地域の大学間連携による職員育成/四国地区SPOD-SDプログラム

 職員の育成という共通の課題に、四国内の全大学・短大・高専で連携して取り組む先進的な取り組みが「四国地区大学教職員能力開発ネットワーク:SPOD(Shikoku Professional and Organizational Development Network in Higher Education)」のSDプログラムである。取り組み内容について、愛媛大学教育企画室副室長の秦敬治准教授に話をうかがった。

四国の全大学・短大・高専が連携

 SPODは四国地区の33校の国公私立大学・短大・高専によって構成され、質の高い教育を提供するために4県に位置する「ネットワークコア校」を中心に加盟校が協力・連携して教職員の能力開発(FD・SD)を行うものだ(図表1)。資源を共有することで、加盟校は単独の組織ではなしえないプログラムを享受できるものであり、文部科学省の2008年度「戦略的大学連携支援事業」に採択され、活動を開始している。SPOD事務局は愛媛大学の教育企画室および教育企画課の教職員が担当しており、プログラムの講師はコア校4校を中心に四国内に派遣している。ネットワークコア校は毎月集まり、運営上の課題について協議し、議事概要や資料はホームページに掲載している。

 この大学間連携で驚いたのが、四国の高等教育機関の加盟率100%で、全加盟校が何らかの形で実質的に参加をしている点だ。加盟率100%はSPOD開始時から重視しており、これを続けていくことにかなりのエネルギーを注いでいる。開始時には愛媛大学をはじめとしたコア校の幹部や担当者らが各校に出向き、参加を求める地道な努力を行った。各加盟校のトップの理解とつながりがこの活動の活性化にとってきわめて重要であり、そのためにネットワーク総会を毎年開催し、必要に応じて各大学へも積極的に出向いている。また加盟校から出ている要望や不満は見逃さない。「プログラムが大学用で短大や高専にはなじまない」という意見があれば、出向いて行き、専用のプログラムを実施したり、プログラムを一緒に開発するなどを行っている。また「参加したいが、職員が10名程度の大学で参加は不可能だ」という意見を受けて、全加盟校に要望があれば出向いて研修を行っている。このため、年4回のSPODフォーラムや総会に全く参加しない大学は皆無である。現在は文部科学省の補助金を受けていることもあり、ネットワーク加盟校はすべてのサービスを無償で受けることができる。この補助金が切れる来年度からは大学の規模に応じた会費を徴収することを検討しているが、全機関が継続して参加する見込みであるという。


図表1 SPODの連携概要


SDプログラムの特徴

 SPOD-SDプログラムとはどのような点に特徴があるのか。そもそもあるべき職員像をどのようにとらえているのだろうか。

 これからの職員に求められることは「専門性の裏付けのある仕事をするということだ」という。秦先生らが学長・理事長に行ったアンケートによると、教職協働の成立要件として、56.9%の学長らが「職員の専門性」が重要だと答えている。ほとんどの人が異動を経験する中での「大学職員の専門性」とは何なのか。たとえば大学財務の専門家であれば教務の仕事をしていても「これは対費用効果が良くない」といった目で判断できる。教務の専門家が経理部で働く場合、「こういうところにお金を使ったら」と提案できる。このような意味での専門性を身につけ、自信を持つことが重要であるし、職員が強みを持つことで教職協働がうまく機能すると言う。

 こうしたプロの大学職員を育成し、学内外で認知させていくためには「モデル」を作っていかないといけない。しかし、従来のSDプログラムは単発ものが多く、期待に沿うものではなかった。人材育成プログラムは「体系的・継続的・段階的」でなければいけないという。プログラムを作り、それを改善していくこと、良い講師を育成していくことが自分たちで続けていくことにとって重要だという。そうすることで「継続的」が自らで続けていける「持続的」に変わるのである。だからこそ四国内にどれだけの講師陣を育てられるのかという観点でプログラム運営をしているし、職場での実践とよい形で統合した理論的な研修であることも重要だ。SPOD-SDプログラムは、図表2に示したように、大きく3つの柱から構成されている。以下、順に説明していこう。


図表2 SPOD-SDプログラムを構成する3つの柱


①スタッフ・ポートフォリオ

 3つの柱の中で、スタッフ・ポートフォリオはユニークで重要な取り組みである。実は大学は1人1人の職員のことをよくわかっておらず、彼らの強みは何で将来どのようになりたいのかをまずは把握することから始めなければならない(ステップ1)。それがわかってこそキャリア・アップをサポートし(ステップ2)、将来のキャリアにあった学習を提供する(ステップ3)ことができるのである。

