皇學館大学 学長 河野 訓氏
文系教員輩出の伝統校で、数学教員養成をスタート
日本の伝統を継承しながら変化に対応できる人材育成を
日本の文化と歴史を後世に伝え、継承していくという建学の精神
2022年に創立140周年を迎えた皇學館大学は、明治15年(1882年)に神宮祭主であった久邇宮朝彦親王の令達により、林崎文庫内に「皇學館」を創設したことが始まりです。日本の文化と歴史を伝え、伊勢の神宮における神道研究の伝統を継承すると共に神職の養成を行い、文明の発展に貢献するという建学の精神は、今もなお脈々と受け継がれています。その一方で、教育学部や現代日本社会学部などが新たに設置され、世の中の変化にも対応し、“求められる人材”の育成を行ってきました。これらの姿勢を今後も忘れず、祖先の歩みに敬意を払い、思想や文化の継承の実現を目指して教育と研究を推進していきます。
良い教員を世に送り出し、日本全体の教育レベルの底上げを
本学ではこれまで、幼児教育から高等学校の教員まで、卒業生約2万8700名中、教育界に約6600名を送り出してきました。多くの教員が輩出しているということは、すなわち日本全体の教育レベルに対する責任も生じると考えています。良い教員を多く育成することは日本全体の教員レベルの底上げにもなり、日本全体が良くなることにつながると考えるからです。本学では中高教員輩出プロジェクト「倉志会」にて、現役の教員などによるアドバイスや教員採用試験の勉強会などを行っています。小学校教員を目指す学生については、学生が主体的に運営しているプロジェクト「つばさ」があり、同じ目標をもつ学生が切磋琢磨しながら、集団討論や場面指導、模擬授業などの練習に取り組んでいます。また、元校長による教職アドバイスや教員採用試験対策としての面接指導など、教員を目指す学生をあらゆる面から徹底的にサポートしています。
数理教育コース新設により、文系のみならず数学教員の養成へ
2023年4月からは、より世の中に求められる教員育成を目指し、全学部にてコース再編を予定しています。なかでも大きなトピックは、教育学部において数学教員を養成する「数理教育コース(中高教員)」を新たに設置することです。これまで本学では、文系教員の輩出を多く行ってきました。しかし、AIがビジネスシーンで活用されることも多く、データを統計的に読み解く力が社会全体から求められています。それに伴い数学教員に求められる能力の幅も広がっているため、今後ますます重要性が高まる数学の知識やデータ・サイエンスを実践的に教えることができる教員の育成を目指します。もちろん、基礎レベルからエキスパートまで、学生のニーズに合わせて学びの深度を変えることが可能です。他にも教育学科では、小学校教員を目指す「初等教育コース」、保育士や幼稚園教員などを目指す「幼児教育コース」、保健体育の教員を目指す「保健体育コース(中高教員)」を設け、教科ごとに必要な知識や教育法・指導法を学ぶカリキュラムを準備しています。2年後には、理科教育の教員養成課程を新設予定です。
専門性を身につけながらも将来ビジョンを明確に描けるコース再編
これまで学科ごとにコースを設置していましたが、今回のコース再編により「どのコースで、どんなことを学べるか、どういった人材になれるのか」ということをより明確にいたしました。文学部国文学科を例に挙げると、「国語学・国文学コース」や国語科の教員養成を目指す「国語教育コース(中高教員)」はそのままに、新たに「書道・漢文学コース」「図書館司書コース」を設置しています。これまでも書道や漢文学といった科目はあり、図書館司書などの資格取得も可能でしたが、「より深く学びたい」という学生のニーズに対応し、深い学びによって専門性を身につけながらも、将来のビジョンを描きやすくすることで、目標に向けた取り組みをきめ細かくサポートしていきます。本学での深い学びを通じて、変化の激しい時代にあっても自らの手で未来を切り拓く人材として、必ずや成長してくれることでしょう。
国史への探究心を満たせる「国史総合コース」を新設
文学部国史学科では、歴史教員を目指す「歴史教育コース(中高教員)」や博物館学芸員など文化財に関わる人材を目指す「歴史文化財コース」に加え、「国史総合コース」を新設する予定です。ここでは「歴史の研究を極めたい」という、純粋に学問を学びたいという学生に門戸を開いています。国史学科では古代・中世・近世・近現代の各時代に専任教員を配置し、少人数クラスにて史料の講読・演習を行っています。もちろん、学んでいくうちに「歴史教員になりたい」「学芸員を目指したい」という希望が出てくれば、資格取得も可能です。「日本の歴史を伝える」という建学当時からの想いを、より具現化するコース再編となっています。
流動的な現代社会に対応できる、これからの日本を支える人材育成
現代社会はさまざまな問題を抱え、まったく予測していないことがいつ起こってもおかしくない環境にあるといえます。また、技術革新も急速に進展しており、目まぐるしく変わります。変化の激しい現代に取り残されないためには、常に新しいことを学び続ける姿勢が大切だと考えます。伝統文化やものの考え方などを継承しながら、これからの日本を担っていける人材育成をこれからも継続していきます。
【Profile】
河野 訓(かわの・さとし)学長
1957年、宮崎県出身。東京大学大学院人文科学研究科印度哲学印度文学専攻博士課程修了。文化庁事務官、非常勤講師等を経て、2000年に皇學館大学へ着任。2019年より現職。