学校法人イーエスピー学園 理事 村本英之氏

時代の変化に合わせて進化する音楽・エンタメ業界。
「個」を磨き、感動を創造できる人材の育成に力を注ぐ

「ギターを作る学校」が業界の声に応えながら発展
 学校法人イーエスピー学園(以下ESP学園) は、ギターメーカー(株)ESPがバックアップし設立したギタークラフトマン養成を目的とする「日本ギター製作学院」が前身です。開校時より音楽・エンタメ業界との繋がりが深く「ギタリストやヴォーカリストも育成してはどうか」といった業界からの要望に応える形で次々と学科・コースが増えていきました。音響、照明などのスタッフに関わる学科も同様に現場からの声によって誕生しています。そのような流れからカリキュラム一つとっても学校独自で作成しているわけではなく、業界からのアドバイスや提案を受けながら一緒に作成することによって、常に業界の要望に応えられる人材育成に繋がっていると考えています。

めまぐるしく進化する音楽・エンタメ業界
 テクノロジーの進歩により、サブスクリプションの音楽配信やLIVEのストリーミング配信などが当たり前になり、音楽・エンタメ業界の門戸はますます広がってきています。その影響もあってか、求められる人材も大きく変わってきたと感じています。
 例えばスタッフ職では、音楽制作、音響、照明、マネジメントなど、目指す業種によって受け皿となる企業があり、それぞれに「職人」を求める傾向が強かったのですが、これからは業種を飛び越えて対応できるマルチな人材が求められると思いますので、幅広く深く多くの知識、技術を吸収する必要があります。もう「盗んで覚える」時代ではありませんので、如何に時間をかけずにそのような人材を育成していくのか、という方向にシフトしている様子もうかがえます。業界内で積極的に技術講習会、勉強会などを開催していることも時代が変わった一つの証明だと思っています。

働く環境の価値観が変わる過渡期
 コンサートや音楽制作の現場は、時間が不規則で超過労働のイメージがあるかと思います。実際、そういった環境が未だにあることも事実ですが、それは少しずつ変化してきています。仕込みから本番、撤収作業まで数日間にわたるような大型のコンサートや舞台はシフト制で対応していますし、音楽制作において時間無制限のようなレコーディング現場も聞くことはほとんどなくなりました。対策はさまざまですが音楽・エンタメの才能や熱意よりも、何よりも体力勝負というのはそもそもナンセンスです。また、男性大多数の現場から、男性女性を特に意識しない現場が当たり前になったことも、この業界の大きな変化だと感じています。
 ただ、環境が良くなっても、働きやすくなっても、実際に現場に出てみると厳しくて退職してしまうことは変わらずよくあることです。いくら働き方改革が進んでも、教育制度が見直されても、音楽・エンタメ業界で仕事を続けていくことは、簡単なことではありません。「なんとなく音楽が好きだから」「なんとなく楽しそうだから」という表面的な気持ちだけでは成り立たない世界です。目指す方向が多様化している業界だからこそ、学校で何を学んで、この業界で何をやっていきたいのか、ビジョンを明確にしっかりもっていないと、そして本当に音楽・エンタメが好きだという気持ちをもっていないと、今の時代は続けていくのは難しいと感じています。

求められる人物像の多様化
 音楽・エンタメ業界への就職に関しては知識、技術を問うような採用試験を行う企業はほとんどありませんでした。インターンシップやアルバイト期間を設けて採用を決める場合もありますが、ほとんどの企業では面接試験を一番に重んじて合否を決めてきたと思います。特にコミュニケーション能力や挨拶を重んじる業界だということもあり、そのような能力をもっている学生がスタートラインに立ちやすい傾向にありましたが、近年はそのような資質よりも才能にフォーカスしていきたいというお話を聞くことが増えてきました。
 スタッフ系学科の就職事情よりもアーティスト系の学科に関わる話ですが、演者であればステージに立ちたい、目立ちたいのが当たり前だと思っていたところ、ステージに立ちたくない、目立ちたくないが演奏能力が非常に高い、非常にいい曲を作れる、いいアレンジができるといったような新ジャンルの才能が台頭してきました。その才能が特出すべきものであれば、コミュニケーション能力が低くても、挨拶ができなくても、何かのきっかけで世に出ることは珍しくなくなってきました。実際、現在プロとして活躍しているアーティストにも、正体を明かさず、ステージにも立たず、作品を発表し、人気を博す方が多数いらっしゃいます。そういった意味でも、業界から、世の中から求められる人材の幅は非常に広くなっていると感じています。

