Interview 高校生・大学生が語る「高大連携の学びのなかで見つけたこと 変化したこと」

01 高校生

高校で何講座も大学の講義を受けて
自分たちで社会のことも考えて。
私のなかで勉強する意味が変わったんです

小松市立高校(石川・市立) 2年生 長谷川 なつ美 さん

撮影/山本 斉

小松市立高校では、私が入学し小た年度に、大学の先生のさまざまな講座を学校で受けられる「高大連携クラス」が新設されました。高校でそんな体験はなかなかできないと思い、私はこのクラスを希望し、今までに10以上の講座を受けてきました。  

印象的だったのは国際教養講座です。ある回では、生徒同士で「新型コロナウイルスのプラス面とマイナス面」を話し合いました。そのあとで講師の方が、コロナで社会のいろいろな不平等が顕在化したこと、でも問題に気づいたから解決に向けて協力し出すプラスもあった、と話してくれたんです。普段はそこまで物事を追究しないので、大学って深く学ぶんだなあと思いましたし、自分も社会のことを考えるようになりました。  

別の回では、南極観測に行った講師の方が、その歴史や地理、観測でわかった二酸化炭素濃度増加の問題に触れたあと、解決策となる森林資源の活用例を紹介してくれました。講師の先生自身が、企業と組んで︑間伐材を燃料に発電する研究をしていたんですよ︒大学では社会を変えるような研究をするんだ︑と感じました。  

講座を受けるなかで、勉強に対する意識も変わりました。以前は「教科書の内容を嫌でも覚えるもの」と考えていましたが、今は「社会でこんなことが起きているんだ、とか、自分はこうしてみたい、とか、そういうのを勉強することで発見できるのかな」と。心理学に興味があったので自分でも調べるようになり、行きたい大学も見つけました。その先の夢は心理カウンセラー。人の気持ちに寄り添って支えられるようになりたいんです。そうした目標が、勉強を「がんばろう!」と思う力にもなっています。

高大連携講座の一場面。
南極観測や環境対策など社会に関わる研究実践にふれた。


小松市立高校の高大連携
2020年度より普通科の1クラスに「高大連携クラス」を新設。公立小松大学をはじめとする石川県内外の大学から講師を招き、生徒が大学の出張講義を継続的に受けられる環境を整えた。ねらいは思考力や学習意欲の向上。複数回の国際教養講座のほか、国語、数学、理科、家庭科、保健体育などの講義が行われてきた。同校のホ ームページでも講義内容を発信中。

長谷川さんにとっての高大連携
講座で物事のプラス面とマイナス面を考えたりするなかで、教科書から学ぶだけでない、自分で追究する面白さを体験した。
大学の「社会を変える研究」に惹かれた。
自分で興味のあることを調べるようになり、行きたい大学と学部が見つかった。
友達と将来のことを話すようになり、心理学、看護、経済など、目指す分野は違うけれど目標をもって勉強しているのは同じ仲間と、一緒にがんばるようになった。

高大連携を後輩に伝えるなら
自分が興味をもてることを発見でき、この先何を学びたいかを考える機会になります。目標ができて勉強をがんばる子も多く、その環境にもやる気をもらえます!


02 高校生

東京の大学生とチームを組んだ探究活動。
ばんばん意見を出すその姿から学んだし
自分にはない価値観も教えてくれた

吉賀高校(島根・県立)3年生  下野しもの 翔輝しょうき さん

撮影/石中 仁

東京の大学生の皆さんとは、1年生の夏に出会いました。探究活動で、僕らのグループは「吉賀町にテーマパークを作れないか」と考え、調査をするため、一緒に地元のアスレチックや宿泊施設を回りました。その後もオンラインでほかに何を調査したいかなど話し合い、10月には僕らが東京に行き、大学生がアポを取ってくれた海浜公園を取材。2月には大学生がまた吉賀町に来て、成果発表を見てくださいました。

2、3年生の探究活動は、コロナの影響で大学生が吉賀町には来られなかったのですが、それでもオンラインで相談に乗ってもらいました。

この3年間の活動で、僕らは最初、「自分たちで動く」ことをあまりして いませんでした。でも大学生が来て、意見をばんばん出してくれて、率先して動くのを見て、「こういうふうにやるんだ」と知って、僕らもアクティブになれたんです。そうして動くなかで、「挑戦する力」や「失敗から学ぶ力」がついたと思います。  

