新渡戸文化短期大学 学長 木村直史氏

社会の要請に対応するカリキュラム改革で
時代が求める「食」と「医療」のスペシャリストへ

自律型学習で教養を深め、社会に貢献する専門職を育成
 新渡戸文化短期大学は、ラテン語の「Veritas vos Liberabit(ウェーリタース・ウォース・リーベラービト:真理はあなたがたを自由にする)」を建学の精神に掲げ、1928年創立しました。これは前身となる女子経済専門学校初代校長・新渡戸稲造博士と創立者の森本厚吉博士が学んだジョンズ・ホプキンズ大学で使われている教育標語でもあります。あらゆる情報をインターネットで手に入れることのできる現代では、ただ知識を与え、詰め込む教育はあまり意味がありません。大切なのは、氾濫する情報から正しい情報を見極めて選び取る技術を身につけることです。正しい知識や考え方を学ぶこと、つまり真理を知ることが世界を大きく広げるのです。
 学生にはまず「学ぶ楽しさ」を知ってもらいたいと思っています。好きな科目を一つでも見つけて学ぶ楽しさを覚えた学生は、自分からさらに深く、さらに広く学ぼうとする自律型学習にたどり着くことができます。それが「自律性および市民的教養を有する職業人」の育成という本学のモットーにもつながる、私の教育方針です。
 本学では長年にわたり、社会に貢献できる専門性の高い人材を輩出してきました。現在は、栄養士の資格を活かした食のプロフェッショナルを育成する2年制の「食物栄養学科」と、質の高い臨床検査技師を数多く輩出する3年制の「臨床検査学科」の共学2学科で、「食」と「医療」のスペシャリストを養成しています。そして、変化し続ける社会や時代のニーズに対応すべく、両学科でカリキュラムの改革を進めています。

拡大する食のマーケットに応える食物栄養学科の新カリキュラム
 食物栄養学科では、栄養学や食品学、調理学等の専門科目をベースに幅広い基礎力を養い、専門料理や高度な技術をプロのシェフから直接学びながら、食を通じて人々を笑顔にすることができる栄養士を育ててきました。
 2022年度からは、地産地消への注目やフードテクノロジーの市場拡大など、近年の食品業界の動向に対応した選択科目の開講を予定しています。これまでの「病院・福祉の給食」「保育園・学校の給食」に加えて「商品開発」「外食産業」など学生が目指す職種別に新しい履修モデルを準備しております。栄養士資格に加えて、選択科目の履修によってフードスペシャリストやフードコーディネーター資格の取得も目指すことができます。企業とのコラボレーションで商品開発を学ぶ新科目「食品加工流通学」、地球環境や人にやさしい食物を考える「エシカルフード概論」などユニークな科目を履修することが可能となります。一つの食品を開発するとなれば、栄養学だけでなく、マーケティングや流通、価格設定、パッケージデザインなど、横断的な学びやさまざまな面からのアプローチが必要となります。学生は実践を通して多角的な視点を身につけることになるでしょう。このために、食品加工室の機能をもち、「食」の今までとこれからを探究できる新施設『NITOBE FOOD LAB』 の開設を予定しています。これらの改革はいずれも、広がる食のマーケットのなかで活躍できる人材を育成することが目標となっています。
 短大を取巻く環境が厳しいなかでも、これらの取組は高校の先生方や生徒の期待も高く、2022年度の募集は昨年度を大幅に上回ることができました。

