渋谷ファッション&アート専門学校 学校長 志賀健二郎氏

ファッションからスタートし、アート、建築分野へと学びを広げる。
土台となるのは、基礎の徹底とクリエイション感覚を育む教育

 本校の歴史は1932年(昭和7年)に遡ります。欧米でデザインと洋裁を学んだ、デザイナーの田中千代が、洋裁グループ(皐月会)を創設。その後1957年に東京田中千代服飾学園が開設されました。創設者の田中千代は、日本で初めてプロモデルでのファッションショーを開催したデザイナーで、日本におけるデザイン、服飾教育のパイオニアとしても知られています。
 2018年には、文化専門課程(アート)を新設し、渋谷ファッション&アート専門学校に学校名を変更。さらに、2025年4月に「建築クリエイター科」の設置を予定しています。

職業人を育てるために、基礎の徹底を重視
 専門学校の使命は、専門的な技術・知識をもつ職業人を育成し、社会に送り出すことだと考えています。大学では、幅広く学びながら、在籍する学部学科の専門性も身につける教育機関ですが、専門学校の場合は専門に特化した学びが中心です。しかし、専門に特化した分野だけを学ぶのではなく、専門分野を介しながら、さまざまなことが学べるのもメリットではないかと考えています。
 そのような学びのなかで、本校では「確実な基礎」の取得を重視しています。先述したように、本校のルーツは、田中千代が作った洋裁グループですが、これは学校というよりも私塾のような形態だったと聞いています。「洋裁を教えてほしい」という生徒が田中の下に集まり、丁寧な指導を行ううちに、評判が口コミで広がって生徒が増え、学校という形になっていきました。本校の理念は、田中千代の言葉である「美しい花には健全な根がある」ですが、これはまさに「確実な基礎」と繋がっています。つまり、基礎があるからこそ、斬新なクリエイションや発想が生まれるのです。

新設される建築クリエイター科とは
 本校では、2025年4月に「建築クリエイター科」の設置を予定しています(認可申請中)。皆さんは、ファッションの専門学校になぜ建築分野の学科が新設されるのかと思われるかもしれません。しかし私は、ファッションも建築も、「クリエイション」の面で共通点が数多くあり、これまでの本校の理念やあり方ととても親和性が高いのではないかと考えています。
 また、新設に至る時代背景として、近い将来に訪れる深刻な“建築士不足”も挙げられます。現在、日本において建築士の資格をもっている人は、全体のおよそ7割を50代~60代が占めています。建築物を造る際には建築士の存在が不可欠なので、国土交通省も次世代を担う建築士の育成に本腰を入れ始めました。そうしたタイミングも重なり、本校が長年にわたって大切にしてきた「クリエイション」を、建築士の育成へと繋げていこうと考えたのです。

国家資格を取得することの意義
 建築士の資格は国家資格であり、「建築クリエイター科」でカリキュラムを履修することで、一級建築士や二級建築士のほか、木造建築士、一級・二級建築施工管理技士といった国家資格の受験資格を卒業時に取得することができます。
 もちろん、建築関連の国家資格を得たからといって、必ずしも建築分野で活躍できる人材になれるとは限りません。しかし、国家資格の取得を目指して学んできたことは学生にとって大きな自信と財産になり、そのうえで国家資格を得られれば将来の可能性は大きく広がります。そのため、私たちも学生に対して「本校で学び、受験資格を得たうえで、建築士の国家資格を取ることが第一歩である」ことを繰り返し伝えながら指導していきたいと考えています。
 また、資格取得への学びに加え、「現場では周りから愛される人材になってほしい」と思っています。なぜなら建築の仕事は、決して一人でできるものではないからです。建築士が設計したものを形にする各分野のプロフェッショナル(職人)がいて、双方の協力やコミュニケーションがあるからこそ、一つの建築物が完成します。人ときちんと接することができるというのも、社会で活躍できる大切な要素の一つと考えています。

クリエイションという本校の土台が新たな建築教育を生み出す可能性
 一方で、クリエイションに欠かせない感性もしっかりと養っていきたいと考えています。本校は、時代の流れやその背景を敏感に感じ取る力を養う、そうした感性を磨くための刺激を与えられる学校であり続けたい。例えばSDGsという言葉は多くの人が知っていて、世の中全体がその実現に向けて動いていますが、ただ意味だけを知るのではなく、本質を知ってSDGsに活かすことは、これからの建築業界に欠かせないスキルだと思います。また、街づくりも建築に関わってくる仕事ですが、ただ建物を造り、再開発をするのではなく、そこに住む人々のことを把握し、地域の特性を知ったうえで、住みやすい街づくりとは何かを考えて進める必要があります。街づくりは単なる経済効率性を追求するだけのものではないはずです。
 本校の建築クリエイター科で学んだ学生たちがこうした考えを意識し、将来自分の活躍の場を見つけるきっかけづくりができる学科になるよう、私たちは尽力したいと思っています。そのため、授業を受け持つ講師陣も、研究者ではなく現場経験の豊富な方を起用し、現場の話をどんどん学生たちに伝え、実践的な学びを行うことで、次世代を担う職業人の育成を目指していきます。

専門学校を永続させていくことへの責務
 改めて、「クリエイション」がベースにあることが、本校の強みです。建築士を育てる学校は首都圏にも数多くあり、建築分野に特化した伝統校もあります。本校は建築分野においては後発で、今回新たな参入となりますが、元来がファッション校であり、アートも学べ、学びのすべてにおいて「クリエイション」が根付いているからこそ、これまでにない新たな建築分野の学びを提供できるのではないかと考えています。
 長い歴史があり、優秀な職業人をたくさん輩出してきた学校だからこそ、創業者、卒業生、未来を担う人材のためにも、学校として存続していかなくてはいけません。優秀な職業人を育て、社会に送り出していくことは、専門学校としての責務であることを改めて認識しながら、時代の変化を先読みした改革も同時に進め、社会に貢献できる学校づくりに邁進していきます。

【Profile】
渋谷ファッション&アート専門学校 学校長 志賀 健二郎(しが けんじろう)氏
1950年、兵庫県生まれ。京都大学文学部卒業後は小田急百貨店に入社し、文化催事、宣伝、販売促進などを担当。小田急美術館館長も兼務。2006~2011年には川崎市市民ミュージアム館長を務める。2016年、専門学校田中千代ファッションカレッジ校長に就任(2018年に渋谷ファッション&アート専門学校に改称)。著書に『百貨店の展覧会―昭和のみせもの1945-1988』(筑摩書房)、『小田急百貨店の展覧会―新宿西口の戦後50年』(筑摩書房)がある。

【渋谷ファッション&アート専門学校(スタディサプリ進路)】



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