日本菓子専門学校 校長 三浦 秀一氏

製菓・製パン業界の期待に応えるプロフェッショナルを育成。
卒業後の人生も支える、仲間・教師・業界との「つながり」

少人数制のカリキュラムで修得する確かな技術力
 日本菓子専門学校は1960年、全国菓子工業組合連合会を中心とする菓子業界からの「次代を担う技術者を」という要請によって誕生した学校です。創立以来、「菓子業界の期待に応える人材づくり」を教育理念として、基本的な製菓知識と技術を身につけた人材を数多く送り出し、業界の発展に寄与してまいりました。
 本校は洋菓子・和菓子の専門技術を学ぶ2年制の「製菓技術学科」に始まり、1998年には1年制の「製パン技術学科」、2016年にはより高度な洋菓子技術を学ぶ「ハイテクニカル科」を設置しました。2022年4月からは1年制の「パティシエ技術学科」を新たに開設します。これは、短期間で技術を修得したい、より経済的に学びたいというニーズに応えて生まれた、洋菓子の技術・知識を1年間で学べる学科です。学びたい人がそれぞれの目標や事情に合わせて学び方を選べるよう選択肢を広げています。
 実習における「少人数制」の学びは本校のこだわりです。製菓技術学科は1テーブル3人制、製パン技術学科は1グループ4人制。全員が多くの作業に携わることで技術力を高めると同時に、メンバー同士が話し合いながら作業を分担し、チームワークやコミュニケーション能力を身につけてもらうこともねらいです。本校の実習は、多様な人と協働して菓子やパンを製造する“現場”に近い環境であると言えるでしょう。

現場で感じた専門基礎教育の必要性
 私自身は製菓の専門教育を受けることなく、大学卒業後すぐに洋菓子製造・販売の企業へ入社し、製菓の世界に飛び込みました。しかし、現場経験と独学のみで職人の道を歩む私と、製菓学校などで基礎を学んだ同僚との間に成長の差を感じる場面もあり、専門学校の必要性を感じるようになります。そこで、働きながら夜間に技術を学べる学校を探したときに出合ったのが、当時は卒業生の親睦団体が夜の勉強会を開いていた日本菓子専門学校でした。そこに参加したことをきっかけに当時の教員から誘いを受け、以来約38年本校で教鞭を執り現在に至ります。
 専門学校は基本的な知識と技術を広く学び、身につける場所です。多くの卒業生も、「和菓子・洋菓子・パンを一通り学べたこと」「幅広い知識を手に入れたこと」がこの学校の魅力だったとよく語ってくれます。製菓・製パンの実習のほかにも、ドイツ語・フランス語・イタリア語の語学や、経営学、和菓子文化に密接な茶道や書道なども学び、製菓・製パンを生業とするうえで必要な教養を身につける授業も設けています。
 技術力の向上には、自発的な学びと日々の反復練習が欠かせません。日本菓子専門学校には「朝練・夕練」の伝統があります。授業開始前の朝と授業終了後の夕方に、希望者が技術を繰り返し練習できる時間を設けているのです。専任教師の立ち合いの下、練習用の材料を使用し、洋菓子の絞りやパイピング、和菓子の種切りや包餡、製パンの分割や成形など、基礎技術の修得と上達を目指します。これは私が本校の教師になって間もない30数年前、担任を受け持っていた学生から「絞りがうまくできないから練習したい」と相談を受けたことをきっかけに始まったものでした。基本的な技術ばかりですが、これらをしっかり身につけることで次のステップへ進むことができます。その基礎を作るところまで学生を導くのが私たち教師の使命であると思います。

学生と正面から向き合う専任教師、現場の今を伝える講師陣
 実習や授業に対して非常に真面目に取り組む学生が多いことも本校の特長で、コロナ禍でも学生の授業出席率は約98%にのぼりました。入学前から明確な目標をもち、本校のカリキュラムをよく理解した学生が入学している側面もあると思いますが、そんな学生の意欲を支え続けるのが教職員の情熱です。本校は専任教師がクラス担任を受け持ち、学生一人ひとりの成長をバックアップしています。学生と教師が一人の人間として正面から向き合えば、学生は自ずとその情熱に応えてくれるのです。
 本校に所属する専任教師の多くは、製菓衛生師や菓子製造技能士・パン製造技能士の国家資格、職業訓練指導員免許を保有し、小・中・高等学校などで実技指導を行うものづくりマイスターの認定を受けた教師も多数在籍しています。また、教師自身もスキルアップを怠ることなく、国内外のコンテストやコンクールに積極的に参加し、毎年優れた成績を収めています。技術向上に向き合う教師の姿勢は、学生にとっても大きな刺激になっているようです。
 有名店のオーナーシェフや社長、各分野の専門家など、第一線で活躍する講師が教壇に上ることも、業界とのつながりが深い本校ならではの強みです。講師陣は、製菓・製パンの高度な技術だけでなく、人間的な魅力にあふれた方ばかりです。授業では、最前線にいるからこそ語ることのできる最新トレンドや現場のリアルを学生に伝えてもらうようお願いをしています。これは社会に出てからではなかなか経験できない、贅沢な学びであると自負しています。

人とのつながりが技術職人生を支えていく
 仕事をするうえでは、「人と人のつながり」が何より大切であると私は考えます。同じ目標をもって学んだ仲間とは、卒業後も永く関係が続いていきます。卒業生は、国内外の製菓・製パンの世界で健闘する同志として、勉強会や同期会、同窓会などで集い、情報や知識の交換をしています。私も教え子と長年交流を続けていますが、地域ごとの流行や時代の動向など、卒業生から教わることがたくさんあります。人としてさまざまなことを教えてくれる方や意見を言ってくれる方とのつながりは、ずっと大切にしていくべきものです。また、菓子業界が設立した学校ということで、菓子店の跡継ぎが入学することは元々珍しくありませんでしたが、近年はさらに卒業生の子が入学してくることも増えました。共に学んだ一生ものの横のつながりと、世代を越えた縦のつながりは、卒業後も心の支えとなっていくことでしょう。
 製菓・製パン業界の関係者と会話していると、若手人材に求めるものとして、技術力よりも先に「コミュニケーションをしっかりとれる」ことを挙げる方が非常に多いと感じています。ちゃんと挨拶ができる、大きな声で返事ができる。一流の技術職への第一歩は、そんな基本的なコミュニケーションから始まっていくのだと思います。本校では基礎となる技術面の教育はもちろんのこと、社会人として必要なコミュニケーション能力や周囲を思いやる心の育成にも注力し、豊かな人間性を兼ね備えたプロフェッショナルをこれからも輩出してまいります。


三浦秀一氏

【Profile】

三浦秀一(みうら・しゅういち)氏

1956年生まれ。1979年駒澤大学法学部法律学科卒業後、株式会社吉富商事に入社し馬車道店チーフを務める。1984年より専修学校日本菓子専門学校入職。2018年より同校の校長・理事在職中。
スイス「コンフィズリー・プロジャン」就労、スイス「リッチモンド製菓学校」、スイス「ノッター飴細工学校」、フランス・パリ「ホテル・ド・クリオン」、フランス・パリ「パティスリー・ジャン・ミエ」等で研修。
(公社)東京都洋菓子協会理事、(一社)日本洋菓子協会連合会委員、日本菓子教育センター理事も務める。
洋菓子1級技能士・職業訓練指導員・製菓衛生師・ものづくりマイスター 菓子製造業種認定。

【日本菓子専門学校の情報(スタディサプリ進路)】
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