臨床検査技師のキャリアを生涯にわたりサポート
 本学の臨床検査学科は、1952年に日本初の臨床検査技師養成校として発足した長い歴史をもちます。当学科では実習に重点を置いており、トップクラスの大学病院や総合病院での長期間の臨地実習を実施しています。実習は、現場でしか触れることのできない先進の技術を学ぶと同時に、チーム医療に欠かせないコミュニケーション能力を実践的に学ぶことができる機会です。実習病院とのコネクションは、優秀な臨床検査技師を多数輩出してきた新渡戸の歴史と信頼に培われたものであり、伝統校の強みであると言えるでしょう。
 また、学生思いの教職員が揃っていることも大きな自慢です。私を含め若干名の医師を除くすべての教員が臨床検査技師の資格を保有し、豊富な実務経験を備えた教員が指導にあたっています。積み重ねてきた教育のノウハウと、きめ細かな教員の指導のおかげで、高い国家試験合格率、就職率を維持しています。
 臨床検査と一口に言っても、生理機能検査や病理検査、生化学検査、遺伝子検査、微生物検査など多岐にわたる分野があり、多くの臨床検査技師はさらに専門分野に特化していきます。本学には、キャリアアップや専門分野の拡大を目指す卒業生の学び直しを支援する「臨床検査研究所」があり、長く現場で活躍するための手厚いサポートは卒業後も続いていきます。
 臨床検査学科においても2022年度より臨床検査技師養成所指定規則と指導ガイドラインの改定により、医療チームの一員として医師、看護師、管理栄養士、薬剤師など多職種との連携の必要性から、「栄養学」や「臨床栄養学」、「病態薬理学」などの新しい科目が導入されます。専任教員として医師、管理栄養士を擁する食物栄養学科を併設する本学は、この新カリキュラムへ難なく対応することが可能です。

学生を第一に考えた手厚い支援体制と学びの改革
 学生と教員の距離が非常に近いことも本学の大きな特長です。少人数教育の利点を生かし、学生一人ひとりの顔が見える教育、学生を一番に考える教育を大切にしています。どの教員も優秀な後進を育てたいという情熱をもって指導してくださっています。社会の変化や学生の将来を見据え、新しい学びや先進的な考え方も積極的に採り入れながら、教職員が一丸となってカリキュラム改革に取り組んでいます。
 また、新型コロナウイルス感染症拡大による影響を鑑みて、2021年度および2022年度入学者選抜を対象に実施した入学検定料の無償化を2023年度も継続することを決定しました。従来の特待生制度を発展させ、より多くの受験生が入学金・受験料免除にチャレンジできる入学時・入学後の経済サポートも多数用意しました。短期大学に併設する子ども園やアフタースクール、小・中学校、高等学校など、新渡戸文化学園内でのアルバイトや有償インターンシップなどを紹介し、学生が安心して学びながら収入を得られる「学内ジョブ制度」もその一つです。新渡戸先生はかつて、勤労青年や貧しい青少年を授業料無料で受け入れる夜学を開きました。学生への手厚い経済支援は、そんな新渡戸先生の精神を受け継ぐものです。
 現在の医療現場では、医師や看護師、臨床検査技師、栄養士など、専門職がチームとなって一人の患者様のケアにあたる「チーム医療」が行われています。その中心に立つのは必ずしも医師であるとは限りません。場合によっては栄養士が中心となることもありますし、臨床検査技師による正確な検査データの提供がなければ医師は正しい診断を下すことができません。各分野のスペシャリストであるすべての専門職が、チーム医療、そして社会に不可欠な存在なのです。
 食の業界も医療現場も、一人の力では成し遂げられない仕事がたくさんあります。コミュニケーション能力をはじめ、チームで協働するうえで必要な力や、分野の垣根を越えた幅広い教養を備える教育を推進し、高い専門性と豊かな人間性を身につけた栄養士、臨床検査技師をこれからも育ててまいります。


木村直史氏

【Profile】

木村直史(きむら・なおふみ)氏

1980年東京慈恵会医科大学卒業後、同大学薬理学教室助手、講師を経て1991年から2年間カルガリー大学へ留学。帰国後、助教授を経て2002年薬理学教室教授に就任し医学教育研究室室長を兼務。2005年にカルガリー大学との共同研究により呼吸リズム形成のカップルド・オッシレータ説を提唱。2019年3月慈恵医大を定年退職。2020年4月新渡戸文化短期大学学長に就任し現在に至る。医師、医学博士。専門は薬理学、呼吸生理学、医学教育。趣味はYouTube、あくびの研究。

【新渡戸文化短期大学の情報(スタディサプリ進路)】
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