八戸工業大学 学長 坂本禎智氏

「良き技術は、良き人格から生まれる」を理念に50年
モノづくりとコトづくりの融合を目指す未来を見据える

JABEEを経て、「学習成果の可視化」に注力
 1972年に工学部3学科でスタートした八戸工業大学は今年、50年の節目を迎えました。今年度は工学部の改組を行い、工学部工学科(5コース)、感性デザイン学部感性デザイン学科の2学部2学科、大学院工学研究科3専攻で学生が学んでいます。
 初代学長は「良き技術は、良き人格から生まれる」と人材育成像を説いていますが、それは建学の精神である「正己以格物(せいきいかくぶつ)」に通じています。儒教の言葉の1つで、道徳や知性の錬磨を表しています。学問だけでなく、人間性や人間力を身につけなければならない。その精神で50年、邁進してきました。
 それはディプロマ・ポリシーにも反映されています。本学では①豊かな人間性と総合的な判断力②社会の変化に対応できる柔軟な思考力③専門分野の基礎原理の理解と高度応用展開力④地域社会への関心をもちグローバルな視野で物事を考える姿勢の4つを掲げ、専門性の基礎力や応用力はもちろん、人間力や社会性を重視しています。
 このディプロマ・ポリシーに対応し、学修成果を可視化するべく、20個の修得因子を定義しています。これは文部科学省の「生きる力」、「学士力」、経済産業省の「社会人基礎力」、JABEE(日本技術者教育認定機構)認定基準を網羅するように構成しています。「良き技術は、良き人格から生まれる」の教育理念を具現化する背景には20個の修得因子があり、それが理念につながっていくのです。
 「学修成果の可視化」は文部科学省・大学教育再生加速プログラム(AP)で2014年に採択されました。それ以前にはJABEEを先駆けて開始しており、工学部6学科(当時)すべてで認定されていた影響は大きかったかと思います。JABEEは2002年に工学部1学科が認定され、2012年までに全学科が認定されました。このJABEEが「学修成果の可視化」の原点につながっています。
 私たちは学生に「何を教えたのか」ではなく、学生が「何を学び、どういうことができるようになったのか」についてJABEEを通して、学内で認識をもつことができました。「私たちはこういう教育をします」と宣言し、実際に学生がどうなったのかを見守れるようなシステムでなければならない。それに合致したのが「学修成果の可視化」でした。

工学×感性デザイン×地域の融合でさらなる強みを生む
 今年、工学部の5学科を「工学科」とし、機械工学コース、電気電子通信工学コース、システム情報工学コース、生命環境科学コース、建築・土木工学コースを設置しました。これまでは各学科が“縦割り”でしたが、1つの物が1つの分野ででき上がっているものではありません。課題を解決するためには複数の分野の人が力を集約させます。電気や土木など、専門的なことを深く重ねていくことも大事なことですが、さまざまな知識を幅広く得るために垣根を取り、分野横断的に学ぶカリキュラムにしています。
 また、工学部と感性デザイン学部の融合教育も行っています。工学は「モノづくり」で、感性はその付加価値を創出する「コトづくり」の学部。工学部の場合、ユーザーの視点が欠ける場合があります。人間が使うときにどうあればいいのか。そういうことを理解できなければ、工学を一生懸命学んでも意味が薄くなるでしょう。逆に、デザインはモノの材質、質感、厚さ、長さといったものを踏まえることも前提となります。感性デザイン学部は、これからはモノづくりだけでなく、「思いを形にする」を実現できる学部を作ろうというところからスタートした背景があります。つまり、「モノづくり」の工学部と「コトづくり」の感性デザイン学部が一体化することは、ユーザーの生活を豊かにするために必要な領域であり、この2つがタッグを組むことは強みになる。本学は両学部の融合した教育をすることでさらに有為な人材を育て、社会に送り出したいと考えています。
 ここ八戸は歴史・文化も含め、漁業や水産業、観光と多くの資源があります。人と人のつながり、モノとモノのつながり、そして、人とモノのつながり。さまざまな「つながり」によって、新しい価値を見出すことができます。地域の特性を使い、その地域に住む人間同士のつながりがあるから新しいものが生まれる。要するに、次の展開を生み出すための1つの仲間としての「地域」です。八戸工業大学はその地域の振興のハブでもありたいと思っています。

加速する時代で「幸せ」に生きる力を身につける
 本学の学生は問題発見力、課題発見力、問題解決能力、リーダーシップ力が他大学より秀でているというデータがあります。感性デザイン学部で盛んなフィールドワークや工学部の実験により、教員とコミュニケーションをとることで大きく成長しているのではないかと思います。
 また、本学には「修学支援担任制度」があり、私が2020年4月に学長に就任してから教職員・スタッフには「学生の顔と名前が一致した教育」を勧めています。私は本学に勤めて36年になりますが、電気工学の教員をしていたとき、学生の人数が多い時は1学科4学年で600人いました。その時代に学生の顔と名前、出身地を一致させ、講義への出欠も把握していました。学生一人ひとりの就職の希望も把握しておくことで、誰がどういう企業が向いているか、進路指導もできるわけです。学生の顔と名前を一致しておくということは教育の原点ではないかと考えています。
 デジタル化やIT化が加速し、就業構造や産業構造が変わってきています。数年後には今、もっている情報は通用しないかもしれません。そうなったとしても、びくともしない学生を育てていきたいと思っています。幅広い知識と応用力を兼ね備え、自分たちがハッピーに生きていく力を身につける。学生には文系や理系といった言葉に縛られず、「おや?」と思ったことに対しては全力で学び、さまざまなことに興味をもって取り組んでほしいと願っています。


坂本禎智氏

【Profile】

坂本禎智(さかもと・よしのり)氏

青森県出身。1981年東北大学工学部電気工学科卒業、1986年東北大学院工学研究科博士後期課程を修了。工学博士。1986年より八戸工業大学の講師を務め、同大学感性デザイン学部長を経て、2020年より学長就任。地域の活動として、「下北・むつ市経済産業会議委員」「八戸市美術館運営協議会会長」などを歴任。

【八戸工業大学(スタディサプリ進路)】
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