フェリシアこども短期大学 学長 百瀬 志麻氏

今の保育現場・大学教育現場の当たり前を見直し、
本当の意味での多様性を受容できる保育者を育成

 本学では1968年より幼児教育者の養成を行っています。2017年には、「幼児教育学科」を「国際こども教育学科」に名称変更し、同時に「専攻科 国際こども教育専攻」(1年課程)を新設しました。現在「国際こども教育学科」には、「こども教育コース」と「国際こども教育コース」の2つのコースがあり、国内だけでなく海外の乳幼児教育についても実践的に学んでいます。

短期大学で学ぶことの意義を校舎に反映
 幼児教育を本学で学ぶメリットは次のようなものがあると考えています。一つは「設備」です。本学には豊富な絵本や専門書を揃えた図書館があります。常に司書が在籍し、幼児教育に欠かすことのできない絵本の選定など、いつでも本についてのアドバイスを受けることができます。
 また、日本を代表する建築家の一人、隈研吾氏による木の温もりが感じられる開放的な校舎、附属園の子どもたちと日常的に触れ合うことができる畑や竹林・林などの自然環境、食育の観点から学生たちに無料で手作りの食事を提供している学生食堂など、学ぶだけでなく充実した学生生活を送るために必要な設備を整えることで、学生の学ぶ意欲を環境面からサポートしています。

留学を経験し、保育者として海外で働く卒業生が徐々に増加
 本学の「国際こども教育学科」は、グローバル化が進み、多様性が求められる保育の現場に必要な視野やスキルを養うことができる学科です。設置から7年が経ち、ここ数年は、毎年のようにカナダの保育園で働く卒業生を輩出しています。
 現地で保育の仕事に就くことができているのは、「国際こども教育学科」で2年間学んだあとに「専攻科」へ進み、カナダで3ヵ月間ホームステイをしながら、語学学校と協定校に通って、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のアシスタント保育士資格を取得しているからです。
 海外で働くための資格を取得することは簡単なことではありませんが、実際に現地で働く卒業生たちの話を聞く機会を設けて、働き方や給与、現地での生活、やりがいなど、留学前にリアルな声を学生に届けます。英語が得意ではない学生にとっても、それが「自分にもできるかもしれない」という希望や意欲に繋がっています。本学としても、実際にカナダ・オフィスを作り、現地在住の教員がカナダでの生活と学びを支えています。

自立心を養うための「仕掛け」
 学生たちの目標や意欲をサポートする上で、本学では「自立」を第一に考えています。「国際こども教育コース」において1・2年次のニュージーランド研修を、「専攻科」でカナダ研修を実施していますが、海外研修は通常、外部の代理店に手配を任せ、決められたスケジュールで行動するものがほとんど。ですが、本学では大まかなスケジュールだけを決め、飛行機の予約なども学生自らが行います。もちろん、事前のガイダンスを行ったうえで、学生たちの自立心を促しています。
 また、自分でできる手配を行うことは、費用の節約にもなります。海外研修は費用負担が大きく、円安の今はさらに厳しい状況です。「海外で学びたい」という学生ができるだけコストを抑えて参加できるよう、現地校と直接やりとりしながら、可能な範囲で海外研修を実施しています。

既存の認識にとらわれない広い視点を養う
 他方で「国際こども教育学科」は、海外で働きたい学生だけにフォーカスした学科ではありません。この学科を設置した背景には、「グローバル化や多様化する保育の現場で、子どもたちにも保護者にもしっかりと寄り添える人材を育てたい」という私自身の強い想いがあります。
 日本の保育の現場は、今も従来の日本のスタイル、つまり「日本の保育現場の当たり前」が根強く残っています。それをすべて否定するわけではないのですが、現状として入園に必要な書類の煩雑さや、入園時に準備するものなどの多さは、保護者にとって大きな負担となっています。ましてや日本で暮らす外国人にとって、園生活においても当惑する場面が多々あるでしょう。「日本では当たり前だから仕方がない」ではなく、制度や習慣に戸惑う人たちの立場から物事を考え、対応できる力が、これから保育者には必要になってきます。日本在住の外国人が増え、保育の現場にも外国籍の子どもたちが通う今、保育や幼児教育に携わる者こそが、広い視野を持ち、従来の「当たり前」を超えた制度や環境づくりを考えていかなくてはならないと考えています。

お互いの多様性を認め合うことが自らの糧になる
 在園する子どもたちが多様であるならば、園の人的環境としての保育者も多様であることで、多文化共生社会に一歩近づくのではないかと考えます。そこで、養成校として多様な学生を受け入れてきました。例えば、不登校の経験のある学生や日本語が母国語ではない外国籍の学生、留学生も受け入れ、授業によっては一対一のチュータリングを行っています。さらに男性保育士も増えている現状から、2022年には男女共学化を実現し、男子学生も積極的に受け入れています。
 さまざまな目標やバックグラウンドを持つ学生たちが、一緒にコミュニケーションを取りながら学ぶことで、お互いの多様性を認め合うことになり、それが将来的に必ず自分の糧となって、これからの保育の現場に欠かせないスキルとなるでしょう。
 もちろん保育の現場で働くためには資格が必要なので、在学中は資格取得に向けて各自がしっかりと学ぶ必要があります。入学すれば確実に資格が取れ、希望通りに就職もできるという100%の約束はできませんが、それを叶えるためのサポート体制を本学では十分に整えています。

根底にあるのは「愛の教育」と、私学ならではの柔軟性
 本学の建学の精神に「愛の教育」がありますが、これは、学生、教員、子ども、保育士、保育の現場すべてに「愛情」を連鎖させることで、子どもを育むあたたかい環境を創り出したいという想いが込められています。小規模な学校なので、学生一人ひとりに目が行き届き、学生も教員に相談しやすい環境が整っています。それをベースに、私学ならではの柔軟性を活かして、個々の状況に応じたきめ細かいサポートができることも本学の特長です。例えば、在学中に資格が取得できなかった学生が、退学することなく、留年や科目等履修制度によってもう一度チャンスがつかめるよう、その学費は1年分ではなく必要な単位分のみ納入してもらいます。また、在学中に妊娠出産する学生も、休学・復学がしやすい学内規程に変え、何年かかっても免許資格を取得して卒業してほしいという想いで、これまで何人も送り出してきました。本人の意思を尊重し、決して置き去りにしない教育。これこそが本学が大切にし続けてきた「愛の教育」であり、これからも変わることなく続けてまいります。



【Profile】
フェリシアこども短期大学 学長 百瀬 志麻(ももせ しま)氏
一橋大学社会学部卒、前職は一般企業のマーケティング。日本世代間交流学会所属。学生も子どもも遊びながら学べる校舎を目指し、隈研吾氏デザインの新校舎構想に中核的に参画。近年は小規模保育園(2園)開設や、附属幼稚園の認定こども園への移行を進め、保育者養成の学園として環境の充実を図る。附属幼稚園の園長補佐も兼務し、短期大学の約5.5万㎡の敷地を活用して園児の自然遊び体験を増やし、学生の授業でも園児との自然遊びを取り入れている。4児の母。

【フェリシアこども短期大学(スタディサプリ進路)】



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