常葉大学・常葉大学短期大学部 学長 江藤秀一氏
「主役は学生プロジェクト」が奏功し
学生が主体となって考え、行動していくことができる人材に
困難にうち克ち、より高きを目指して学び続ける人材育成を目指す
戦後すぐの1946年に開学した静岡女子高等学院が常葉大学のはじまりです。歴史学者であった創立者の木宮泰彦が「戦後の復興には教育が何よりも重要で、ことに女子教育を発展させるべきである」との信念の下、わずか238名の生徒からスタートしました。
創立者は新制中学を創設する際に、万葉集にある「橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木」という聖武天皇の御製に因んで校名を「常葉」と定め、橘、つまり静岡の名産のみかんの木に霜が降りても青々とした葉を茂らせるように、「堅固な意思と健康な体をもって、いかなる困難にもうち克ち、より高きを目指して学び続ける人間」を理想の姿としました。本学の建学の精神の「より高きを目指して~Learning for Life~」には、このような深い想いが込められているのです。
「できないことなんてない」を合言葉に「MIRAI TOKOHA」を掲出
本学では今年度から「MIRAI TOKOHA」を旗印として、さまざまな取組を行っています。200名余りからスタートした本学は、今や8000人規模の学生が集う大樹となりましたが、その大きさに満足することなく、「未来に向かって走り続ける」「未知との出会いに心をときめかせる」といった未来志向を推進します。「MIRAI TOKOHA推進プロジェクトチーム」を結成し、“Beyond the Limits”、“できないことなんてない”を合言葉として、教職員や学生にもこの方針を浸透させています。このヴィジョンが実現すれば、たとえ本学が第一志望ではない学生がいたとしても、充実した学生生活を送り、満足して卒業できるのではないかと考えています。実際、卒業時アンケートの学生生活満足度については、これまでも高得点を得ております。
「主役は学生プロジェクト」によって、自ら考える人材育成へ
学生生活への満足度という点では、「主役は学生プロジェクト」というものを5年ほど前から展開しています。このプロジェクトでは、大学を三つ葉のクローバーに例えています。真ん中の葉っぱは学生、その両脇を教職員が支える。卒業生が恵みの雨や陽の光として空から見守り、父母等や地域といった大地に根差している…というイメージです。このプロジェクトでは、まずは学生の話に耳を傾けようと、学長や副学長などの大学執行部と学友会代表との懇談会や、学部長・学科長と学部の代表学生との懇談会を実施しています。
初めの頃は「教室の時計が止まっている」「学食の値段が高い」といった不満だけを口にしていたのですが、学生の発言がだんだん高度になっていきました。「よりよい環境で学生生活を送るために、自分たちの大学をどうしていくべきか」ということを主体的に考え、意見を出してくれるようになりました。一昨年の「Withコロナポスターグランプリ」は学友会と学生部教職員とが共同で企画し実施したもので、大学における感染症対策の好取組事例として、スポーツ庁のホームページでも紹介されています。今年度から学生が教育と学生生活に関する要望や問題点を提示し、学生と教職員が一緒に対応策を検討する「とこは未来教職学協働事業」を開始しました。こういった取組は、「予期せぬ疫病や不安定な国際情勢といった難しい状況になったときにどうしていくべきか、皆で知恵を出し合って乗り越えていく力」を必ずや与えてくれるでしょうし、これからの不透明な時代を生きていく若者には極めて重要な力となるものだと思います。
意見を聴きフィードバックすることで、学生の自主性を促進
「主役は学生プロジェクト」を推進したことで改めて実感したのは、“新しい何か”を生み出す人材を育成するには、管理教育や既存の価値観の押し付けではなく、制約をなくし、未知の物事に挑戦できる環境が必要だということです。学生からの意見を吸い上げて音沙汰なし、ではなく、できないことは理由と共に「できない」とフィードバックしてきました。すると学生の発言も前向きになってきましたし、一緒に考えようという姿勢が芽生えてきました。その例として、昨年6月に、秋の大学祭をどのような形で実施するかを大学祭実行委員会と話し合った際に、学生たちは、本学の新型コロナウイルス感染症対策のための行動指針の各レベルに合わせた企画書を作成してきました。学生の成長を目の当たりにした思いでした。また、SDGsに関する講演会を学生評議員会が主催し、この夏の省エネキャンペーンには学友会も教職員と共に取り組んでいます。さらに学友会では「NEVER STOP CHALLENGING !『私たちは、決して自分自身への挑戦をやめない』」というスローガンを掲げていますが、これも自主的に策定したものです。きっと、卒業して社会に出たとき、未熟であっても若い視点からの企画ができるような人に育っているものと期待しています。
学生のリクエストによる「とこは未来教養講座」スタート
本学では今年度後期から「とこは未来教養講座」をスタートさせます。これは学生から学びたいことをヒアリングし、そのテーマに合った教員を募り、オンラインで講座を開くというものです。今後、Society5.0や人生100年時代を生きていく若者たちのための教養教育を再構築する必要があると考えていますが、本学には10学部19学科、短大部3科の学びと350人ほどの教員がいますので、その力を結集すれば素晴らしい教養教育ができるのではないかと考えています。
また、学生主体の地域貢献活動の一つである「とこは未来塾–TU can Project」や、学生が附属の中高生の学習をサポートする「試験前お助け隊」など、学生が関わるボランティアがたくさんあります。大学がそれらを認定し、将来のキャリアに活かしていけるような社会人養成プログラムの制度が作れないか模索しています。
静岡で働きたい学生にとって魅力的な、地元企業との太いパイプ
本学では80%以上の学生が静岡県内で就職しており、静岡で働き、静岡で生きていこうと考えている人にとっては最適な環境であると自負しています。静岡女子高等学院以来の卒業生は約15万人ですが、県内の教員や保育士は常葉出身者が多く、今後は経営学部や法学部の出身者も増えていきます。ますます卒業生との強い人脈や地元企業との太いパイプが築かれ、情報がすぐに入手できる環境が強化されます。静岡県の課題の一つに若者の県外流出がありますが、「静岡で学びたい、静岡で生きていきたい」と思っている高校生の皆さんにいかに魅力を感じてもらえるような大学を作っていくか、地域の皆様のお力をお借りしながら進めていきたいと考えています。
【Profile】
江藤秀一(えとう・ひでいち)氏
1977年、明治学院大学大学院文学研究科修士課程修了。常葉中学・高等学校教諭、常葉学園短期大学英文科、武蔵野美術大学造形学部、筑波大学現代語現代文化学系を経て、2016年、常葉大学外国語学部特任教授、筑波大学名誉教授。博士(文学)、専門はイギリス文学・文化。2017年から常葉大学学長、2021年から常葉大学短期大学部学長を兼任、2022年からは法学部特任教授。