大学生からは「自分にはない価値観」も教わりました。吉賀町って、面白くない場所だとずっと思っていたんですよ。でも「ここが面白い」「こんなに川がきれい」と外からの意見をもらえて、地元の良さに気づくことができたんです。将来どういう道に進みたいとか前は特になかったのですが、吉賀町の魅力をもっと広めたくなり、「そのためにこの大学のこの学部で学びたい」という自分の進路も見つけることができました。

志望する大学は関東にあります。僕も一度、外から吉賀町を眺めてみたくなったのです。いずれは戻ってきて、地域の子どもと大人がつながる場所を作りたいな、と思っています。

(左)2年次の発表資料。後輩たちの進路の参考になる動画を作ることを目指した。
(中)2、3年次、下野さんたちは地元の働く人を取材し、動画にすることに挑戦。
(右)1年次の探究活動、大学生とのグループワーク。学生の積極的な姿が刺激に。


吉賀高校の高大連携
吉賀町での課題発見(1年)、課題解決(2年)、課題発展(3年)に挑む探究活動を、青山学院大学・法政大学と連携して展開。高校生が大学生とチームを組み、吉賀町と東京の2カ所で、探究テーマに関わる人や施設を取材。高校生は、大学生の言動からも学びながら、課題解決に取り組む。また、1年間の集大成となる成果発表会でも大学生からフィードバックをもらう。

下野さんにとっての高大連携
人見知りだったが、大学生との交流で、外との関わりを楽しめるようになった。
大学生の「意見を出すところ」や「率先して動くところ」を見習おうと思った。
大学生を見習って自分から動くことで、挑戦する力や、失敗から学ぶ力がついた。
自分にはない視点をもつ大学生の意見がきっかけで、地元の魅力に気づいた。
将来やりたいことが見つかり、そのために大学で勉強したいこともできた。

高大連携を後輩に伝えるなら
大学生と一緒に探究活動するなかで、自分たちで動くことや、自分にはない価値観を学ぶことができると思います。「自分が一番成長できる時間」になるはずです。


03 大学生

高校生のときに、大学で挑んだ科学の実験。
目で見た現象と、学んだ知識がつながったとき
世界がわっと拓けて、勉強が楽しくなった

千葉大学(千葉・国立) 1年生 齋藤 美咲 さん 千葉市立千葉高校出身

撮影/松本崇志

高校1、2年生のときに、千葉大学の「基礎力養成講座」に参加しました。夏休みから11月にかけて、高校生が5〜6回の科学講座を大学で受けられるのです。理科の先生が教えてくれて、私自身、科学が好きだったので、やってみたいと思いました。  

1年生のときに受講したのは「健康・医療コース」。注射器を腕モデルに打つことを体験したり、DNAの解析でPCRの機械を使ったりと、大学の授業では「こんなことまでできるんだ」とワクワクしました。  

2年生のときに受講したのは「総合科学コース」。思い出深いのは「色の変化で酸化還元を見る」という講座です。複数の試薬を測って混ぜたり、電流を流したりして、色の変化から酸化や還元を確認するのですが、簡単ではない実験を一人で全部できて、達成感がありました。しかも、自分の目で現象を確かめた後︑高校で酸化還元を学んだら、点と点がつながって線になるように理屈がわかり、大げさに聞こえるかもしれませんが、世界がわっと拓けたんですよ。

おかげで「知識を身につけてから実践するだけでなく、実践してから知識を身につけてもいいんだ」と思うようになりました。教科書をただ暗記するのではなく、実際に起きた現象とどうつながるかを考えるんです。現象の理屈を、身につけた知識で理解できると、物事がより鮮やかに見えてきて、勉強するのが楽しくなりました。  

今は薬学部で勉強し、薬の研究者を目指しています。理科の力で、人を助けられるようになりたいのです。塾講師のアルバイトもしています。実際に起こる現象と、習ったことがつながる面白さを、私も子どもたちに伝えられたらいいな、と思っています。

(左)「色の変化で酸化還元を見る」講座。全員が一人で実験を行うことに挑戦した。
(中)青色顔料であるプルシアンブルーを生成し、酸化や還元による色の変化を確認。
(右)大学のノート。身につけた知識を、調剤などの実習に生かしていきたいという。


