楠木先生の、キャリアガイダンス編集部 留学日記#5
「つながりを広げるために移動した」
リクルートでの勤務も半年が過ぎた。
“目に見える”大きな変化といえば 、体重が10kg増えたことだ。
・在宅勤務という働き方に慣れ、運動する時間が少なくなったから?
・通勤途中にあるおいしそうな看板の誘惑に勝てないから?
・禁煙して、味覚に変化が生じたから?
体重増加の要因はいくつも思い浮かぶが、一番の理由は、「大好きな」授業がないことだと思われる。
普段のI(いつでも)C(チョークと)T(トーク)を駆使した授業は、自分が思っている以上にエネルギーを消費していたようだ!
(来年4月初旬には、声を枯らしながら授業している未来が見える)
体重の変化が一つのきっかけとなり、最近は「移動する」 ことを大切にしている。
リクルートでは、勤務拠点は決まっているが、全国各地にサテライトオフィスがある。自宅以外でも、いろいろな場所で自由に働くことができる。作業環境を変えるために別オフィスのフリースペースで仕事したり、民間のコワーキングスペースを活用したりと、今までとは大きく異なる働き方を経験している。取材や勉強会等で移動する機会も増えてきた。
移動する機会が増えると、今まで疎遠だった人との出会いが多くなった。通勤時にたまたま出会った先生や教え子、20年以上ぶりに立ち寄った定食屋の店主などなど。普段あまり意識していなかったが、自分の生活環境(コンフォートゾーン)から外れたからこそ、強化されたつながりであった。それぞれの懐かしい思い出話の中にも、新しい気づきや発見があり、とても良い刺激をもらった。
先日、編集部内の会議で、「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」 という言葉を知った。アメリカの社会学者マーク・グラノヴェッターが発表した仮説で、新規性の高い価値ある情報は、自分の家族や友人、職場の同僚といった社会的つながりが強い人々(強い紐帯)からよりも、知り合いの知り合いなど、社会的つながりが弱い人々(弱い紐帯)からもたらされる可能性が高いというものである。
この言葉を知って以降、自分を支えてくれる弱い紐帯のことを考える時間が多くなった。
たしかに、何かを変えようとする際、知り合いの知り合いが大きな力となってくれることが多々ある。普段時間を共有していないからこそ、異なる視点に気づき、視座を高めてくれる。これからの学校においても、探究授業の充実や開かれた学校づくりを推進していくうえで、「弱い紐帯」の存在はますます重要になってくると感じている。
一方で、ヒトとのつながり(特に弱い紐帯)はしっかりと広げておかないと、機能しないと痛感している。コロナ以前にはあった「飲みニケーション」というのも弱い紐帯を広げるための一つの手段だったのかもしれない。ただ生活様式の変化やSNS等の普及により、コミュニケーションの在り方が変わる中で、弱いつながりを広げる(=つなげる)ための主体的な行動が必要になりそうだ。
私も最近、意識的につながりを広げるために行動(移動)してみた。
・遠くに行く際には、疎遠だった知り合いに連絡し、会いに行くことにした。(突然連絡して申し訳ありません!)
・教え子との食事会や結婚式に参加した。(迷惑だったかも…)
・Map機能を利用せず、たまには遠回りをしてみた。(タイパ重視という風潮に最近疲れてきた。)
たしかに実際に移動するのは、トラブルも多く大変だ。
私は在宅(リモート)以外の時は、静岡からオフィスのある東京まで新幹線で通勤しているが、先日は台風の影響で、約7時間も新幹線にいることになった。在宅勤務ならぬ、新幹線内での勤務も良い思い出だ。
別日には帰宅時に在来線が不通となり、帰る手段がなく、途方に暮れたときもあった。
ただ、それ以上に、久々の再会や新しい出会いから多くの気づきがあり、つながりが広がっていくのを実感している。ヒトとのつながりは財産だ。「在宅勤務」という働き方に憧れていた過去の自分が、今では一見無駄に思える往復5時間の通勤時間 を、つながりという財産を築く時間として楽しめているのが、この半年での内面的な変化かもしれない。
【Profile】
楠木 翔(くすきしょう) ●静岡県公立高等学校教諭。専門は理科(化学)。
2024年4月より民間企業等長期派遣研修生としてキャリアガイダンス編集部に出向中。
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