それぞれがもつ「個」を磨き、輝かせる精神
 ESP学園の特長として、「個」を大切にするカルチャーが随所に感じられると思います。母体となるギターメーカー(株)ESPも、ミュージシャンそれぞれが求めるオーダーメイドのギターを、1本1本個人に合わせて提供することを得意としているので、その精神が息づいているのだと思います。授業を少人数制で行っているのもそのような理由からです。授業外でもデビューサポートセクションやキャリアサポートセクションを設置し、個別対応で学生一人ひとりに向き合いながら、卒業後を見据えて「個」を磨いていきます。ただ、近年の学生の傾向として、内向的な学生が増えたような印象があり、学生の「個」を象徴する想いや情熱と向き合うことが難しくなってきました。内に秘めたものを引き出すことも教職員に求められる能力ではありますが、そのような変化に適応していくのは中々大変なことで非常に苦悩しているところです。それでも「個」を尊重するために教職員同士で何度も打ち合わせを繰り返し、日々学生と向き合っています。

ハリウッド校から受け継ぐグローバルな環境づくり
 ESP学園はハリウッドにも姉妹校があります。そこに私が初めて訪れた時のこと、肌の色も目の色も違う学生が一つの教室の中に当たり前にいて、一緒に音楽を学んでいる景色を見て大きなショックを受けました。当時、ESP学園ではまだ留学生を受け入れていなかったので、日本人の学生しかおりませんでした。帰国してから姉妹校の様子を手当たり次第に周りの教職員に話し、留学生の受け入れを意識するようになっていきました。
 さまざまな国の学生が集まり勉強する環境を当たり前にしたかったですし、グローバルを意識するというよりも、違う文化が集うことが当たり前になって、国境を感じない精神を育んでほしいという想いがありました。
 また、日本の学生がハリウッド校に研修に訪れることもあります。授業内容は日本の方が丁寧に指導して細かいところまで行き届いていると思いますが、エンタメとしての魅せ方、考え方、スケール感には強い衝撃を受けると思います。それを日本に持ち帰り、自身の糧にしてもらえると嬉しいです。
 また、今後はハリウッドだけでなく、韓国への研修もスタートします。今や世界中から支持されている韓国の音楽シーンを肌で感じることで、参加した学生の視野がさらに広がればいいなと思います。


柔軟な考えをもち、業界で生き抜くたくましい人材を育てたい
 音楽・エンタメ業界は大きな変化の渦中にいます。求められる人物像は分野によって大きく広がっているので、学生自身の能力を発揮できる場所がそれぞれに見つかればとよいと感じる反面、今は情報量が多すぎて、どこに向かえばいいのか決められないという学生の話も多く聞くようになりました。
 ESP学園では音楽・エンタメ業界の入り口に立たせることはもちろん、その後もずっと続けられる人材を育てていきたいと思っています。就職することやデビューすることだけではなく、好きなことで生活するにはどんな方法があるのか、自分で考えて行動できるようなたくましい人材を育てたい。それが前例のない新しい道であっても、しっかり寄り添って一緒に考えていきたいと思います。

【Profile】
学校法人 イーエスピー学園 理事
専門学校ミュージシャンズ・インスティテュート東京 校長
専門学校ESPエンタテインメント福岡 校長
村本 英之(むらもと・ひでゆき)氏

サウンドエンジニアとしてのキャリアを経て、同分野の講師としてESPエンタテインメント東京に勤務。
後に企画広報、教務、事務局等の業務に就き、2005年に大阪校、2018年に福岡校の設置を担当。

【専門学校ミュージシャンズ・インスティテュート東京(スタディサプリ進路)】
【ESPエンタテインメント福岡(スタディサプリ進路)】

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