専門学校トップインタビュー 音響芸術専門学校 理事長/学校長 見上陽一郎氏
復活・進化するエンターテインメント業界の未来を担う
真のプロフェッショナルを育成する
本校は、1973年、オーディオ専門教育機関「録音技術専門学院」として開校しました。1976年には、東京・三田から御成門への移転と同時に、学校名を「音響芸術専門学院」に改称、教育内容も音響分野全般に広げました。1983年、専修学校認定を受け、「音響技術専門学校」に変更。2007年「音響芸術専門学校」に改称した後、現在は、3年制の音響テクニカル・アーティスト科、2年制の録音・PA技術科、ライブ音響・コンサートスタッフ科、ミュージカル&ステージスタッフ科、音響監督・ビジュアルアート制作科、夜間総合学科の6科を設置しています。
リスタートにより、新たな人材が求められるエンターテインメント業界
世界中を席捲した新型コロナウイルスによって、エンターテインメントは甚大な被害を受けました。ようやくパンデミックが収束し、その反動も伴って、今ではコロナ禍以前よりも活況を呈するようになってきました。特に日本のライブエンターテインメントは2023年5月を機に一斉に動き始めたため、そのビジネスモデルを支える人材不足が大きな課題となっています。
コロナ禍であらゆる業界が影響を受けましたが、エンターテインメント業界でも規模にかかわらずライブそのものが開催できないなど、大きな打撃を受けました。そのため、現在のようにニーズが大幅に高まっているなかでも、「エンターテインメント業界はパンデミックに弱く不安定」とのイメージをもち、敬遠される方が少なくありません。特にこれからエンターテインメント業界を目指そうとする学生の保護者や先生方にとって、「不安定な業界は勧めたくない」という傾向がどうしてもあるようです。
良い方向への進化に伴い、多様な人材が活躍できる
また、今でもエンターテインメント業界には「仕事がきつい、忙しすぎる」というネガティブな印象も根強く残っているように感じます。私はこれらの“誤解”をぜひ解きたいと強く思っています。
そもそもエンターテインメントは、人を楽しませるハッピーなもの。感動や楽しみを創り出し、多くの人に影響を与え、大きなやりがいを感じられるものが、エンターテインメント業界の仕事には詰まっています。また体力的な性差も以前ほどありません。「現場では力仕事が多いので女性はきついのでは」と思われがちですが、重いものはクレーンで吊り、キャスターを付けて運ぶのが当たり前です。
さらに、活躍する人材も画一化されたイメージから脱却しつつあります。コミュニケーション力はこの業界の仕事にも求められるスキルの一つですが、それだけではなく基本的な知識や技術をしっかりともち、自分の強みや個性を発揮して着実に現場で活躍している人材も数多くいます。
ダイバーシティ(多様性)の広がりが、これからのキーワードです。本校では、入学前や在学中に学生の性別を尋ねることはありません。それはつまり、性差に関係なく「自分が選んだ仕事を、長くやりがいをもって続けることができる人材」や「フェアネス感覚を身につけ、リーダーとしてエンターテインメント業界を牽引できる人材」を育てることが、本校の責務だと考えているからです。
学生に寄り添い、手間をかけてプロを育てる教育
開校以降、本校では少人数教育を徹底して行っています。学生一人ひとりの顔と名前、個性をしっかりと把握できる環境で、基礎力を着実に養い、個を伸ばし、自己実現力を育んでいます。また専門知識やスキルに関しては、木に例えると「根や幹」の部分を大切にした教育を行っています。
エンターテインメント業界はさまざまな機器に囲まれて仕事をする機会が多いのですが、現場で使用する機器は日々進化しているので、言い換えれば、今学校で最新技術について学んだ知識も、社会に出て5年も経てば古いものになります。そんな現状に対処するため、この先どんなに機器や技術が進化してもそれに対応できる柔軟性や、ベースとなるものをしっかりと扱える“ものの原理”への理解力を養う、いわば“真のプロフェッショナルを育てる教育”を大切にしています。
教育方針として、入学後はフラットな状態から学びをスタートさせることも重視しています。業務の専門性が高いので、入学前からある程度の専門知識をもっていないと授業についていけないのではないかと心配する学生も多いのですが、まったく同じ状態からのスタートなので、安心して授業に入ることができます。専門学校は職業学校なので、大学のように同じ学力レベルの学生が集まっているわけではありません。スタート地点は同様にし、その後は個々のレベルに合わせてきめ細かい教育を行うことで、手先の技術だけではない能力を引き出し、伸ばしていくことが本校の強みです。
「好き」を学び、仕事にできることの喜びは
エンターテインメント業界の向上につながる
原則として、人は仕事をして生きていかなくてはいけません。仕事とは、「社会貢献・経済的自立・やりがい」が3本柱だと私は考えています。この3つのバランスを取ることは容易ではないものの、バランスがずっと崩れたままでは仕事は長続きしないでしょう。若いうちからバランスを考えて仕事を選び、仕事と向き合うことは難しいかもしれませんが、バランスの大切さを常に意識することで、おのずと自分の仕事のやり方が見えてきます。
幸運なことに、エンターテインメント業界を目指す人の心には「この業界が好き」「この仕事をしてみたい」という強い意欲や憧れが根付いていると感じています。好きという気持ちは必ずプラスに働きます。だからこそこうした気持ちを大切に、仕事や学校を選んでほしいと願っています。
本校には、「やっぱり好きなことを仕事にしたい」との想いを抱き、大学や仕事を辞めて入学してくる学生もたくさんいます。夜間部にはダブルスクール、あるいは仕事をしながら通う学生も多く在籍しています。その想いは、人を動かす原動力になっていると私は信じています。
オープンキャンパスの個別相談などで進路を迷っている人に対し、私は「エンターテインメント業界を目指すなら大学より専門学校に来なさい」とは言いません。その代わりに、本校に在籍する学生や社会に出た先輩たちの例についての話をたくさんします。高校を出てそのまま専門学校に進むのも、大学生や社会人になってから専門学校に入り直すのも、人それぞれの道です。人生は長いのですから、どんなルートを経てエンターテインメント業界に進んでも決して遠回りではなく、むしろ遠回りしたからこそ見えてくるものもあるでしょう。「好き」をベースにやりたいことを見つけ、たくさんのハッピーを世間に広げていくことは、未来のエンターテインメント業界をより素晴らしいものにできるだけでなく、エンターテインメント業界の認識の向上にもつながると思っています。
【Profile】
見上陽一郎(みかみ よういちろう)氏高校時代より音楽活動・自主映画制作に打ち込む。早稲田大学教育学部卒業後はロンドンに渡り、ロンドン大学で教育社会学を学ぶかたわら、英国映画協会(BFI)の会員として、映画研究活動や研究発表を行う。帰国後、瀬戸大橋記念博覧会NTT館上映コンテンツなどの制作を担当したのち本校へ。東京都専修学校各種学校協会・運営委員。本校に日本支部の事務局がある、音響技術者のための世界的会員制組織「AES(Audio Engineering Society)」の役員も務める。