日本工業大学 学長 成田健一氏

本学ならではの教育を強みに、
時代に鑑みて進化し続ける。


工業高校出身者のための大学を設立
 日本工業大学の前身である東京工科学校は、優れた技術者の輩出により、日本の近代化を推進することを目的に1907年(明治40年)に設立しました。以来、時代が変わり、校名が変わっても、実際の技術に触れる体験学習を重視し、現実社会に役立つことを目標に学ぶ「実工学」の理念は、今日まで脈々と受け継がれてきました。
 高度経済成長の時代を迎えた1955年代(昭和30年代)に入ると、産業界では技術の習得だけではなく、新技術の導入に対応できる能力をもった人材が求められるようになりました。こうした産業界からの強い要請に応えようと手を挙げたのが本学です。
 1967年(昭和42年)に実学重視の伝統を⼤学まで発展させ、⼯学部3学科(機械⼯学科、電気⼯学科、建築学科)を擁する⽇本⼯業⼤学を設⽴し、産業界の要請に応えた⼈材育成をスタートさせました。
 設立当時、日本の社会では、大学に子供を行かせる余裕のある家庭も限られていました。大学進学率も約13パーセントの時代で、就職を前提とした工業高校の生徒は約62万人。現在のその数をはるかに超える生徒の中には、向学心にあふれ、入学後に大学進学を希望する者も多く、その受け皿となる工業系大学の設立は急務でした。実習を重視した工業高校のカリキュラムを完璧にやり遂げ、優秀な成績を修めたその生徒をありのままに評価し、ハンディなく受験できる工業系の大学づくりを実現させること。これを日本工業大学は目指しました。
 本学の設立を心待ちにしていた工業高校生は、本学附属高校からの入学者はもとより、トップクラスの生徒が北海道から九州まで全国から集まってきました。

2018年(平成30年)、学部学科を改組
 日本工業大学設立から52年が経過した2018年(平成30年)、かつてない学部学科改組を行いました。伝統である実践的教育(実工学教育)を継承しつつ、人材育成のため、これまでの工学部1学部体制を、機械工学科・電気電子通信工学科・応用化学科からなる基幹工学部、ロボティクス学科・情報メディア工学科からなる先進工学部、建築学科(建築コース・生活環境デザインコース)からなる建築学部の3学部6学科2コース体制とし、工業系単科大学から理工系総合大学へと生まれ変わりました。
 変化に対応できる人材とは、単なる知識や技能だけではなく、それを活かすための思考力、判断力、行動力、コミュニケーション力などを身につけた人材です。こうした能力を習得するための教育や研究の場を提供し続けるため、今後も、本学では多面的な改革を実行していきます。

多様な価値観のなかで他者と共に成長する
 現在では、多くの大学のそれぞれ特色を生かしたさまざまな選抜方法により、工業高校生の大学選びの選択肢は大きく広がりました。本学においても、時の流れとともに工業高校生だけではなく、普通科高校出身者の受け入れへとシフトしてきました。
 応用化学科や情報メディア工学科には普通科高校出身者が多く、建築学科では今でも工業高校出身者の割合が多いという状況です。工業高校と普通科高校出身の学生が共に学ぶこの環境は、本学ならではの大きな特長であり、学生にとっても魅力的な環境であるといえます。学生たちは互いに交流することで、これまで自分にはなかった考え方や視点があることを知り、多様な価値観のなかで他者を認め合い、自身の視野を広げながら成長することができます。
 また、日本工業大学には、仲間と一緒に「つくる」ことに夢中になれる、手を動かしてアイデアを「カタチ」にできる、そんな素晴らしい環境があります。普通高校出身者でも、ものづくりが好きになり、誰もが本学のカリキュラムで確かな専門力を身につけて、社会に貢献する実践的技術者を目指すことができます。
 そして教員も職員も、「在学中に成長を経験した学生は社会に出てからも伸びる」という信念の下、多様な尺度をもって、それぞれの学生にあった「成長を経験させる」ためのサポートをしています。「一律の達成指標で評価する」のではなく、「それぞれが自分の伸びしろをどれだけ伸ばしたか」。その「成長の度合い」を評価するのが日本工業大学の教育です。

