東北公益文科大学 学長 神田直弥氏

SDGsに通じる「公益」の視点を基軸に据え、
ローカルとグローバルの双方向から課題解決を図れる人材へ


公設民営の大学として、開学当初から地域密着型の教育を展開
 2001年に開学した東北公益文科大学は、公設民営の私立大学です。山形県の庄内地域に4年制の大学をつくりたいという地元の要望を受け、山形県と14市町村(現在は合併により2市3町)から支援をいただいて設立されました。このような経緯から、地域密着型の教育を展開しております。
 21世紀の始まりに新しく創設する大学として、どんな人材を育てていくべきであろうか。これからのまちづくりのあり方やより良い暮らしとは、どのようなものであろうか。そう考えた際にたどり着いたのが、皆にとって良いという「公益」の視点。21世紀はあらゆる多様性を尊重し、人・社会・自然などの調和を実現していくことが重要です。そのため本学では専門性と幅広い学びを両立させたカリキュラムを設計し、多様化する地域課題を解決できる人材を育成しています。こうした「公益」の視点は、昨今注目されているSDGsの考え方にも通じるでしょう。この「公益」を大学名に掲げているのは本学のみ、「公益学部」を有しているのも全国唯一となります。

留学やインターンシップ参加を促進すべく、クオーター制を導入
 開学からの地域志向を推し進めるために挑戦したのが、2013年に文部科学省により採択された「地(知)の拠点整備事業」です。教育・研究・社会貢献のすべてにおける地域志向化を目指し、現行のカリキュラムに改革。地域について学ぶ機会を増やし、地域課題の解決に取り組む科目を多く設置しました。これに該当する授業が2013年には53科目でしたが、近年は科目全体の4割弱となる160~170科目ほどで推移しています。
 また2014年には、6年間の教学中期計画を策定。地域志向化と並行して進めたのが、「学生の質保証」「グローバル社会への対応」「アクティブラーニングの推進」です。具体的な施策の1点目は、2015年に導入した年4学期のクオーター制。半期のセメスター単位が適した科目も一部あることから、おおむね全科目の3分の2をクオーター単位で実施しています。これと併せて導入した2点目の施策が、クオーター単位での中期留学制度。協定校も6年間で10校増やした結果、現在では年間で約90名が短期・中期留学へ。この人数は、本学の収容定員の1割にあたります。
 さらに3点目の施策として、2018年に授業時間を1時限90分から105分に変更しました。その目的のひとつは、アクティブラーニングを効果的に実践するためです。また1時限105分となれば、従来は16週要した授業が14週に短縮。半期あたり2週間の休暇を増やせるので、インターンシップや中期留学に参加しやすい環境が整います。この成果として、インターンシップの参加者は倍増し、留学とインターンシップを両方行う学生も増加。授業のアクティブラーニング化につきましては、全科目の約8割に達しています。

Society5.0時代に向け、データサイエンス教育や異分野連携を推進
 2021年4月からは、新たなカリキュラム改革に取り組みます。この改革の一番の狙いは、内閣府が提唱する日本の未来社会「Society5.0」への対応です。情報技術を活用した問題解決が求められる時代において、特定分野の専門知識をもっているだけでは、あらゆる課題に対処できません。こうした未来を見据え、3つの機能強化を図ります。
 まず1つ目は、データサイエンス教育プログラムの導入です。本学は社会科学系の学問分野が強い文系大学ではありますが、理系の演習科目「情報リテラシー」「基礎プログラミング」に加えて「データリテラシー」を必修化し、データ分析や統計学について理解を深めます。さらに「AIと社会」「セキュリティ論」「日経講座」の各講義科目で、AI技術やビッグデータの活用法などについても学修。エビデンスに基づく議論の重要性がますます高まる時代に向け、データをつくる・使うの両面から利活用できる力を育てます。
 2つ目の機能強化として、ダブルメジャー制を導入。チームでの課題解決が一般的となった社会では、各自が複数分野を専門とする「ダブルメジャー」が強みとなります。双方の立場や考え方を理解し、異分野連携を実現できる人材が必要です。本学においては6つのコースがあり、まずは自分が最も関心のあるコースで専門性を高めた上で、他のコースも自由に選択することが可能。例えば「政策メディア情報」「地域福祉まちづくり」「経営国際教養」など、ダブルメジャー専攻で学びを広げることができます。
 さらに3つ目の強化が、課題解決を行うための「技術」の育成です。初年次教育のスタディスキルをはじめ、プレゼンテーションやディベート、ファシリテーションなどの「技術」を学生全員が共通で身につけます。これと併せて「問題解決の思考法」という科目を新設。地域をフィールドにした課題解決の手順を明確にし、問題の定義や背景分析、対策の立案方法などを実践的に学びます。

DX化が加速し、地域での働き方やグローカル人材への期待が拡大
 こうしたSociety5.0に向けたカリキュラム改革に加えて、国際教養学科の新設計画や公立化の議論も進行中です。地域志向と併せてグローバル社会への対応も強化し、ローカルとグローバルのどちらも柱にしていきたいと考えています。ローカルという観点においては、ギャップイヤー選抜と一般選抜A日程の入試区分で参加できる「SDGs探究プログラム」を実施。1年次の6月から2カ月間の学外実習で幅広い視野を養えますので、高い志を持った学生たちにどんどん参加していただきたいと願っています。
 また新型コロナ禍によって世の中が変革する今、テレワーク導入やデジタルトランスフォーメーション(DX)化が加速しています。この概念がより進んでいけば、働く場所においても制限のない時代に。地域で働くメリットやグローカル人材への期待も、さらに大きくなるでしょう。変化していく社会でも課題解決に資する人材を送り出せるよう、これからも学修者にとって必ずプラスとなる教育改革を推し進めてまいります。


神田直弥氏

【Profile】

神田直弥(かんだ・なおや) 氏

1974年生まれ、東京都出身。博士(人間科学)。早稲田大学大学院人間科学研究科にて博士後期課程修了後、2005年4月より東北公益文科大学公益学部の教員に。2016年に学部長に就任、2020年4月から学長を務める。専門分野は人間工学、交通心理学。

【東北公益文科大学の情報(スタディサプリ進路)】

<インタビュー・寄稿>の記事をもっとみる