教えて!「電子調査書の今後のゆくえ」

 大学入試真っ盛りです。大改革の初年度としては、大学入学共通テストの実施だけでなく、個別大学選抜では、学力の3要素すべてを加味した「多面的・総合的評価」が行われるはずです。ただし、そのツールとして開発された高大接続ポータルサイト「JAPAN e-Portfolio」(JeP)は、昨年8月に文部科学省が運営許可を取り消しました。そうなると、高校の調査書の比重がいっそう重くなります。高大接続改革論議では、調査書の電子化も提言していたはずですが、どうなっているのでしょうか。

教えて!「電子調査書の今後のゆくえ」

 ポストJePの多面的・総合的評価をめぐっては、萩生田光一文部科学相が「大学入学者選抜における多面的な評価の在り方に関する協力者会議」を設けて、論議を続けています。2月12日に開かれた第10回会合の議題の一つが、まさに「調査書の電子化について」でした。

 そこでは、文科省の委託でJePの開発と運営にも携わった関西学院大学の巳波(みわ)弘佳教授(学長補佐)が、同じく文科省委託で研究している、電子調査書システムの概要を紹介しました。さまざまな方法が検討されていますが、一つのシステムを構築して、高校・受験生と大学がそれぞれアクセスすることにより、電子調査書をやり取りすることは技術的に可能だといいます。

 巳波教授が資料として提出した「電子調査書システム操作イメージ」によると、まず高校は、校務支援システムを用いて、電子調査書を作成しておきます。一方、生徒は、電子調査書システムにアクセスして、出願する大学名をチェックした上で、高校の先生に電子調査書を発行するよう依頼します。それを受けて先生は、電子調査書システムにアクセスして、調査書の登録依頼があった生徒を検索し、出願大学とひも付けます。これで出願大学は、電子調査書システムにアクセスすれば、出願者の電子調査書をダウンロードすることが可能になります。

 ただ、先行きはそう簡単ではないようです。
 文科省の方針では、22年度を目途に調査書を電子化し、原則として全大学で電子調査書の活用を目指すはずでした。しかし、この日の会合で示された「審議のまとめ」骨子案では「速やかな完全電子化を目指す」とするにとどめました。公立高校での統合型校務支援システムの導入促進や、政府全体のデジタル化の動きなどにも柔軟に対応できるようにすることが必要だというのが理由です。文科省事務局は、「現段階で期限を示すのは困難だ。少なくとも22年度という目標は挙げづらい」と説明しました。

 一方、新学習指導要領に対応して、新しい調査書の様式に観点別評価を記載できるようにするかどうかも焦点です。以前の会合でも、観点別評価があれば多面的・総合的評価ができるのではないかと期待する声が、大学側から挙がっていました。しかし骨子案では、高校での取り組み状況や、大学入試での活用手法が確立されていないことなどを踏まえると「慎重な対応が求められる」として、25年度入試に向けた観点別評価の項目新設を見送りたい方針を示しました。今後については、観点別評価の浸透状況や、大学の活用ニーズなどを見極めながら「条件が整い次第可能な限り早い段階で調査書に項目を設けることを目指し、引き続き高等学校・大学関係者において検討を行うこととする」としています。

 高校側の委員からは、調査書に観点別評価が入らないことで、高校現場に対して、観点別評価自体をやらなくてもいいというメッセージになってしまわないか、という懸念も出されました。

 2月17日には「大学入試のあり方に関する検討会議」の会合も開催され、大学入試について高校と大学などの関係者による恒常的な協議体を設置することが提案されました。いずれにしても高大接続改革をめぐっては、まだまだ関係者間で話し合い、合意を形成すべき課題が山積していると言えそうです。



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【profile】
渡辺敦司(わたなべ・あつし)●1964年北海道生まれ。1990年横浜国立大学教育学部教育学科卒業。同年日本教育新聞社入社、編集局記者として文部省、進路指導・高校教育改革など担当。98年よりフリーの教育ジャーナリスト。教育専門誌を中心に、教育行政から実践まで幅広く取材・執筆。
教育ジャーナリスト渡辺敦司の一人社説 http://ejwatanabe.cocolog-nifty.com/blog/