千葉科学大学 学長 東 祥三氏
一人ひとりの若人がもつ能力を最大限に引き出し、
技術者として、社会人として、貢献できる人材を送り出す。
3学部連携により、危機管理のスペシャリストを育成
旅客機を武器に変え、世界貿易センターに突っ込んでいく。この光景に世界中の人々が目を疑い、今、何が起きているのか瞬時に理解することさえできなかったアメリカ同時多発テロ。2001年9月11日に起きたこの事件により危機管理の重要性を痛感し、危機管理に対処できる人材の育成が急務であると2004年4月、危機管理学部を擁した千葉科学大学を開学しました。
大学開学時には危機管理学部のみならず、薬という別の角度から人の命を助けるという意味において通底している薬学部を同時に設置。さらに、2014年4月には、第3の学部として患者に寄り添い、その人らしく生きていくことを支えていける看護専門職を育成する看護学部を開設しました。
千葉科学大学の大きな特長は、危機管理を必要とする医療分野へとその範囲を広げつつ、3学部が連携し、深く関わり合いながらそれぞれの分野の危機管理のスペシャリストを育成することです。危機管理学部・薬学部・看護学部が連携して講義を実施し、多職種と協働できる幅広い見識をもった危機管理意識の高い人材の育成を目指します。これは危機管理学部のある本学ならではの、ほかではあまり見られないメリットです。
また、千葉科学大学は日本の大学の中でも数少ない、「危機管理」の学士を取得できる大学です。その意味においても、4年間で千葉科学大学だから身につく特殊な技術を習得していただくと同時に、社会においてコミュニケーションできる社会人を育成することを実践目標とし、そこに向かって教職員が一丸となって、学生一人ひとりをフォローしていきます。
偏差値よりも、もっと大切なものがあると考えます
「一人ひとりの学生の能力を引き出し、社会に貢献できる人材を育成する」。よく耳にすることばですが、果たして、これを可能にする教育体制は整っているのでしょうか。一人ひとりの若人がもつ能力を最大限に発揮させるということであれば、本来、100人いれば100通りのカリキュラムがあって当然でしょう。しかし、詰め込み教育が主流の今の日本には、残念ながらそんな制度や環境は存在しません。つまり、「一人ひとりの能力を最大限に発揮させる」には、論理矛盾が起きているのです。
また、偏差値が高ければ社会に通用するという偏差値教育も、この詰め込み教育の弊害といえるのではないでしょうか。答えが一つしかない質問に対して、きっちり答えられる人が頭が良いとか、偏差値が高い、つまり、優秀であるといわれてきました。それは、確かに能力の一部であることを否定しません。しかし、社会には正解のない課題ばかりです。その課題に対して自分なりの正解を導き出していける人材こそが、社会に通用する人材、社会に貢献できる人材であり、優秀な人材なのではないでしょうか。こうした人材を育成するのが大学の役割だと考えます。その基礎となるのが、中学や高校であり、大学はそれぞれの学生の思いや志、やる気などを開花させる場所でなければなりません。
千葉科学大学は、偏差値は重視しません。それよりも、キャンパスに居場所を見つけ、自分自身のやりたいことを見いだし、追究し得る人になってもらいたい。入学のきっかけはどんなことでもいいのです。皆さんが自分自身の生きる目標を見つけ、自分が自分であると確信を深められるような環境を提供していきます。
学びのキーワードは「ノンテクニカルスキル」
どこの大学でも危機管理に関する学びは技術や知識であり、すべて過去のことしか教えることができません。実際、未来のことについては、誰も予測することができないのです。危機管理の世界は、「自分たちでは、きちんと管理することができない」という意識をもつことが重要です。
例えば、過去の地震については勉強できますが、いざ地震が起きたときにはどう対応するのか。その地震が過去に起きたことのない規模であったり、エネルギーを有するものであれば、過去に獲得した知識や経験で8割は対応できるかもしれませんが、残りの2割は対応できません。個々人のもっている「ノンテクニカルスキル」(例えば、臨機応変能力、想像力、決断力、行動力等)といわれる、講義では体系的に教えることのできないこの2割の部分の教育が、まさに、千葉科学大学が取り組もうとしているところです。講義を理解することだけはできても、体得することはできません。未来視点で常に仮説をもって自分で動き、実践的に種々の問題に対応することで理解していくことを目指します。
必要なことは、失敗を恐れずチャレンジすること
起きてしまった問題を、解決できるかどうか。解決する能力のない人は、どこの世界においても有能な人には成り得ません。有能な人になるためには、失敗を恐れず、挑戦すること。もちろん、同じ失敗を繰り返すのは学習能力に欠けています。しかし、いろいろなことにチャレンジして失敗するのであれば、それはすべてが素晴らしい経験という自分の能力になるはずです。自発的に、自分自身をどのように開花させていくか、そんなところに刺激をもてる人になってほしいと期待しています。
何を学びたいのか、それを見つけられる環境に
「大学で何を学べばいいのか目標が見つからない」。そんな学生に対しては、何が学びたいのかを見つけられるように、教職員が手助けをしてあげられる大学でありたい。そしてやりたいことを見いだしてあげれば、「一人ひとりがもっている能力を最大限に発揮させる」という建学の理念を達成することができると考えます。
千葉科学大学で自分のやりたいことを見いだし、それを開花させた卒業生は、一般企業就職はもちろんのこと、最前線で戦う消防士や警察官、あるいは自衛官として活躍しています。中には、危機管理学部保健医療学科で臨床工学技士を目指していた学生が方向転換を希望、在学中に自分の本当にやりたいことを見つけて臨床工学技士以外の道に変更し、卒業後3年で、就職先の医療機器メーカーで移動式のレントゲンを開発するという快挙を成し遂げた学生もいます。また、薬学部の卒業生には、医療機関やドラッグストアで、単に薬剤師として仕事をするだけではなく、訪問薬剤師として患者のもとを訪れて、適切な薬物療法を行うために自ら考え、行動している薬剤師もいます。看護学部の卒業生は、もちろん大学病院をはじめ、いろいろな医療機関で患者さんに寄り添う、文字通りの看護師としてがんばっています。
【Profile】
東 祥三(あずま・しょうぞう)氏
国際経済学修士。創価大学大学院 経済学研究科 国際経済学専攻博士課程 単位取得後満期退学。元国際連合難民高等弁務官事務所職員、元衆議院議員。千葉科学大学危機管理学部 危機管理学科教授を経て、2022年4月千葉科学大学学長就任。
専門分野:外交・安全保障、国際関係論、国家危機管理、危機管理の素養、非技術的能力