白梅学園大学・白梅学園短期大学 学長・教授 小玉重夫氏

DX・GXが目指す社会の変革に対応し、
2026年4月「デジタル・グリーン子ども学科(仮称・設置構想中)」を開設予定

建学の精神の源流にあるのは「自由と教養を重んじる教育」
 白梅学園の歴史は1942(昭和17)年に社会教育の先駆者・教育者である小松謙助が、財団法人社会教育協会の事業の一環として、現在の東京都文京区に東京家庭学園を設立したことに始まります。
 初代学園長・穂積重遠(渋沢栄一の孫)のもと、自由と教養を重んじる教育が始まり、これが後に、白梅学園の建学の精神「ヒューマニズム」の源流となります。
 1953(昭和28)年には社会教育協会から独立して、学校法人白梅学園を設立。1957(昭和32)年には白梅学園短期大学を設立し、以来、保育者養成校として保育士、幼稚園教諭を輩出してきました。さらに2005(平成17)年には白梅学園大学を設立し、2022(令和4)年に創立80周年を迎えました。
 長年、本学が継承してきた理念は、「人間の尊厳を重んじることとともに、その発達のはじめの段階である幼児期・児童期を大切にする」という考え方です。

「子ども」に関する研究を通して人間そのものを見つめる
 白梅学園大学(共学)では「子ども学部」を改組し、既存の「子ども学科」「子ども心理学科」「家族・地域支援学科」の3学科に「教育学科」を新たに加え、2024年度から4学科体制となりました。
 乳幼児から子どもの成長や発達について理解を深める「子ども学科」、心理学を基礎に乳幼児期から成人期に至る長い期間の発達について理解を深める「子ども心理学科」。これらの学科では主に、保育士資格や幼稚園教諭1種免許状の取得を目指します。「家族・地域支援学科」では、子どもを取り巻く環境と社会福祉について理解を深め、社会福祉士国家資格の取得を目指します。また、「教育学科」では学校教育の課題について理解を深め、小学校教諭・中学校教諭(国語)・特別支援学校教諭の1種免許状の取得を目指します。
 いずれの学科においても、中心となるのは「子ども学」です。そして、本学で学ぶ「子ども学」は、子どもに関するさまざまな研究を通じて、人間そのものを見つめる学問です。白梅学園大学が擁する子ども学研究所では、子どもを取り巻く保育・教育・心理・福祉をはじめとする諸問題に対して多角的な調査研究が行われています。学術誌『子ども学』を刊行するなど日本の子ども学研究の拠点として研究を先導する役割を果たしており、その成果は学部の学びへと反映されています。また、併設の白梅学園短期大学(共学)「保育科」は大学の教育・研究の進展と足並みを揃え、保育者養成のトップランナーとしての地位を築いています。

「大学・高専機能強化支援事業」に採択:社会の変革に応えてヒューマニズムの精神をアップデート
 AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)により社会が大きく変化していくなかで、白梅学園大学はこのたび、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構の「大学・高専機能強化支援事業」に採択されました。これは、デジタル・グリーン等の成長分野をけん引する高度専門人材の育成に向けて、意欲ある大学等が成長分野への学部改組等の改革に踏み切れるよう、政府が継続的な支援を行うものです。これを受けて本学では、DXとGX(グリーントランスフォーメーション)の2つを軸にした新しい学科への改組を構想しています。
 DXとGXを軸にした本格的な学科改組は2026年度以降に実施する予定ですが、先行して2025年度から既存の「家族・地域支援学科」にある程度の新カリキュラムを盛り込み、2026年度以降正式にカリキュラムとして提供できるように、現在、整備を進めています。
 それが、子ども学部に開設する予定の「デジタル・グリーン子ども学科(仮称・2026年4月開設予定構想中)」です。
 学科改組の背景には、時代の変化とともにヒューマニズムの理念が変わってきたことが挙げられます。家庭の貧困や社会的排除の問題に光を当てながら、平等で多様な社会をつくっていこうという本学のヒューマニズムの精神は、今、2つの点でアップデートを迫られています。
 その一つが、人間と非人間(AIやデジタル空間、サイバー空間など)との関係です。人間という概念が、人間以外の存在との関係で大きく広がってきており、例えば、デジタル空間においては実際にそこに人がいなくても、人と人がコミュニケーションを取ることができるという形に変わってきています。会議がリモートで行われるなどCOVID-19がなければ、ここまで加速度的に変わることもなかったでしょう。まさにこれがDXで、ヒューマニズムの視点をもちながらDXについて考える必要があるということです。
 もう一つが、人間と自然との関係です。20世紀の社会では人間が中心となって自然に働きかけてきましたが、今では、気候変動や脱炭素化の課題が浮上するなど、自然と人間の関係を問い直すことが非常に増えています。自然環境と人間との関係についてのアップデートが一つの流れになっているのです。これがGXです。そうしたGXに対応することもヒューマニズムを考えるうえでは重要となっています。
 私たちはこうした社会の変化をポストヒューマンの時代への移行としてとらえ、そうした変化に即応するため、ポストヒューマンの視点からDXとGXを視野に入れた新しい子ども学への刷新を視野に、子ども学部の教育研究体制を整備し、「デジタル・グリーン子ども学科(仮称・2026年4月開設予定構想中)」開設へ向けて、現在申請の手続きを進めています。

