白梅学園大学・白梅学園短期大学 学長 髙田文子氏
多様な実践的学びを通して、
自ら考え、決定する主体性を育む
白梅学園が継承する「ヒューマニズム」とは
白梅学園の歴史は1942(昭和17)年、財団法人社会教育協会の事業として東京家庭学園を創立したことにはじまります。初代学園長穂積重遠(渋沢栄一の孫)のもと、自由と教養を重んじる校風の確立に努め、創立から15年後の1957(昭和32)年に白梅学園短期大学、さらに2005(平成17)年には白梅学園大学を設立し、2022(令和4)年に創立80周年を迎えます。
白梅学園が掲げる理念「ヒューマニズムの精神」は、白梅学園短期大学の前身である東京家庭学園が、1953(昭和28)年に白梅保母学園として発展的解消をした際に掲げられたものです。ヒューマニズムの理論自体は、歴史的にも哲学的にも多様な考え方と変遷があり、解釈は一律ではありませんが、本学が継承するその理念は「人間の尊厳を重んじることとともに、その発達のはじめの段階である乳幼児期・児童期を大切にする」(元短期大学長田中未来)という考え方に立っています。
「人を支える」の本質を学ぶ
本学に在籍する多くは、コロナ禍における医療従事者と同様に、休むことなく人を支え、社会を支える保育士や幼稚園・小学校教諭、あるいは福祉の現場を支える対人援助職を志す学生です。そして本学の学生たちの専門領域となる保育や子ども学は、人間の尊厳を深く理解することが前提となります。
もちろん各種資格や免許状の取得は大きな目標の一つですが、大学の学びとは単に資格取得のためのものだけではありません。高等教育段階として、厚い教養を身につけ、人間性を深めることにより自己の成長を目指します。そのために、他者との対話と自己との対峙の蓄積が必要なのです。卒業後は多くの学生が「先生」と呼ばれ、子どもたちのまなざしを信頼に転化する責任ある立場になります。また、子どもに限らず福祉の現場で活躍する対人援助職や、それをマネジメントするソーシャルワーカーにあっても、多くのまなざしに応えられるように、社会に出るまでの限られた時間の中でいかにその準備をしていくかが重要となるのです。
子どもを中心として考えたときに、社会全体は互恵的につながっています。その中で、対人援助職において「人を支える」とは、人の育ちを支える、弱者を支えるなど、直接的にその人そのものをサポートするということもありますが、間接的にその人の心や環境を整えるという広がりのある概念です。例えば、我が子を虐待してしまった親をただ責めるのではなく、なぜそうしてしまったのかの気持ちや状況を掘り下げて寄り添いつつ、共に根本的な課題解決に迫るという意味の「支え」もあります。
地域貢献活動を通して主体的に新たな力を培う
白梅学園大学の学びの特徴の一つとして挙げられるのが、地域社会と学生が連携して行う地域貢献活動「白梅子育て広場」です。この広場では7つの活動(気になる子の広場/紅茶の会~オレンジペコー~/世代間交流広場/あそぼうかい/きららin白梅/子どもの広場/ひよこの会・園庭開放)があり、学生が主体となって子どもや高齢者、障がい児者とつながる活動や体験を通して自ら考え、判断し、学びを深めていきます。
また、これらの広場の活動の中心となるのは、経験の少ない1・2年生です。3・4年生は、これまで学んだこと、経験したことを後輩に伝えながら共に学び、1・2年生は早い段階から自ら考え、学ぶ姿勢を身につけていきます。
「白梅子育て広場」の他にも、林教授のゼミナールの学生と白梅幼稚園が連携して行う「食育ワークショップ」、小平市と白梅学園大学が連携し、アートを通じた療育活動を行う杉山教授のゼミナール「だれでもワークショップ」など、学生が主体となって活動する実践の場がたくさん用意されています。
これらの活動は本学の特徴的な文化でもあります。これからの新しい時代にあっては、人と人をつなぐネットワーク力が必要とされます。学生が主体的に活動に参加することによって、従来の学校体系では学びにくかった構成力や、交渉力を培い、新たなものを生み出す力を醸成します。そして、そのために教職員が見守りながら伴走しています。
往還的な学びによって思考力を磨き、自己を高める
対人援助職の学びは、実践と切り離すことができません。これは、実習先の理解と協力があってこそ成立します。
本学の場合、保育士資格、幼稚園や小学校教諭免許状、社会福祉士や介護福祉士など、一人の学生が複数の資格を取得しようとすると、4年間にさまざまな実習現場で実践的に学ぶことが求められます。その都度、全教員が学生たちと関わりながら、日誌の点検や実習先の巡回、実習後の反省会などを通して指導し、一人ひとりをサポートしながら学生の成長を見守ります。また、実践から得られた学びを学生全員で共有し、日誌に文章で書き記すことで思考し、自覚化された課題を整理します。さらに、大学の授業において理論と実践を照合し、次の実習にむけての自己課題を明らかにします。この往還的な学びを通して、子どもや対象理解が深まるだけでなく、保育、教育、福祉の奥深さを知り、専門性を高めていく階梯を学生自身も教員も共に実感していきます。
子どもの前に立ったとき、正解は一つではなく、ゆえにマニュアル化することができません。だからこそ考える価値があり、それが保育の魅力でもあります。個々の見通しをもちながらも、状況がどんどん変化していくなかで、その場に応じて「何が適当か」を思考・判断し、臨機応変に対応していかなければならないのです。そこには「自分ならどう考えるか」という、思考力がとても重要です。そして、その判断に基づいた実践を振り返る批判的思考力も同時に求められます。この力の礎を授業と実習との往還によって築いていきます。
またコロナ禍において、本学の実習もこれまでとは違った判断を求められるさまざまな場面がありました。対応に追われる大変な1年半ではありましたが、工夫を重ねながら進めてきました。学生にとってもコロナ禍における実習で、現場の状況を体感させていただくことは貴重な経験になったはずです。この学びをここで終わらせるのではなく、ぜひ今後につないでいってほしいと願っています。
子ども学における知の創出を目指して
子ども学の専門領域はテリトリーがとても広く、子どもそのものを対象とするだけでなく、子どもをめぐる人、時間・空間をも含む環境すべてがその対象となりえます。そして、他領域の知見を交錯した学際性を有しています。
本学には、保育学、教育学、心理学、福祉学の他にも、文学、医学、栄養学など、さまざまな分野を専門とする教員が在籍しているため、関心のある研究テーマに対して多様な学問領域からのアプローチが可能になります。まさに子ども学の学際性を具現化する環境にあるわけです。子ども学研究科 子ども学専攻(修士課程・博士課程)を擁する本学大学院とも連携して、白梅学園大学として新しい時代にむかって新たな知の創出をしていきたいと考えております。
【Profile】
髙田文子(たかだ・ふみこ)氏
東北大学 大学院教育学研究科博士課程後期満期退学。教育学修士。2005年4月より白梅学園短期大学准教授、2009年4月より同大学・大学院准教授、教授、2015年4月より同大学学部長を経て、2021年4月より白梅学園大学学長、白梅学園短期大学学長を併任。