3大学統合で静岡有数の志願校に/常葉大学

 2013年4月、常葉学園は大学部門として運営してきた常葉学園大学(静岡市)・浜松大学(浜松市)・富士常葉大学(富士市)の3大学を統合。新たに法学部と健康科学部を加えた10学部19学科の総合大学、常葉大学が誕生した(図表1)。静岡駅近郊に校舎を新設し、静岡県全域に広がる3つのキャンパスと4つの校舎を持つ県内最大規模の私立大学として、幅広い学びを可能にしている。

 「教育の常葉」ブランドは、常葉学園の大学教育の歴史のはじまりであり、静岡県内の公立小学校で各校1名以上の卒業生が活躍する実績からも、かねてより県内を中心に注目されてきた。「進学ブランド力調査2013【東海エリア】」からも、常葉大学全体に対する期待の高まりが明らかにみられる。高校生が選ぶ志願度ランキングでは、全体17位(前年59位)※に大幅にランクアップしただけでなく、男子18位(同90位)、女子19位(同32位)、文系19位(同43位)、理系18位(同64位)と、いずれのカテゴリーでも20位以内に急浮上した。

 その背景には、いかなる工夫があるのだろうか。西頭德三学長にお話をうかがった。

3大学統合で静岡有数の志願校に

統合による教育理念の統一化・再構築

 常葉学園は従来、3つの大学それぞれの教育理念と教育目的の下で教育活動を展開してきたが、地域社会からすれば、「どのような教育理念に基づいてどのような人材育成を目指しているのか」が必ずしも明確ではなかったという。大学を統合することで、大学としての教育理念を統一化・再構築し、明確な教育メッセージを地域社会に伝えるとともに、「地域社会からの人的需要」「地域社会の教育的需要」「時代の変化に対応した統合大学の教育理念」といった果たすべき社会的機能を判然と打ち出している。

 常葉学園の建学の精神及びそれぞれの大学が果たしてきた役割の実績をふまえつつ、地域社会からの需要に照らし合わせ、常葉大学では、その教育理念を「知徳兼備」「未来志向」「地域貢献」という3つのキーワードに集約した。これらの教育理念に基づき、統合によって生ずるスケールメリットや、学部・学科の多様性を活かし、特色ある教育研究活動をさらに充実・発展させ、多様な学部・学科を持つ総合大学としての礎を確立し、地域社会の要請により一層応える人材の養成に努めようとしている。

協働による統合準備

 3つの小規模大学を1つにし、ブランド力を強化するといった考えは、前理事長が10年ほど前より口にしていたという。それを「18歳人口が踊り場状態のうちになすべき」と決断したのが現理事長である。

 まず、統合に向けての準備組織として、平成23年2月に「大学統合・学部新設準備機関」を立ち上げた。法人本部と大学関係者の協働によるもので、大学は教職協働を前提としていた。大学統合後の大学運営や組織などを検討し、計画を作成していくことを主な役割とし、学園理事、法人本部事務局、大学副学長、大学事務局長、大学の各課長、その他各課管理職など43名が構成メンバーとなった。その下に、上記メンバー以外の管理職、管理職以外の事務職、教員もオブザーバーとして含めた作業部会を設置し、詳細の検討を進めていった。また、事務局長以下、法人本部職員11名で構成される「大学統合事務局」では、各作業部会の調整機能と文科省への設置認可申請事務を主に担っていた。

 教員には教授会で毎回報告するなど、統合に関する様々な内容を決定していくプロセスをできるだけ広くガラス張りで開示するため、法人本部、大学関係者、理事、管理職、その他教職員からバランス良くメンバーを混成し、統合を成功へ導くために、できる限り多くの教職員が関わる組織にしたという。

 さらに、広く学内の教職員の協力を仰ぎ、準備機関での協議や作業を円滑に進めることができるよう、統合にあたって「まずは、学部をさわらない。当面は、存続を約束する」ことを大学統合事務局の責任者が各キャンパスに出向き、説明をしていった。中長期的にみれば、ある程度のリストラクチャーも必要となるが、まずは、3大学を統合することに主眼を置いたという。

