大阪文化服装学院 理事長 豊田晃敏氏

グローバルな活躍を支える国際感覚とデジタルスキル。
ファッションを通して、たった一つの個性を磨く

技術重視からデザイナー育成への変化
 大阪文化服装学院は、女性に縫製の技術を教えるために設立された「ミクニ洋裁学校」が始まりです。当時は、服のパターンや縫製の技術などを高いレベルで教えることに特化した学校でしたが、ヨーロッパなどから新しいデザインが取り入れられるようになってからは、デザイナーを育てる学校へと変化していきました。
縫製の技術を極めていくことも大切ではありますが、制作工程の上流には、必ずデザインがあります。本校がファッション業界で認められていくには、デザイナーとして活躍し、ブランドをもてる学生を輩出していくことが必要であると考え、現在に至ります。

高いファッションスキルにビジネスの視点を融合
 私が本校に入職する前の2019年に卒業ファッションショーを見学した際、そのクオリティーの高さにとても驚きました。もともとアパレルも扱う総合通販企業に勤めていたため、プロのショーもたくさん見てきましたが、学生がここまでできるのかとスキルと感度に目を奪われました。
 既に高いレベルのクリエイションに、更に独自性や価値を付加するカリキュラム、企業背景を活かした産学連携、加えてそれらを導入・推進するための企画・提案・実行までの道筋を整備することなど、私がこれまで培ってきたビジネスの経験をフルに生かすことで唯一無二の学校にできる、必ず貢献できる、と考え入職しました。
 学校といえど、本校は公立校ではないので、経営視点が非常に重要です。私が入職してからは経営に直結するKPIの重要性やスタッフ系の業務改善など、積極的に発言してきました。
 学校特有の旧態依然とした雰囲気の中にいると新しいことにチャレンジしていくことの難易度も高いと思いますが、だからこそ外から来た自分が変えていくんだという意識で動いています。ありがたいことに、本校にはロジカルな考え方ができる管理職が多く在籍しているので、苦労はありながらも同じ方向を見て高い意識でチャレンジすることができています。
 理事長として大切にしているのは、本校を卒業する学生のレベルと評価を確実に担保していくこと。そして本校の学生なら安心して採用できるという企業からの信頼性の基本をしっかりと作っていくこと。これがすべての教育においての上位概念・軸となる考えです。

グローバルで認められるファッションスクールを確立したい
 日本のファッション業界は同質化が問題になるほど国内マーケットイン志向が強く、非常にガラパゴスなマーケットです。残念ながら欧米で名の通った大手アパレルやブランドはほぼ皆無。加えて少子化の影響もあり、ダウントレンドといわれています。しかしグローバルに見ればファッションは成長軌道にある産業です。本校が世界に出て活躍できるデザイナーを輩出することを目標にしているのもそのような背景があります。
 例えば、今ファッション業界では東南アジアやアフリカの伸び率が圧倒的ですが、世界のマーケットを見ながら、どこを見て準備をしていくかは学生に常に問いかけ意識をもたせています。また、海外ではポートフォリオを作り、複数体からなるコレクションで自分の世界観を表現しますが、本校の学生もこれにならい、コレクションを作ります。実はそういった取り組みをしている学校は少なく、コレクションを作れることは本校の強みです。
 学生はもちろんですが、教える側のスキルアップのために教員のヨーロッパ留学も行っています。留学先は、20年以上にわたり提携関係を結んでいるイタリアの名門ファッションスクール「POLIMODA(ポリモーダ)」です。昨年は若手デザイン教員が修士号を取得して帰国しています。そのほかにも数人しか出られない卒業ショーに選ばれ自分の作品を出展したり、首席で卒業した教員もいます。一過性のデザインではなく「メソッド」を身につけ、常に新しい発想を体系的に生み出すスキルを学び、教育に還元する。高い志とスキルを持った教員が学生を指導する世界が実現できています。
 その成果として、今年のファッションコンテストではグランプリが続出しています。バンタン / パルコ主催の「アジアファッションコレクション」では、グランプリ3名中2名が本校の学生でした。また「YKKファスニングアワード」でも約7800点の作品の中から、本校の学生がグランプリを受賞しました。まさに先述した教員らが指導していた学生が結果を出すという好循環が生まれています。さらにグローバルで認められるため、国内だけではなく海外のコレクションへ出展したり、国際連携も頻繁に行っています。まずは我々の高いレベルを海外でも知ってもらうこと。それを目標としています。

インキュベーションとデジタル推進
 グローバル戦略のほかに、卒業生のインキュベーション(独立や創業)を学校が出資してサポートする取り組みにも注力を始めています。近年では2人の卒業生が衣装のリース業を立ち上げ、そのサポートを行いました。新しい服を作るとなると制作費用、仕入れ費用、在庫が残ればロスになってしまいますが、これまで制作してきた作品をリースすれば、利益にもなり、SDGsにもつながる。在校生ブランドもまとめてプロモーションするための東京ショールームとWEBサイトを立ち上げ、事業化しました。リースといっても個人向けではなくタレント向けで、プロのスタイリストからの引き合いが多く、今非常に注目を集めています。参加する学生も、自分の憧れのタレントに着てもらえるチャンスが生まれるので、それがモチベーションにつながっているようです。
このように、学生自ら面白い企画を考え、それに対して学校が出資する。湯水のように…とはいきませんが、学生が活躍することで学校の価値も上げていけるので、今後も続けたい取り組みです。
 そしてもう一つはデジタル推進です。
 大前提、学生に本校で学びたいと思ってもらうためには、未来の市場が魅力的であることが重要です。そういった意味で、デジタル領域との融合が不可欠だと考えています。
 例えば海外では、学生が自分の作品をデジタル化したものが数億円で購入されたケースがありました。とても夢がありますよね。学生がデザインしたものを簡易的にデジタル化できるようになれば、世界中の人に自分のデザインや作品を見てもらうことができ、うまくいけば収益につながる可能性が広がります。社会に出ると、どうしてもマーケットインに寄っていき、リアルなものを作るようになりがちですが、学生たちが在学中に作る衣装は、唯一無二で面白いデザインの宝庫。それらは、ものすごいポテンシャルを秘めている、と思っています。その部分のニーズは必ずあるし、マッチングする仕組み・体制を作っていきたい、と考えています。
 ただし、現状日本の学校法人は営利活動自体を良しとしない風潮があります。一方で、海外のファッション学校では当たり前の収益源にもなっている。そういった根本的なところから変えていきたい、変わってほしいと思っています。

世界に一歩踏み出す勇気を。
たった一つの個性を磨いてほしい

 学生には、世界を見て、世界に一歩踏み出してほしいと思っています。時代の移り変わりとともに、日本でもダイバーシティ、個の力を求める時代になりました。個を磨くための努力をする場として、本校が選ばれたらこんなに嬉しいことはありません。チャレンジできる土台はあるので、ぜひ飛び込んできてほしいです。

【Profile】
学校法人 ミクニ学園 大阪文化服装学院 理事長 豊田晃敏(とよた あきとし)氏
1971年生まれ。 米グリネル大学卒業後、㈱千趣会・㈱ジャパネットたかたで部長職を歴任。 2021年大阪文化服装学院 入職。2023年理事長に就任。

【大阪文化服装学院(スタディサプリ進路)】



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