学生たちにも参加してもらい、一般販売用に販売戦略を練るなど、授業の中で取り組んでいく予定です。

 生命・健康・食は、すべての人に関わる分野です。これからも、学部横断・学部連携の取り組みを積極的に進め、人材育成を含めた質の高い成果を社会に還元していきたいと思います。

学生に学んでほしい「知力・体力・気力」の三位一体

 最後に、これから新潟薬科大学で学ぶ学生に伝えたいことをお話ししましょう。それは、知力・体力・気力をもって物事に取り組んでほしいということです。知力とは、物事を知り、己が取り組む対象を知ること、気力は前向きな姿勢であり、困難を乗り切る力です。体力は、言わずもがなです。知力・体力・気力を三位一体でバランスよく身につけてほしいと思います。

 このことを胸に刻んで勉強やさまざまな活動に取り組んでもらえたら、学長として嬉しく思います。もちろん三位一体のパワーを伸ばしていけるよう、教職員一丸となって学生たちを支援していきます。

寺田 弘氏

【Profile】

寺田 弘(てらだ・ひろし)氏
1936年生まれ。京都大学医学部薬学科卒。京都大学大学院薬学研究科、薬学博士課程単位取得満期退学。徳島大学薬学部助手・助教授・教授を経て、2002年東京理科大学薬学部教授。2004年同大薬学部DDS研究センター長。2013年本学学長に就任、現在に至る。日本薬学会会頭(2000年4月~2001年3月)、国際薬学連合評議員(1997年4月~2008年3月)等々、要職を歴任。専門の薬効物理化学分野でも世界的な評価を受けている。

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