 「大学が職員個人の能力やキャリア観を把握していないことが最大の問題だ。大学と職員が互いに理解し、努力のベクトルを一致させていくべきだ」という主張は非常に重要だ。筆者がかかわった東京大学 大学経営・政策研究センターが事務職員対象に行った調査でも「能力や適性が生かされた人事異動が行われている」に肯定的な回答をしたものは29.7%、「一定のキャリアモデルが示されている」ではわずか17.8%であった。これでは職員が能力を発揮できるはずはないと強い危機感をいだいたが、このプログラムはまさにこれを解決するための貴重な試みだ。

 スタッフ・ポートフォリオは職員の業績を可視化し、「何ができるのか」をエビデンスに基づいて示すものだ。具体的には、①氏名などの基本情報、職歴、③研修歴、④免許や資格、⑤発表履歴、⑥業務内容と実績、⑦今年の記録、⑧地域社会での活動、⑨未来予想図(ビジョン、ゴール)、⑩私というひと、⑪エビデンスから構成される。例えば企画が得意な職員であれば、企画書やパワーポイントの資料などをエビデンスとして掲載する。学生の面倒見が良い職員であれば、学生がくれた色紙や一緒に撮った写真などをエビデンスとして掲載したりする。仕事に関係あるかどうかは大学側が判断することなので、本人が得意なこと、書きたいことをすべて書いてもらう(伝えたくないことは記載しなくてもよい)。例えば、町内会の活動が好きな職員はこうした活動を記載し、それを見て地域貢献の部門に配置したり、行事のサポートを依頼したりすれば、大学にとっても職員にとっても有意義なことになる。

 これは管理ツールではなく、職員個人のキャリア形成とそれを組織で生かすためのもので、人材能力開発の仕組みとして位置付けられている。他大学に異動したいときに自己アピールにも使える。職員がプロとして育っていけば、職員の流動性も高まり、なおさらポートフォリオが重要になっていくという。

 このスタッフ・ポートフォリオはSPOD加盟校のなかでは愛媛大学が先行導入している。現在は管理職の作成が完了した段階で、今後は管理職がメンターとなり、全職員が作成し、人事配置や人材育成に活用し、学内活性化を図っていく。ポートフォリオで多くの業績をリストアップすることは自分の能力やキャリアを見つめるいい機会になると高く評価されているそうだ。

②キャリア・アップサポート

 このように個人の強みや将来展望がわかれば、その達成をサポートするためにメンタリングを導入し、大学等と職員個人のベクトルを近づけていくことが可能になる。そこでキャリア形成に関するアドバイスや、人事交流の紹介や斡旋を可能な大学から実施している。

 例えば、愛媛大学では長期的な視点での「職員人事・人材育成ビジョン」を作成し、職員に示している。これは適材適所と人材育成の視点に立った能力育成・キャリア開発を行うもので、愛媛大学の職員はどのように育ち、どのくらいで異動をするのかという育成ビジョンである。その内容は、新人として採用と同時に全員が学生窓口を経験し、採用後10年で3分野程度の職務を経験させる。そうすればポートフォリオが書けるようになり、どのような研修を受けさせるか、どの部署に異動させるのかを大学が判断できるようになる。40歳くらいになると、専門性を生かしてやっていきたいのか、管理業務を担っていきたいのかの判断がつくようになり、それに向けたさらなる研鑽の場を提供できるというものだ。まず手始めに新採用の職員の全員学生窓口をスタートさせることから始めているという。

 SPOD内では職員交流もキャリア・アップサポートとして掲げている。ポートフォリオがあれば職員が他大学に交流する場合にも、その人が活躍できる分野で受け入れて効果のある交流にすることが可能になる。こうしたメリットをまずは愛媛大学が示すことによって、徐々に浸透させていくことを狙っている。

③職員研修プログラム

 こうして目指すべき道が明らかになれば、そのために必要な訓練を提供することで効果のある能力開発とキャリア・アップを行うことが可能になる。

 職員研修プログラムは、「専門職養成課程」と「リーダー養成課程」の2つの課程から構成される。専門職養成課程は、レベルⅠ(初任者)、レベルⅡ(中堅職員:係長)、レベルⅢ(トップリーダー:課長)と3つのレベルに分類され、それぞれのレベルについて複数のプログラムが用意されている。例えば、レベルⅠ(初任者)であれば、職員ポートフォリオ入門、職員キャリア形成入門、ビジネスマナー入門編、自大学概論、タイムマネジメント論など計11プログラム。レベルⅡ(中堅職員)であれば、プロジェクト・イノベーション実践、メンター入門、ミーティング運営など計10プログラム。レベルⅢ(トップリーダー)であれば、人材育成論・実践論、大学政策論、メンター養成実践、高等教育経営の計4プログラムである。各プログラムについて、単位数(1単位は90分)、必修・選択科目の区分、知識・技能・態度の区分、到達目標が示されている。