図表2 常葉学園の新ロゴマーク

大学に対するブランディングの強化

 統合にむけての準備段階より着手したのは、大学に対するブランディングの強化であった。ブランドの統合イメージを強く打ち出すため、大学に対する統一したイメージ作りを積極的に推し進めている。学園の大学部門として発展してきたイメージではなく、「学園内の様々な教育機関が、大学に繋がっている」「大学が学園を牽引している」といったイメージにしたかったという。

 それは現理事長の課題意識と合致していたこともあり、予算的な支援を集中的に受けられたことが大きい。ロゴマーク、スクールカラー、タグラインを一新し、全ての広報物に積極的に利用することによって、大学に対する統一したイメージ作りに成功している。なかでも「常葉の『緑』」と「力強さや元気さを表す『赤』」を組み合わせたロゴマークは目を引く(図表2)。大学のロゴマークは静的なものが一般的だが、強いコミュニケーションパワーを持たせることで、新生・常葉大学と社会とのつながり、ひろがりを活性させ、新しい価値を作りだそうとする姿を伝えている。

入学センターの意識改革

 統合に先行して動き出したのが、入学センターである。3年前に民間企業より着任した責任者と共に、学生募集・入試関係の作業部会のメンバーが中心となり、平成24年4月に入学センターが設立された。当初より学生募集専属の担当を4名おき、高校訪問などを積極的に推し進めている。

 現在は各大学で同様の業務を担当していた20名のメンバーが集まり、広範なステークホルダーに対応している。統合前の所属大学に対する想いはそれぞれあるだろうが、エゴは捨てて、常葉大学10学部19学科の選択肢を平等に伝えるように意識を変えているという。

 意識の改革という点でいえば、入学センターでは数値目標を具体化している。総合大学にふさわしい志願者数となることをまずは目指し、統合前の3大学で4,300人程度だった志願者数に対し、常葉大学としては志願者数10,000人獲得を目標として設定した。結果、12,500人を超える志願者を初年度から集め、その目標を見事に達成している。

 また、数値目標を具体化することで、学内の教職員に対して、「隣県の総合大学とも対峙できるような大学」といった、大学が目指す姿を明確に伝えることにも一役買っているという。

受験生の進路選択の幅を広げる仕掛けづくり

 統合により、入試制度も大きく変えている。最大のポイントは「全学部統一入試」である。全10学部19学科で共通問題を使用して行い、受験生の希望する学修内容や目指す将来に合わせて、希望する複数の学部・学科を併願できるものである。大学での希望する学修や身につくスキルごとの併願パターンを入試ガイドで提示し、受験生が出願に迷うことがないように配慮もしている。

 また、併願割引制度「トコ割」などを新たに導入することで、併願による経済的な負担を軽減した。奨学金や減免の制度等の充実や見直しも行い、受験生や在学生への就学支援にも積極的に取り組んでいる。これらの工夫により、受験生の進路選択の可能性を経済的にも拡げている。

 最近では、地元の高校教員から「常葉を視野に入れれば、何かみつかる」と言われるほど、常葉大学での学びの幅に対する期待は大きくなっている。今後はそこでの教育の質に、より目が向けられるだろう。「18歳人口が安定しているうちに、大学としての『教育力』を強化し、それをアピールしていくことが必要」と学長は既に一歩先を見据えている。

地域に貢献できるリーガルマインドを持つ人材の育成

 高校生の志願度のアップには、学部の新設の影響も当然あるだろう。ただしその一つである法学部は、多くの大学で人気の低迷傾向がみられる。こうした状況で法学部を新設した理由を尋ねると、「静岡県での法学部の必要性」を学長はまず挙げた。総人口350万人を超える静岡県であるが、県内で法学部を設置する大学はこれまでなかった。「法曹関係の仕事を目指すような学生は、県外の大学に進学してしまうのではないか」といった意見もあったが、「公務員をはじめ、地域に貢献できるリーガルマインドを持った人材を育てることは、静岡県に根づく総合大学としての役割の一つ」と学長はその想いを語る。常葉大学では「卒業後の進路を法曹関係に特化しない」と明言し、「法のとっつきやすさ」を前面にだした広報を行うことで、その想いを伝えようとしている。

