跡見学園女子大学 学長 小仲信孝氏

「自律し自立した女性」を育成するために
現代にふさわしいキャリア教育に力を注ぐ。

「自律し自立した女性」になるため、自分に向き合う4年間
 本学の歴史は、1875年(明治8年)に創立者・跡見花蹊(あとみかけい)が「跡見学校」を開校したことから始まります。「女子に教育はいらない」という男尊女卑的な考え方が支配的な時代に、私立の女子教育機関を設立した花蹊の英断は、時代に先駆ける画期的なものでした。女性がどのような社会的存在になれるかを考え、また、自らも自立した女性として学校を起こし、教育に身を捧げた花蹊の志は、「自律し自立した女性」の育成という跡見学園女子大学の教育理念の根幹へとつながっていきます。
 跡見学校ができてからの150年間で、社会は大きく変化しました。明治期の女性の役割は、いわゆる良妻賢母として男性をサポートし、より良い家庭を作ることでした。しかし現代では価値観は多様化し、女性も家庭の外、社会に進出することが普通になっています。現代の「自律し自立した女性」となるためには、社会でポジションを獲得し、自己実現と社会貢献を両立する存在であることが求められています。
 現代の「自律し自立した女性」とはいかなるものか。大学での4年間は自分と向き合いながら、自己理解を深め、5年後、10年後の将来像をキャリアデザインするための貴重な時間だと考えています。我々教員には、そうした学生たちを全力でサポートするとともに、常に時代に合った教育を模索し、改革を続ける責務があることを、肝に銘じていきたいと思っています。

1年次からキャリア教育を組み込む、カリキュラム改変を準備
 学生たちが「自分と向き合う」という課題に一番シビアに直面するのは、就職活動でしょう。昔、私が跡見学園短期大学の教員だったころ、短期大学の就職は「大手金融業界や有名な上場企業への就職者が多くて、素晴らしい」と言われていました。しかし、本当に「銀行に就職したから」「上場企業に入れたから」それで素晴らしい就職なのでしょうか? 女子の就職先や職種が限られていたころには、その考え方で良かったのかもしれません。でも現代は、女性が選択できる職種は広がっています。以前は男性の仕事と思われていた職種に進出する女性もいれば、海外を舞台に活躍する女性も数多く存在しています。だから学生たちには、「女性はこの仕事に向いていない」「女性だから、このぐらいの企業に就職すればよいだろう」といった固定観念を捨て、周囲がどう言おうが自分が納得できる就職をしてほしいと思っています。自分には何ができるのか、何ができないのか、何がしたいのか。突き詰めて考えて、納得できる選択をしてほしい、そして自分の選択に責任をもってほしい。今より一歩でいいから背伸びして、将来を決定してほしいと願っています。
 本学では就職課を中心に、一歩背伸びする就職活動を支援する制度が整っています。学内で就職セミナーを多く実施し、各学生のセミナー参加状況やその後の活動状況についての情報を就職課とゼミの担当教員で共有し、きめ細かなサポートを行っています。
 ただ、それだけではなく、就職活動が本格化する前の段階からキャリアデザインに対する意識づけを行った方が、より良い結果が出るのではないか。多くの学生を見てそう感じた私は、学長に就任した2022年の4月から、キャリア教育の充実を目指しています。現在は、1年次からキャリア教育を行い、一歩背伸びした就職活動を行う下地を作るカリキュラム改変を準備中です。

開学150年に向けて。学生と時代のニーズに応える改革を
 跡見学園は2025年に開学150年を迎えます。それに伴い「ATOMI PLAN2025」という中期計画を策定しました。「豊かな教養と高い人格を持ち、時代の要請に応える女性を育成し、もって社会へ貢献する」というミッションを掲げ、より一層の教育の質的向上と教育環境の充実に取り組んでいきます。その一例が先に挙げたキャリア教育の充実です。そのほかにもさまざまな課題に取り組んでいこうと思っていますが、その時に重視するのが、学生のニーズと時代のニーズです。
 例えば外国語教育。グローバル化が進むなかでその重要性が増していくのは当然ですが、そうした時代のニーズに応えるだけではなく、学生のニーズも大切にしたいと思っています。「英語を使った仕事がしたい」と語学学習をまっすぐ将来に結びつけて考える学生もいれば、外国語をツールとして異文化を知りたい、その異文化体験を通して自分を対象化したい、と考える学生もいます。一律な外国語教育ではなく、それぞれの目的に応じた学びを提供できるよう、カリキュラムを見直していきます。

地域と、高校と。連携を大切にしながら進んでいく
 若いころに異文化に触れ、さまざまな価値観を知ることは有意義ですが、外国語を学ぶことや海外研修に行くことだけが、異文化体験ではないと、私は考えます。例えば、地域の方々との交流。さまざまな年代、経歴、価値観、文化的背景をもつ人々との交流は、得がたい異文化体験と言えます。本学では、観光コミュニティ学部を中心に、地域連携活動に力を入れています。文京キャンパスがある東京都文京区は、積極的に大学との連携活動に取り組んでくださるという恵まれた条件も重なり、コミュニティバス内で流す映像を制作したり、地元の産業を広報する活動に取り組んだり、地元の七夕祭に参加したりするなど、多くの実績があります。学生にとっては楽しみながら社会参加できる貴重な体験であると同時に、多様な価値観に柔軟に対応できる人材になるための実践的な訓練の場ともなっています。
 地域連携やPBL(課題解決型学習)は、多くの高校でも取り入れられています。学びは一貫性が大切ですので、大学との間に切断があってはいけないと考えています。より良い教育効果を発揮できるよう、高校との連携活動を推進していく必要があると強く感じています。高校の先生方におかれましても、日頃の教育活動のなかで感じておられる課題を私どもにご教示いただければ幸いです。
 多くの高校生が本学を選び、本学で学び、この進路を選んだことが納得できるよう、今後とも教員一同努力を続けていきます。


小仲信孝氏

【Profile】

小仲信孝(こなか・のぶたか)氏

跡見学園女子大学学長。跡見学園女子大学文学部長/跡見学園女子大学文学部教授/跡見学園理事/
跡見学園評議員

【跡見学園女子大学(スタディサプリ進路)】
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