大阪女学院大学・大阪女学院短期大学 学長 加藤映子氏

人と人が関わり合いながら学ぶ教育共同体で
かけがえのない自己に目覚める


問題意識と目的意識をもち、英語「で」学ぶ
 本学は、1968年に短期大学から始まり、2004年に大学を開学しました。短期大学の設立時から教育の中心にあるのは、学生自らが問題意識と目的意識をもち、学んでいくことです。それを、早い時期からグローバル化の進展を見据え、英語を通して行ってきました。1987年には、英語「を」学ぶのではなく、英語「で」世界の問題を学ぶことを柱としたカリキュラムを導入しています。人権や文化、平和、環境などから関心のある問題を自ら取り上げ、リサーチや分析を行い、解決法を探り、発表する、これらすべてを英語で行います。
 この学習は、課題やプレゼンテーションが多く、時にはつらく、しんどいと感じることもあります。しかし、そこで得た経験を通じて、学生は単に語学力を身につけるのでなく、自分から問題意識と目的意識をもって世界に積極的に関わっていくようになります。さらに、それは自信をもって自らが思い描くキャリアを築いていくことにつながっていきます。

大学の目的は「何を学ぶ」「どう学ぶ」に加え「誰と学ぶのか」
 本学が大切にしている問題意識と目的意識は、人と関わり合うなかで自己の気づきとして生まれてくるものです。だからこそ、『何を学ぶのか』『どう学ぶのか』だけではなく、『誰と学ぶのか』ということも重要であると考え、人と人が関わり合いながら学ぶ教育共同体という概念を学習環境の中心に据えています。これは「大学の使命(ミッションステートメント)」に定められています。「本学は、キリスト教に基づく教育共同体である。その目指すところは、真理を探究し、自己と他者の尊厳に目覚め、確かな知識と豊かな感受性に裏付けられた洞察力を備え、社会に積極的に関わる人間の形成にある」。一人ひとりが大切な存在であり、人間の価値は知識や能力で決まるものではない。そのキリスト教の人間観から、自己と他者を見つめ、“かけがえのない自己”に目覚めてもらうことが、あらゆる学習の根底に流れています。
 例えば、1年次には「自己の発見」という授業を行っています。自己と他者の関わりをテーマに哲学、心理学、教育学、社会学などの講義をオムニバス形式で受講します。そこで繰り広げられるのは、互いに良いところを見つけ、教え合うことであったり、自分の過去を他学生に語ることであったり、共に協力し作業を行うことなどです。こうした他者との関わりや分かちあいによって自己への気づきを深め、“いま、ここ”にいる自分が考えていること、感じていることを味わい、自己の発見を進めていきます。
 さらに、1971年から50年以上連綿と続けてきた「リーダーシップトレーニング」も、教育共同体である本学の特徴のひとつです。本学には、先輩が新入生のサポートを行うビッグシスター制度があり、そのビッグシスターを育成するのが「リーダーシップトレーニング」です。ここではアメリカ発祥のLaboratory Trainingという人間関係訓練の手法に基づく「Tグループ」という方法を取り入れています。それは課題も手順も何も示されない状態からグループ内の「いま、ここ」の関係を大切にし、メンバー同士の関わりが進められていくものです。リーダーシップは誰かを引っ張っていくものではなく、ハウツウものでもない。「いま、ここ」で他者が何をしてほしいかを理解し、受け入れていく、つまり信頼こそがリーダーシップであることを学びます。このトレーニングに参加する学生は、1学年の約1/3にもなります。少人数環境のなかでリーダーシップを学んだ学生が他学生に刺激を与え、相手を信頼するという考え方が広がっていくのが実感できます。

相手を受け入れるから、かけがえのない自己を発信できる
 本学の授業では、必ず「あなたはどう思う?」と自分の考えが求められます。日本人学生はこれを苦手に感じることが多いのでないでしょうか。しかし、本学で学んだ学生は、自信をもって自分の意見をもち、発信していくことができるようになります。その一番の理由は、教育共同体という学習環境があるからです。自分が思っていることを必ず受け入れてもらえる、また、意見が異なっても相手を受け入れることができる。そんな信頼関係を教育共同体のなかでしっかりと体感しているからこそ、“かけがえのない自己”を発信していけるのです。だから、本学の学生は社会に出ても物怖じしない。卒業後は自分の思い描く将来に邁進していけます。アメリカのIT企業やベンチャー、海外のサッカークラブチームで活躍するなど、私たちも卒業生一人ひとりのユニークなキャリアに驚かされるほどです。
 自己の気づきから問題意識と目的意識をしっかりもち、社会に関わり、社会のために寄与してく。そんな先輩の姿を身近に感じることで、そのスピリッツを受け継ぎ、そして後輩に渡していく。本学のスピリッツがずっと受け継がれているのも、教育共同体であるからだと思います。

自分の人生を考え、切り拓く力を
 今、本学では「英語で学ぶ」ことに加え、「英語+1」として韓国語や中国語といった第二言語の学習にも力を入れています。また、元国連職員や元外交官を教員に招聘するとともに、模擬国連を行うなど、国際教育も強化しています。模擬国連では、参加学生は割り当てられた国の大使役となり、自国の政策や他国との関係を考えながら、与えられたテーマに対して決議の作成を目指します。これを他大学の学生も交え行われた大会で、誰もが戸惑い緊張するなかで、本学の学生が口火を切ったとき、まさにそれが私たちのスピリッツだと感じました。
 今後さらに教育内容が充実化されることで、学生がより社会と関わっていくチャンスが増えていき、自分らしいキャリアを築いていけるのではないかと考えています。自分の価値は大学の偏差値でもなく、企業名や役職で決まるわけではありません。将来、自分が何をやりたいかを考え、それを歩んでいけるかが、人生の価値を決めるのではないでしょうか。本学では、人との関わりのなかで自己に気づき、自分の人生を考えていく力を身につけてほしいと願っています。


加藤映子氏

【Profile】

加藤映子(かとう・えいこ)氏

大阪女学院大学 国際・英語学部教授。Ed.D(教育学博士)。大阪女学院短期大学卒業。国際社会教育団体で活躍後、ボストン大学教育学部での留学を経て2003年ハーバード大学教育大学院博士課程修了。1998年~2001年、フルブライト奨学生。
専門分野:言語習得、最新テクノロジーを活用する教育

【大阪女学院大学の情報(スタディサプリ進路)】
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