専門学校日本ホテルスクール 理事長・校長 石塚 勉氏

コロナ禍、そして収束後の観光・ホテル業界の展望と期待
業界で長く活躍するために「総合力」をもつ人材の育成に力を入れる


コロナ禍で苦境に立たされる観光・ホテル業界
 新型コロナウイルスの世界的パンデミックにより、観光・ホテル業界は1年以上に渡って苦境に立たされています。従来この業界は人の移動や大きな催事に依存してきたため、出入国規制、多人数の飲食・集会の自重、旅行・出張・外出の禁止・自粛の影響は、計り知れないほど大きいものだと考えています。ホテル客室のオフィスユースや料理のデリバリーなど、新たな需要が生まれているものの、これらは当座の対応であり、行政的な支援なしでは今後の長期的な運用を見据えた改革にはなっていません。

コロナ禍で教育の質をいかに維持させるか
 また、新型コロナウイルスの影響は、学校の授業にも広がっています。本校は1972年の開校当初より、現場で活躍できる人材を育成するため、いち早くインターンシップを取り入れた独自の教育プログラムを展開してきました。しかしコロナ禍によって、例年のような就業経験ができない現状に直面し、インターンシップで得た給与で行く全員参加の海外研修旅行も中止を余儀なくされました。ただ、教育現場に時間的な猶予はなく、必然とさまざまな取り組みを行う必要に迫られました。
 2020年度の前期授業は、5月より時間割の実に9割をオンラインで開始。夏以降は感染予防対策を徹底させたうえで対面授業とオンライン授業を併用しながら、段階的に学生が登校する機会を増やしていきました。
 一方で、本校がこれまで最も力を入れてきた現場実習に関して、山梨県にある『富士ビューホテル』を3日間貸し切り、ホテル施設全体を利用した特別演習授業を実施しました。富士ビューホテルは、安心・信頼の提供によって感染症に強い事業環境づくりを押し出した「やまなしグリーン・ゾーン」の認定施設です。そうした環境で学ぶことで、学生たちは、ホテル実務はもちろん、ホテル運営において不可欠となった感染予防対策を実体験する貴重な機会にもなりました。
 また海外研修旅行が行えない今、1年次の研修先であるフィリピンの観光省による特別講義をオンラインで行い、フィリピンの文化や歴史などについて学びました。短期間、あるいはオンラインであっても、こうした実践的な学びによって従来と変わらない教育の質を維持できるのは、長年に渡って「産業連携」に力を入れ、観光・ホテル業界に太いパイプをもつ本校だからこそ実現できた取組だと考えています。

「観光立国」日本。業界の展望は決して暗くはない
 皆さんが懸念しているのは、今後の観光・ホテル業界のことではないでしょうか。現状としてコロナ禍はまだまだ続くと予想されますが、私自身は観光・ホテル業界の未来は必ずしも暗いものではないと考えています。なぜなら「観光立国」日本を標榜し、国を挙げて観光・ホテル業界に力を入れてきたというこれまでの実績があるからです。
 日本政府は「観光産業を日本の基幹産業の一つにする」という方針を打ち出し、2003年よりビジット・ジャパン・キャンペーン事業をスタート。2008年には観光庁を発足させました。その結果、2019年には訪日外国人観光客が3188万人と過去最高を記録しています。現在旅行者は激減していますが、コロナ収束後は各種の規制が解かれ、これまで以上に観光事業は拡大すると予想しています。また、ホテルの強みは土地と建物があること。たとえ新型コロナウイルスの影響で事業を手放さざるを得なかったとしても、資産がある限り、新しい経営者によって生まれ変わることができるはずです。
 実際、観光・ホテル業界は、これまでにも数々の試練を経験してきました。世界で起きてきた大規模な戦争やテロ行為、東日本大震災のような自然災害、新型インフルエンザやSARS、MERSといった感染症などが発生するたびに、この業界は大きく影響を受けてきましたが、必ず再起してきた歴史があります。今回の試練もこの先永遠に続くものではありません。

総合的な都市型ホテルの中堅幹部を目指した教育体制
 ホテル業が以前の活況を取り戻し、またお客様が帰ってきた際、やはり求められる基本的なことは“接客術”です。ロボットが接客を行うホテルなどが注目されていますが、ホテルにおいては人的サービスを一切排除した仕事は難しいでしょう。もちろんホテルのレベルやタイプによってサービス内容は異なりますが、接客そのものがなくなることは考えにくい。だからこそ本校では、今まで以上に専門教育をしっかりと行い、これからの観光・ホテル業界に必要とされる人材育成に力を注ぎたいと考えています。
 その一つとして掲げているのが、「総合的な都市型ホテルの中堅幹部となる人材の育成」です。具体的には、「サービスから経営まで理解できる人材」「異文化・外国語を理解し、外国人に対応できる人材」「ITやAIを業務に活かせる人材」の3つです。総合的なスキルさえあれば、ホテルのタイプやレベルが変わっても柔軟に対応できます。以前から総合的なスキルをもつ人材の輩出を目指してきましたが、卒業生たちの力は想像以上に現場で発揮されており、今では中堅幹部はもちろん一流ホテルの総支配人も数多く誕生するなど、これからのホテル業界の担い手になっています。

独自のホテル経営シミュレーションシステムを採用
 こうした人材育成を実現するため、本校が導入しているものの一つに「ホテル経営シミュレーション」(HMS:Hotel Management Simulation、HOP:Hotel Operation Program)があります。2年間の学びの集大成として行い、学生たちが売り上げや人件費などを数値化して経営戦略を立て、1年間のホテル運営を疑似体験します。経営戦略の結果までわかるシミュレーションシステムによって、学生は社会に出る前からホテル運営そのものを体感できるのです。この経験は、キャリアアップをするうえで大いに役立っていると自負しています。
 今後、IT・AIの導入、経営の合理化などによって、ホテル業界は少数精鋭の体制に向かっていくと予想されますが、急激に大きく変化するとは思いません。これまでの教育体制を基本としつつ、業界の要望に応え続け、教育のさらなるレベルアップを図っていきたいと考えています。


石塚勉氏

【Profile】

石塚 勉(いしづか・つとむ)氏

1971年 株式会社プリンスホテル入社
1972年 プリンスホテルスクール(日本ホテルスクールの前身)開校
2009年 学校法人日本ホテル学院理事長就任、専門学校日本ホテルスクール校長就任
2013年 一般財団法人日本ホテル教育センター理事長就任

【専門学校日本ホテルスクールの情報(スタディサプリ進路)】

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