千葉大学の高大連携
「次世代才能支援室」が、理系人材養成の高校生向けプログラム(3コースの基礎力養成講座や課題研究支援等)を開発・運営。千葉県や東京都の高校と連携し、科学に関心がある生徒の発掘と育成を進めている。また、「高大連携支援室」が、全国の高校生にとっての研究発表の場となる高校生理科研究発表会を開催。今後の高大連携についての相談窓口も務める。

齋藤さんにとっての高大連携
高校にない器具や機械を使って学ぶことができ、大学の研究の面白さを感じた。
実験で起こる現象を体感。それらの現象を理解しようと知識を学ぶようになった。
講座で大学に通い、サポート役の大学生と話もするなかで、「こんな勉強や生活をしたい」という志望動機が固まった。
大学生の今、コロナ禍で実習が制限され、講義が多い状況だが、その知識が今後に生きると思えるから真剣に学べている。

高大連携を後輩に伝えるなら
参加するか「悩んでいる」としたら、不安以上に「やりたい」気持ちが既に生まれているからだと思うんです。飛び込めば、すごく豊かな経験ができると思います。


04 大学生

好きなことを大学の専門家から学び
高校生が自力で探究するプログラム。
本気で学ぶことを知り、自信がつきました

桜美林大学(東京・私立) 1年生 長田ながた 紗季 さん 北海道・旭川藤星高校出身

撮影/竹内弘真

「ディスカバ!」という高校生向けのプログラムが桜美林大学にあることを知ったのは、高校3年生の夏でした。私は航空業界に憧れていたので、航空・マネジメント学群のある桜美林大学のホームページものぞいていて、偶然、見つけたのです。  

応募したプログラムは「航空ビジネスの世界空港マネジメント編」。オンライン授業を受けたあと、空港の良い点や課題を調べ、世界とつながる新路線の誘致プランを自分で考え提案する、というものでした。地元の空港に3日間通い、職員さんにも話を聴き、必死にレポートを書きました。  

でも、そのレポートでは賞を取れなかったんです。人生でこれほど熱心に取り組んだことはなかったのに。悔しくてたまらなくて、先生の講評を参考に空港に行ってまた調べ、書き直して再提出しました。その後「航空ビジネスの世界気象編」のプログラムにも参加し、今度は準グランプリを取ることができました。こうした活動のおかげで、総合型選抜で桜美林大学に入れたのかなと感じています。  

高校時代、正直に言えば、勉強が好きではありませでんした。先生から促されてやっていて、「今の学力では桜美林大学は厳しいよ」とも言われていました。でも、好きなことを専門の先生から学べるチャンスに出合えたら、自然に勉強もがんばろうと思えたんです。私の場合、「好き」というのが、がんばる原動力になるのかな、と思いましたし、その取組で認めてもらえたことが自信にもなりました。  

ディスパッチャー(運航管理者)を目指しているので、運航管理も学べる整備管理コースへ進みます。航空業界に必要な知識を身につけ、仲間と共に成長していきたいと思います。

(左)「ディスカバ!」の長田さんのレポートの一部。空港の写真も自分で撮影。
(中)「ディスカバ!」プログラム例。今では長田さんも学生スタッフとして提供側に。
(右)大学では気象サークルにも所属。先輩にたくさん質問しながら学んでいる。


桜美林大学の高大連携
高校生が未知の分野を探究する「ディスカバ!」というキャリア支援プログラムを、キャンパスまたはオンラインで展開。2020年には、グローバル、SDGs、アート、音楽、航空、観光などの70プログラムをオンラインで実施、全国から約2800名の高校生が参加した。また、2022年度入試より、総合型選抜の一方式として探究活動の経験を評価する探究入試「Spiral」を導入した。

長田さんにとっての高大連携
好きなことを学べるチャンスをもらえ、これまでの人生で一番がんばれた。
結果を出せず悔しい思いも味わったが、それをバネに「何がダメだったか」を考えて行動すれば、次に生かせると学んだ。
●「先生から教わる」だけでなく、「自分で調べて質問して学ぶ」ようになった。
大学でも自ら動き、オープンキャンパスの運営団体に参加、気象サークルでも運営に参画。そうした体験も学びになっている。

高大連携を後輩に伝えるなら
やりたいと思ったことをぜひやってみてほしいです。うまくいかない部分があっても、そこからも学べることがあり、自分で必死に考えた経験が次につながります。


取材・文/松井大助