専門力を社会に活かす経験を提供!「人と暮らしの支援工学センター」
 講義で知識を得ることを超えて、人間力形成のために、工房教育やビジネスプランなど、学生に対して多彩なプログラムを提供しているのが本学の特徴です。とりわけ、高齢者や障がい者など社会的弱者への生活支援をはじめ、さまざまな社会貢献活動を通して人に寄り添える技術者の育成を目的として設置されたのが「人と暮らしの支援工学センター」です。
 これまでの活動の中には、本学の建築学部生活環境デザインコースと、3つの大学の医学部、薬学部、ヒューマンケア系学部が連携したプロジェクトを立ち上げ、障がい者施設で実践する機能回復のためのリハビリテーションプログラムやリハビリ用の器具を作るなど、それぞれの分野の学生たちが自分の専門力を社会に生かす活動があります。
 建築系と医療系のコラボは異色な組み合わせと思われがちですが、在宅高齢者が元気に生活するにはその家の環境の良し悪しが大いに関係し、そこには、生活環境デザインコースの学生の専門知識を必要とします。
 他大学の異なる分野を専門とするそれぞれの学生がこのプロジェクトで自分に何ができるかを考え、行動する。そして、他の学生の発想や視点に刺激を受け、視野を広げる。これからの日本の高齢社会は、「住まい」を中心に一人ひとりが自分のできることで貢献しながら、お互いに支え合っていく社会でなければ成立しません。そのためにも、本学ならではのこのプログラムでの学びや経験は貴重であり、今後も継続して行っていきます。

世の中の仕組みを知る!「現代社会の基礎知識」
 2022年度より「現代社会の基礎知識」という新しい科目を立ち上げます。まずは選択科目としてスタートさせ、本学の特長あるカリキュラムの一つにしていきます。これからの社会は、技術者も自分の専門力が何に役立つか、社会的背景を踏まえて理解する必要があります。この科目では、世の中の仕組みを知るとともに、技術者が直面するであろう身近な課題を題材に、法律や経済、歴史などを横断的に捉える授業を展開します。

先進工学部にデータサイエンス学科を開設
 時代の変化に合わせて進化し続ける日本工業大学は、2022年4月、先進工学部にデータサイエンス学科を開設します。そこには、データサイエンスの知識や技術を活用して課題を発見し、解決につなげるデータ分析力は技術者にも求められているという背景があります。
 今日ではビッグデータやAIなどのキーワードばかりがもてはやされていますが、本学のデータサイエンス学科が目指すのは、データ分析力に加え、ものづくりの現場を熟知し、IoTなどのシステム構築力を身につけ、価値あるデータを取得できるデータサイエンティストの育成です。
 また、データを扱う能力を身につけた人材は、あらゆる産業分野で活躍することができるという考えのもと、日本工業大学では、すべての学科でデータサイエンスプログラムを学べる環境を整えているのも大きな特徴です。


成田健一氏

【Profile】

成田健一(なりた・けんいち)氏

1979年3月 広島大学 総合科学部 総合科学科 卒業
1981年3月 広島大学大学院 環境科学研究科 修士課程環境科学専攻 修了 (学術修士)
1986年6月 広島大学大学院 工学研究科 博士課程後期 環境工学専攻 単位取得満期退学
1986年7月 広島大学 工学部 助手 翌年工学博士号を取得
1990年11月 広島大学 工学部 助教授
1997年4月 日本工業大学 工学部 建築学科 助教授
2000年4月 日本工業大学 工学部 建築学科 教授
2010年4月 日本工業大学 教育研究推進室長
2011年12月 日本工業大学 教務部長
2015年12月 日本工業大学 学長

【日本工業大学の情報(スタディサプリ進路)】
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