千葉明徳短期大学 学長 由田 新氏
「人が好き」「自分の気づきを学びにつなげる」「違いを面白がる」
〜「体験から学ぶ」ことを通して、問い続ける姿勢をもった保育者を育成する
本学は、1970年に幼稚園教諭の育成を目的に設立されました。1972年からは保育士資格も取得可能となり、以降、幼稚園教諭・保育士(以下保育者と記述)として活躍する多くの人材を輩出。50年以上にわたって保育者養成教育に特化し、保育の分野で地域に貢献してきた歴史ある短大です。千葉県内に6つ系列園をもち、地域の保育現場との信頼関係も厚いことが本学の大きな特徴です。
短期大学だからこそ可能な「学び直し」
近年、周知のとおり、短期大学への進学者数は減少しています。保育者を目指すのであれば、免許・資格取得が可能な大学や専門学校に進学しようと考えている方が多いのではないでしょうか。まず、この場を借りて、短期大学で、そして本学で学ぶことのメリットをお伝えしたいと思います。
短期大学で学ぶ大きなメリットに早く現場に出られることが挙げられます。経済的な負担も小さくなり、2年間でコンパクトに学んだうえで早く現場に出て働けます。これは、専門学校も同様ですが、短大である本学では、保育の学びだけでなく、一般教養も大切にしています。保育という狭い世界の中だけに目を向けるのではなく、保育者として社会に目を向け、視野を広げることはとても重要です。後述しますが、保育の科目だけではなく、さまざまな科目のなかでフィールドワークを行っています。広い視野をもった懐の深い保育者になること、これは本学の学びの特色です。
また、2年間で基本的な学修をして保育の現場に出ても、わからないことはたくさんあります。さまざまな課題意識が生まれたときに、もっと学びたいという気持ちが起きます。そうなったときに、次の学びを考えても遅くない。本学には卒業生のための勉強会もありますし、大学へ編入、大学院へいくという学び方もあります。現場での課題意識をもっているだけ、むしろその方が深い学びができると思います。現に、卒業生の中には大学・大学院へ行った人もいます。疑問や課題をもったら改めて学ぶ、今はそういうことが可能な時代です。短大で学んだ後、こういう選択肢もあるのです。まずはやってみる、そして考える。まさに「体験から学ぶ」という本学らしいキャリアのつくり方ではないでしょうか。
保育は技術がすべてではない〜保育を「創造」できる保育者に
当然のこととして、保育者は、専門的な技術をもっています。子どもたちのケア、読み聞かせ、遊び、歌、ピアノなど現場で働くための技術は必要です。しかし、そうした技術だけが保育者に求められるものではありません。最初はそれなりにできてしまうかもしれませんが、こういった保育技術だけをもっていても、何年やっても保育者としての成長は限定的だと思います。
保育者には、単に技術だけではなく、保育について問い続ける力が大切です。そして、世の中に目を向けるような一般教養も大切だと考えます。幅広い問題意識をもち続け、子どもたちの興味を受け止め、子どもたちとともに保育をつくっていく保育者を育てていきたい。それが「保育創造学科」という名称にも込められた本学ならではの理念なのです。
1年次の春から保育の現場に出る 〜「体験から学ぶ」ことの強み
本学では、「体験から学ぶ」学修スタイルを重視しています。体験教育を実施するには、体験の「場」が欠かせませんが、本学には6つの系列園をはじめ、連携をとっている園がいくつもあります。実は入学前から高校生にも系列園での保育体験を用意していて、本学での学びがそこから既に始まっているのです。
保育現場での実習は、通常、座学で基礎的な知識を学んだうえで行うことが多いのですが、本学では入学後すぐの5月から通年で保育の現場に入ります。当然ながらこの時期の学生たちは保育についてあまりわかっていない状態です。しかし、あえて早い段階から現場での体験を行います。体験したことはそのままにはせず、気づきや学んだことをレポートにまとめ、仲間とディスカッションしながら「振り返り」を行います。「実習→振り返り→新たな課題→実習」という循環のなかで、学びを深めていきます。そして、現場で見聞きしたことが、発達心理学、保育原論といった理論的な科目での内容とつながると、より深い理解が生まれます。体験を通した気づきから学びを始めることは本学の大きな特色です。
少人数だから可能な学びの数々
「体験から学ぶ」ことは、保育分野に限らず、教養科目である「現代社会論」という授業でも行われます。相撲部屋やコンビニエンスストアの本社を訪ねたり、街の探索をしたりさまざまなコースが用意されています。また、「わくわく体験研修」では、さまざまな地域に出かけ、自然や文化、社会に触れます。これらは一見、保育とは関わりがないように見えますが、知らない世界を知ることの楽しさ・面白さは、子どもも大人も同じ。日々いろいろなことに興味をもち、それらを知り、吸収しながら成長していく子どもたちと接する仕事をするためには、保育者にもいろいろなことを楽しめる感性が必要だと考えています。
そういう点からいうと、学生たちの「やってみたい」も大切にしなくてはいけません。本学は1学年100名以下の小規模校であり、学生たちの「やってみたい」にすぐ応えることができます。学長も含め専任教員はもちろん、助手、事務スタッフも含め全職員が学生たちのサポートを行っています。
今日の保育では、子どもたちの主体性を大切にし、育てていくことが求められています。そのためには型にはまった保育をするのではなく、保育者には子どもの興味・関心から保育を構想する力が必要です。そして、子どもの気持ちに寄り添い、常に自分の保育を振り返り、問い続ける姿勢が欠かせません。本学の教育は即戦力を育てる教育とは多少異なるかもしれませんが、保育者として本質となる部分を育て、長く「保育」という分野にやりがいと誇りをもって関わっていける人材をこれからも輩出していきたいと思います。
【Profile】
千葉明徳短期大学 学長 由田 新(よしだ あらた)氏1988年早稲田大学教育学部教育学科教育学専攻卒業、1993年東京学芸大学大学院学校教育専攻幼児教育学講座修了(修士(教育学))。宝仙学園短期大学保育学科を経て、2008年千葉明徳短期大学保育創造学科教授。2021年から千葉明徳短期大学学長。専門は幼児教育学(保育環境、遊び援助、保育者養成)。学校法人由田学園理事長、NPO法人四街道プレーパークどんぐりの森理事。