 到達目標はすべて「○○することができる」という形式に統一され、非常にわかりやすいし、これを見れば、職員として必要な素養がわかるものになっている。単位数を定めてあるが、これまでの仕事のなかで既にその素養を有している場合は、上司が認め、SPODが単位認定して次のステージに進む制度もある。ベテラン職員が初任者のプログラムを受講する必要はないからだ。

 このプログラム開発は1年かけて行った。合宿形式のワークショップ(2泊3日)を計8回、30校261名が参加して練り上げた。毎回の合宿後、愛媛大学のスタッフ6名で案を練り直し、参加した職員や加盟校に再度意見を求めるという作業を8回行って、このプログラムを完成させた。企画立案を含めて3年目、SDプログラムを実践して約1年が経過したが、多くの職員がこれらのプログラムを受講してきた。単に話を聞いて終わりという研修でなく、「これができるようになった」という研修に皆が飢えていたことが高い受講率につながっているのではないかという。確かに前述の東大調査でも「所属大学主催の研修」は68.1%の職員が経験しているが、このうち「とても意味があった」と回答したのは16.1%に過ぎない。従来の研修に対する不満の内容を的確に理解し、そこを改善したプログラムを作り上げることができたのは、職員自身が時間をかけてプログラムの内容を検討し、教職協働でプログラムを開発・実施した成果といえるのではないだろうか。

 もう一つの次世代リーダー養成プログラムは、将来、大学経営を担うために必要な技能(実践力)、知識(理論)、態度を段階的に養成するものだ。募集人員は30名程度、期間は2年間(2泊3日×8回)であり、現在は国立・私立大学職員8名が1期生として学んでいる。このプログラムは原則として40歳以下の、機関長が推薦するSPOD加盟校の職員が対象で、スタッフ・ポートフォリオを作成し、受講申込み時に提出することが条件になっている。修了後はSPODのSD講師として登録する。将来はFDコースも含めて、専門職大学院化を想定した計画となっている。

 なお、以上は専任職員を対象としたものである。現状では、非正規職員の数も増え、彼らの担っている役割も専任職員とそれほど大きく変わらないものとなっている。しかしそれは専任職員の専門性が十分に育成されていないからであり、彼らの能力が向上していけば、非正規職員に任せる部分はルーティン化した業務に特化していき、マニュアルで対応できる要素が大きいという。

コア校としての国立大学の役割

 この大学間連携SDプログラムは、小規模大学にとっては自校の限られた資源だけで実施するのが難しい職員育成が可能になり、大規模な大学にとっては講師陣を派遣し、コーディネートを経験することでさらに職員の能力を向上でき、両者にとって非常によい形での連携が行われている。

 特に四国内は大きな私立大学も少なく、国立大学が果たす役割はきわめて重要だ。運営側に回れば負担も増えるが、それによる能力開発の効果も大きい。このことを学長や幹部が十分に理解し、サポートしてくれることが不可欠だという。

 またSPODの活動の基盤になっているのが愛媛大学で行ってきたSD・FD・TADの三位一体の能力開発である。その活動を教育担当理事として先導したのが柳澤康信学長であり、現学長体制のもと、さらなる発展を遂げている。SPODは四国内の全高等教育機関が参加しているが、学長や理事といった大学幹部がこまめにコミュニケーションを取っている成果は非常に大きいという。

 愛媛大学をはじめとしたコア校が、地域の職員の能力開発の先頭に立とうという姿勢はとてもよいモデルであると感じた。国立大学の法人化によって職員のキャリア形成のあり方も変化し、一定のキャリアモデルが描きにくくなっており、国立大学がこの問題に率先して取り組むインセンティブもあるように思う。実際にSPOD加盟校職員の間でもこうした取り組みを歓迎する声が大きいという。

今後の課題

 今後の課題についても尋ねてみた。自前講師の育成や、まだまだ多くのプログラム(専門分野別、設置形態別)を構築していくことなど、様々な課題があるが、最も大きいのは各校の温度差をどのように縮めていくかという問題である。あまり積極的でない機関は、このプログラムの恩恵を受けていない可能性があり、強くアプローチしていくことで解決していきたいという。人材育成の成果はすぐには見えにくいものであるが、じわじわと表れてくるだろう効果を楽しみに見守っていきたい。


(両角亜希子 東京大学大学院 教育学研究科大学経営・政策コース講師)


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