子どもの探究活動をベースに、大学の研究のあり方を変える
 従来、乳幼児期にはしっかり遊び、学齢に達すると小学校で勉強を始めるという常識がありましたが、私たちはこの常識を「子ども学」を通して覆していきたいと考えています。
 近年「探究」という言葉をよく耳にしますが、人間が多くのことを、生々しく豊かに経験(探究)できるのは乳幼児期と言えます。乳児期→幼児期→小学校→中学校→高校→そして大学へと、この乳幼児期の探究をベースにして、社会のあらゆる考え方を変えていこうとしています。
 これまでの考え方は、大学の研究成果を高校→中学校→小学校→乳幼児の教育、保育へと降ろしていき、その中で教育の構想がつくられる、いわゆるツリー型といわれる構造です。そのツリー型の構造を転換して、子どもの探究をベースにして、そこから大学における研究を変革していく。つまり、乳幼児期の探究活動がその後の小学校・中学校・高校、そして大学での学びや研究を大きく規定していくものだという考え方の下に「子ども学」を考えていこうとしています。
 実際に白梅学園大学附属幼稚園では、幼稚園における子どもたちの探究活動が、小学校での学習活動にどう繋がるかを研究しています。「デジタル・グリーン子ども学科(仮称・2026年4月開設予定構想中)」への入学生には、子どもたちの好奇心や探究心が新しい学問になるという視点で研究に取り組み、さらにその研究成果が社会に繋がり、社会をつくっていくことを体験すると同時に、その過程を楽しんでほしいと考えます。

地域エコシステムの中核になれる人材を育成
 DXもGXも社会的にはまだまだ進んでおらず、そこには今なお20世紀の構造が十分に変わっていない現状があります。「デジタル・グリーン子ども学科(仮称・2026年4月開設予定構想中)」では、大学・企業・自治体と連携しながら地域エコシステムを形成し、さまざまな課題に協働で取り組むコモンズを通じてDX・GXを加速させ、地域社会を変えていくことのできるグローカル人材の育成、地域エコシステムの中核に成り得る人材の育成を目指します。
 子ども学、教育学といえば文系のイメージですが、カリキュラムには東京農工大学と連携しながら、農学などのいわゆる理系の視点を入れる予定です。むしろ文系・理系という分け方そのものを刷新していくことが、これからは大切であると考えます。そして、なぜ農学の視点が必要なのか。人間と自然の関係を根本的に見直すと考えるとき、そこには農学的視点が不可欠だからです。
 東京農工大学だけに留まらず、持続可能な社会とこれからの保育や幼児教育を結んで考える学びの場「エコカレッジぐうたら村」や、地場農産物を利用した学校給食への取組をはじめ、市民の地場農産物への関心が高い小平市、全国に社有林「三井物産の森」を保有し、森林がもつ多様な価値や機能を社会に還元している三井物産株式会社など、本学の取組に賛同していただいた自治体や企業と連携し、実践的な学びや研究に取り組んでいきます。
 就職先も当面は保育園や幼稚園、社会福祉施設などが中心となりますが、将来的には、三井物産などの一般企業も視野に入れた教育展開を予定しています。

白梅学園短期大学から大学3年次への編入制度も特長
 白梅学園大学では学科ごとに編入枠が設定されており、より質の高い専門的な学びを志望する学生は、白梅学園短期大学保育科(共学)から白梅学園大学3年次への編入が可能です。さらに学部卒業後は、白梅学園大学大学院 子ども学研究科 子ども学専攻(修士課程・博士課程)で、子ども学の研究に取り組むことができます。
 例えば、白梅学園短期大学で保育士資格と幼稚園教諭2種免許状を取得し、教育学科へ編入することで、さらに小学校教諭1種免許状の取得も可能です。このように短期大学から大学3年次へ編入できる制度は、白梅学園短期大学がもつ大きな特長だと言えます。今後、「デジタル・グリーン子ども学科(仮称・2026年4月開設予定構想中)」が開設されれば、編入学することで学びに広がりができます。
 ますます進化する情報社会においては、私たちがもっている学問に対する文系・理系のイメージと大きく異なり、文理融合のこれまでにない新しい学問のあり方へと変わっていくと考えられます。こうした状況下で自ら立ち上がり、新しい学問をつくるための研究に取り組み、社会を変えていきたいという強い意志をもった高校生に、ぜひ、白梅学園大学で学んでほしいと考えます。
*設置される学校・学部・学科等の名称・内容などは予定につき、変更される場合があります。


【Profile】
白梅学園大学・白梅学園短期大学 学長・教授 小玉重夫(こだま・しげお)氏
東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。慶應義塾大学助教授、お茶の水女子大学教授、東京大学教授を経て、2024年4月より白梅学園大学学長、白梅学園短期大学学長を併任。東京大学名誉教授、日本教育学会会長。

【白梅学園大学(スタディサプリ進路)】



TOPインタビューに戻る