Chapter 3 ルールの境界を越える 【Navigator】両角達平(独立行政法人 国立青少年教育振興機構)

多様な人の声を聴きながら、自分たちでルールを更新する経験を。
それが人生を、社会を、誰もが自分で創るための礎になる

校則の見直しのように、高校生がルールの境界を越えることの意義は二つあると考えています。一つは、秩序に従うだけでなく、「人生は自分で決められる」という感覚を取り戻せることです。「自己決定」は所得や学歴以上に幸福感に影響するという研究もあります。もう一つは、自分の意見や行動により周囲が変わることで「社会と自分はつながっている」と実感し、「社会参画」の意欲も高まることです。  

現状はどうでしょう。世界価値観調査(※1)で若者に「人生を自由に決められる程度」を10段階で尋ねると、例えば、トップのスウェーデンはと答えた10人が20%、7〜9も多く、日本は10の回答が6・8%、5〜7が主流でした。若者の選挙の投票率は、スウェーデンが8割超、日本は3割程度。私は、この差が生じる背景を知りたくて、2012年から約3年間、スウェーデンに留学し、現地で生活し、若者支援の現場や学校などを訪問するなかで、研究してきました。その経験を基に、高校生がルールの境界を越えるうえで重要だと思う点を挙げさせてください。

①生徒が学校を「越境」する
スウェーデンの若者は、学校とは異なる余暇の時間に、若者団体やユースセンター(※2)で活動します。これらの活動は地域ベースで、他校の生徒や地域の大人との交流が自然に生まれます。結果的に学校を越境し、よその世界で学校にはない見方を学び、社会にも参画することになります。

②生徒の声を聴き、対等に関わる
普段から「どうしたい?」と生徒の声を聴きます。スウェーデンの学校では、給食、設備、時間割などにも生徒が意見を出す機会があります。その議論に最後まで生徒に主体的に参加してほしいなら、「対等に関わり、一緒に決める」のが、原則です。先生の想定する着地点に導こうとすると、生徒は察して、萎えるか、忖度を始め、活動も「こなす」だけになるでしょう。

③「民主的か」も生徒と対話する
生徒の主体性を高めた先に、我々は何を目指すのでしょう。ここが曖昧だと、生徒の活動は主体的でも独善的になる可能性があります。スウェーデンの教育では、目指すのは民主主義を根づかせることだと明言しています。民主的とは何かというと、現地の19歳の若者はこう語ってくれました。「あらゆる人が自分の声を届かせることができ、影響を与えられることだ」と。性別、性自認・性表現、民族・人種、宗教ほか思想信条、障害、年齢などで参画が妨げられない。仮に生徒が多様な人の声を反映せず、非民主的に物事を進めていたら、先生は開かれた民主的な対話によって向き合います。  

今の取組は「主体的か」「民主的か」。この2軸を大事にしてこそ、生徒も先生も、既存のルールの境界を越えて、より良い学校や社会を共に創造していけるのではないでしょうか。

もろずみ・たつへい●1988年生まれ。大学在学中より若者の社会参画の研究および支援活動を行い、2012年よりスウェーデンのストックホルム大学に留学。ドイツの若者政策国際NGOの勤務、大学院修士課程修了を経て、現職。著書に『若者からはじまる民主主義』(萌文社)。

※1 世界価値観調査 WAVE 6 2010‒2014
※2 ユースセンターは、地域に設置されたユース世代(中高生世代)がさまざまな活動をできる施設

取材・文/松井大助 撮影/西山俊哉