 とはいえ、初期の募集上のリアクションは決して芳しいものではなかったという。担当者が高校訪問を重ね、保護者に向けての法学部セミナーを開催するなど、常葉大学法学部の目指す姿やそこへの想いを丁寧に説明していくことにより、募集人数160名に対し600名を超える志願者を集める結果を残したのである。

 現在、常葉大学法学部は4割を女子学生が占めているが、将来的には5割を目標にしているという。女性の社会進出は国としても大きな課題である。静岡県にとっても、リーガルマインドを持つ女性が増え、社会に進出し、地域に貢献する人材となることは、大いに歓迎するところであろう。

志願先としての新生・常葉大学へのまなざし

 志願者数の目標を達成するとともに、志願倍率にも順調な成果がみられる。

 統合前の3つの大学の2012年度の志願倍率は約2.8倍であったのに比べ、常葉大学としての2013年度の志願倍率は約7.5倍と大幅にアップした。統合前は募集に苦戦していた経営学科や社会環境学科だけでなく、安定した人気を誇っていた教育学部や外国語学部の各学科も含め、いずれの学部・学科でも志願倍率はアップしている(図表3)。「全学部統一入試」や併願割引制度「トコ割」により学内併願者も増加したが、実人数も増加しているという。

 入学倍率は学部・学科によりでこぼこな状態であり、その歩留まりを高めることが今後の課題だというが、「志願先として、新生・常葉大学に目を向けさせる」といった点では、初年度から素晴らしいスタートをきったといえるだろう。

図表3 学部・学科別、志願者数と志願倍率(2012年度、2013年度)

130㎞離れたキャンパスでのスケールメリット

 順調なスタートをきった常葉大学であるが、「統合によるスケールメリットを、距離のあるキャンパスでいかに生じさせるか」は今後の課題の一つと学長はいう。静岡県東部の富士キャンパスから、西部の浜松キャンパスまでおよそ130㎞離れている。それぞれのキャンパスの地元の要望もあり、キャンパスを動かすことは考えていないという。

 経営面でのスケールメリットは、入学センターにみられるように既に表れ始めているが、学生に対する教育的な面からみると、学びの幅を広げる器を用意しても、キャンパス間の距離の制約によって、それを活用することは難しい状況にある。こうした課題を抱えながらも、地域を味方にし、学生に対する教育的なスケールメリットを生じさせようとしている。例えば、経営学部は浜松キャンパスと富士キャンパスに設置されており、学生が選択できるようになっている。ものづくりを基軸とし産業が盛んな浜松、富士山のお膝下として観光が盛んな富士、それぞれの地域のカラーを活かした2つのキャンパスで学ぶメリットを最大限活用していくという。

 今後は大学として、産学連携や地域貢献にもより力をいれていくというが、自分とは異なる学部の学生と関わる機会を得ることで、複眼的な視点を得ることも可能となる。キャンパス間の距離があろうとも、「常葉大学の学生」として協働することにより、学生にとってのスケールメリットが生じることも期待できる。

 これまでにも大学教育改革に先駆的に取り組んできた西頭学長のいう「教育の主体は教官、客体は学生であるが、教育理念の実践主体は学生である」という言葉には重みがある。今後は、それを意識したクリエイティブな授業をまじめに展開していく教育を学内に求めていくという。常葉大学の学部のラインアップは資格に関わるようなものが目立つが、学長は「ライセンスだけでなく、大学だからこそ身につけられることを、しっかりと身につけさせることが大事だ」と明言している。

 また、「総合大学になっても、これまでの根幹にあったアットホームさを失ってはいけない」と学長はいう。学生を主役とし、アットホームな雰囲気の中で、「大学で何かを成し遂げた」という実感を学生に持たせることに意味がある。それは10学部19学科の総合大学となった常葉大学がシナジーを生み出す鍵であり、「自分は常葉人」といったアイデンティティにもつながるのではなかろうか。

 リストラクチャーを進めながら教育力を向上し、常葉アイデンティティを持つ人材を輩出していくことによって、常葉大学のブランド力がますます高まっていくことを期待している。


(望月由起 お茶の水女子大学 学生・キャリア支援センター特任准教授)


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