武蔵大学 学長 高橋徳行氏

2022年、国際教養学部を開設。
100年ぶれない理想をベースに、改革を続ける。

100年前に掲げた「建学の三理想」を、今に引き継ぐ
 武蔵大学が開設したのは、学制改革のなされた戦後、1949年のことです。しかしその前身となる旧制武蔵高等学校が開校したのは1922年、今から100年も昔のこととなります。明治末から昭和初期にかけて財界で活躍した根津嘉一郎が社会貢献の目的で設立した旧制武蔵高等学校は、日本初の私立七年制の高等学校です。本学では、旧制武蔵高等学校が開校時に掲げた「建学の三理想」を今も大切に引き継いでいます。

建学の三理想
1.東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物
2.世界に雄飛するにたえる人物
3.自ら調べ自ら考える力ある人物

 日本という国は、世界に向けて開かれている期間と閉じられている期間を繰り返しながら、今の姿になりました。開かれている期間には世界文明を取り入れ、科学などが発展する。閉じられている期間には文明的には世界に後れを取ることになりますが、日本独自の文化が発展していく。私はその繰り返しが日本という国の一つの特徴を作り出していると思います。その特徴を理解し、独自の立場を維持しながら、他国の歴史的背景や特徴も考慮したうえでグローバルに活躍できる人物を育成する、というのが三理想の1と2だと、私は考えます。そのためには、正解が一つではない、時代によって正解が変化する世界を把握するために、自ら調べ、考える必要があります。
 入学式ではこのように自分なりに咀嚼した三理想を、新入生に語りかけることにしています。

パラレル・ディグリー・プログラムの発展形として、国際教養学部が誕生
 今でも語り継がれている旧制武蔵高等学校時代のエピソードがいくつかあります。例えば二代目校長の山川健次郎は、衛生状態がよくない時代だったので自ら給食施設を見て回ったり、入院した生徒を病院に見舞いに行ったりと、一貫して生徒の立場に立つ教員だったと言われています。こうした学生一人ひとりに目配りする姿勢が、本学の特長である「ゼミの武蔵」の背景にあるのではないかと思っています。
 このように伝統を大切にする一面がある一方で、改革のスピーディーさも本学の特長です。
 本学では中期計画に則り、グローバル化を進めてきました。その象徴となったのが、2015年度から始めたロンドン大学とのパラレル・ディグリー・プログラムです。日本にいながらロンドン大学のプログラムを武蔵大学で受講でき、武蔵大学とロンドン大学の2つの学位が取得可能なプログラム。当時、私は経済学部長として立ち上げに携わっていました。まだ3、4年次のプログラムを教える教員が固まりきっていない状態だったので、常任理事会に提案する際、反対されるのではないかと思っていました。しかし理事長からすぐにGoサインが出て、プログラムはスタート。走りながら考えるような状態でしたが、プログラムはどんどん充実したものとなっていきました。
 経済学部の学生を対象としてスタートしたパラレル・ディグリー・プログラムですが、プログラムが育ってきたことで、一学部だけのなかのプログラムではもったいないと思うようになりました。その良さを学内外に伝え、より多くの学生に受講してもらうには独立した学部にした方がよいという判断のもと、2022年度に誕生したのが国際教養学部です。経済経営学専攻(EM専攻)と人文学部の国際プログラムを引き継いだグローバルスタディーズ専攻(GS専攻)の2つの専攻があり、EM専攻の学生は全員、パラレル・ディグリー・プログラムに挑戦することができます。
 2015年にプログラムが誕生し、2022年にはそれをベースにした新学部が設立される。かなりスピーディーな動きだと思います。学部を超えて教員間で丁寧な話し合いが重ねられた結果なのですが、こうした教員間の密な連携も本校ならではの良さだと思っています。

学部の垣根を越えた専門知の結集を目指す、リベラルアーツ&サイエンス教育センター
 近年、文理融合ということがよく言われますが、文理だけではなく、例えば同じ文系のなかでも経済と文学ではかなり違った学問です。そして現代は一つの課題に対して、一つの専門知識で解決する時代ではなくなってきています。もしかしたら、文系の複数の専門知で解決できるかもしれないし、そこに理系の知恵が入るとより良い解決法が見つかるかもしれない。これからの時代に必要とされるのは、総合知・専門知・他者と協働する力・実践力をバランスよく身につけ、身近な場所での知的探究と実践にたゆまず取り組み、時宜を得て世界に雄飛し、人的交流、組織的・地域的・地球的な課題の解決に貢献しうるグローバルリーダーです。
 そうした人材を育てるために設置されたのが、リベラルアーツ&サイエンス教育センターです。同センターは副専攻の運営と「情報とコミュニケーション」「歴史と文化」「現代社会」「自然と環境」「心と体」「ライフマネジメントとキャリアデザイン」の6分野で編成された総合科目の企画立案と、運営などに携わっています。センターと各学部の教員が協力しながら展開する授業もあります。リベラルアーツ&サイエンス教育センターを通して、他学部・他学科の基礎的なことを学ぶことができる機会を担保していきたいです。また、全学部生を対象として、武蔵大学がもっている専門知を束ね合わせて一つの課題に取り組む機会をゼミという形で提供していきたいです。自分とは違った分野を学ぶ学生との対話から刺激を受け、そして時にはいろいろな葛藤やストレスも生まれ、それを乗り越えて友情も生まれていく。そうした濃い人間関係のなかでこそ、分野を超えた総合知が生まれますし、学生時代にそうした体験ができることは、人間的な成長につながっていきます。
 今後、大学設備のより一層の充実を図っていく計画もあります。都心に近く緑豊かな環境のなか、学生には多くの体験を積み、成長していってもらいたい。そのための改革をたゆまず進めていく所存です。



高橋徳行氏

【Profile】

高橋徳行(たかはし・のりゆき)氏

慶應義塾大学経済学部卒、米国バブソン大学経営大学院修了。国民生活金融公庫総合研究所主席研究員を経て、2003年 武蔵大学経済学部経営学科教授。2015年 武蔵大学経済学部長、2017年副学長、2022年より現職。

【武蔵大学(スタディサプリ進路)】

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