リベラルアーツの先のプロフェッショナリズムへ 5年プログラム、大学院の専門コース新設/国際基督教大学(ICU)

POINT
  • 第二次世界大戦後の日本を世界に向かって開かれた国に革新し、人類平和のために貢献する人を育成するという願いから1953年に献学
  • キリスト教の精神に基づき、自由にして敬虔なる学風を樹立し、国際的社会人としての教養を持って、神と人とに奉仕する有為の人材を養成し、恒久平和の確立に資することを理念とする
  • 文理の枠を超えて創造的発想を生み出すリベラルアーツを教育の基盤とし、対話を軸に日英バイリンガルで教育を行う


 私大は独自のビジョンに基づき教育研究を展開する。そのビジョンは建学の精神に裏打ちされ、その大学の存在意義とも言える軸となっていることが多い。今回ご紹介する国際基督教大学(ICU)は特にその独自性が際立つ大学の1つであろう。

 2012年から導入している「学士・修士5年プログラム」強化の一環として、2019年大学院に3プログラムを新設する経緯について、海蔵寺大成大学院部長、藤井彰子教養学部准教授・国際バカロレア教員養成プログラム委員会 委員長にお話をうかがった。

複雑化する国際社会を背景に有用なプロフェッショナルを育成する

 2019年に新設するのは①外交・国際公務員養成プログラム、②国際バカロレア(IB)教員養成プログラム、③責任あるグローバル経営者・金融プロフェッショナル養成プログラムの3プログラム。いずれもリベラルアーツの素養を持った実務家の養成をうたう。

 リベラルアーツを教育の基盤とし、メジャー(専攻)制やダイアログ(対話型教育)、日英バイリンガルを教育の特徴として人材育成を行っているICU。リベラルアーツと聞くと広く教養を培うことを指し、専門性を極める動きとは逆であると考えてしまいがちだが、「リベラルアーツが基盤にあるからこそのプロフェッショナルです」と海蔵寺部長は強調する。「将来的になりたい像を結ぶにあたり、特定のキャリアパスやパターンはありません。自由なマインドで自らのキャリアを構築していく感覚がICUにはあるように感じます」と藤井准教授も話す。多様な学問を行き来しながら横断的な視野を培う学士課程のカリキュラムにおいて、自らの軸足をどこに定めるかを十分に模索するからこそ、専門性の高い職種へのニーズが高まる。また、入学案内には「リベラルアーツ教育とは他者との対話を通して自己と向き合えるようになることである」とある。ダイアログを通して自己省察が進み、自らの価値観に向き合う機会が豊富にあるのであろう。

 また、ICUは国際機関との親和性が高い大学の1つである。事実、卒業生の中にはこうしたフィールドで活躍している人材も多いが、概ね個人の志向としてそうした領域を目指し、大学がそれを支援してきた結果であるという。その実績を鑑み、同様の進路を志す学生も少なくない。そうした期待に応える必要から、今回のプログラム設置に踏み切ったという。世界的な社会変革の中、各フィールドは高度化・複雑化が進んでおり、リベラルアーツ教育を受けたプロフェッショナルが切望されているという現状がその背景にはあるという。

近年人気が高まる5年プログラム

 今回のプログラム設置に関連して、「学士・修士5年プログラム」の存在にも触れておこう。成熟した知識基盤社会で国際的に活躍できる人材育成を見据え、国際社会で求められる修士以上のキャリアを志向し、自らの専門分野を深めることで、修了後により多様な進路の選択肢を得られるというものだ。制度概観は図に示した通り、学部4年次から大学院科目の履修を開始し、修論作成を見据えた指導を受ける。ICUでは2012年制度創設以来これまで23名がこのプログラムを修了し、国際社会へ巣立っている。また近年希望者が増加傾向にあるという。「学生の増加は、国際的に活躍したいという期待の表れでもあります。そうした期待に応える教育を継続的に磨く必要性を実感しています」と海蔵寺部長は言う。今回の新増設もこうした経緯を抜きには語れないものであろう。では、それぞれのプログラムについて具体的に見ていこう。

図 学士・修士5年プログラム概観

外交・国際公務員を目指す学生を実践的に育成する

 まず①外交・国際公務員養成プログラムである。ICUの使命である「恒久平和の確立に資する人材の育成」を実現するプログラムとして設立され、将来的に外交・国際公務員のキャリアを志望する学生を支援する。前国連大使の吉川元偉特別招聘教授の授業やNY国連本部でのスタディツアー等、国際機関の実務に直結する様々な機会を提供し、主に英語で授業を行う。「公的機関で働くキャリアを具体的にイメージし、ノウハウも含めてアプローチを深めるプログラムです。ICUのミッションとの親和性が高く、これまでも人気のある分野です」と海蔵寺部長は話す。

ICUと理念的な親和性が高い国際バカロレア

 次に、②国際バカロレア(IB)教員養成プログラムである。IBとは、多様な文化の理解と尊重の精神を通じてより良い平和な世界を築くことに貢献する、探求心・知識・思いやりに富んだ若者の育成を目的にした国際水準の教育プログラムで世界的に4700以上の学校で提供されている。対象年齢ごとにPYP(Primary Years Programme:3~12歳)、MYP(Middle Years Programme:11~16歳)、DP(Diploma Programme:16~19歳)、CP(Career-related Programme:16~19歳)の4つの区分に分かれ、ICUはMYPとDPの教員を育成する。ICUの掲げる理念と親和性が高く、「ICUのビジョンを体現する一つのキャリアパスだと考えています」と藤井准教授は言う。IBは2013年日本再興戦略で政府が2018年までに(現在は2020年までと変更)200校設置を目標に掲げたが、2018年8月段階で認定校は83校と道半ば。なかなか増加しない理由はIBの社会的認知の低さに並び、IBを教えられる教員が不足している点等が挙げられる。IB教員となるには国際バカロレア機構主催のワークショップに参加するか、国際バカロレア機構が認定したIB教員養成コースを持つ大学・大学院を修了する必要がある。日本の教育制度の中で教える場合は、通常の教員免許を取得するための学びと合わせてこうした取り組みを行う必要があり、教壇に立つまでのハードルは高いと言わざるを得ないのが実情だ。藤井准教授は言う。「我々は理念的な親和性を背景に、体系的にIBを理解し責任を持って教えられる人材を育てたい。今回のプログラムはその第一歩なのです」。

持続可能なビジネスサイクルを学び国際社会を牽引する

 最後に③責任あるグローバル経営者・金融プロフェッショナル養成プログラムである。名称からしても国際色の強い①②とは少し雰囲気が異なるように感じられるが、海蔵寺部長は、「①と③は同じ国際社会に対して公的機関からアプローチする(①)か、ビジネスからアプローチする(③)かの違いです」と言う。なお、「責任ある」とは特徴的な名称だが、何に対する責任かを問うと、海蔵寺部長より「社会に対する責任です」との言葉が返ってきた。「③は企業の持続的経営のための社会的責任遂行、非営利団体の社会的重要度の高まりから設置されるものです。昨今は国連が掲げるSDGsの動きが象徴的ですが、企業経営に関してもCSRはもちろん、環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)を重視する企業に向けたESG投資等も一般的になりつつある。国際的な潮流を理解し国際社会を牽引するビジネスプロフェッショナルの必要性は極めて高いのです。本プログラムでは、グローバル企業の現場プロフェッショナルを招いた講義を軸に、ビジネスとして持続可能なサイクルを構築する術を探ります」(海蔵寺部長)。

 国際社会を舞台に、リベラルアーツの先にあるプロフェッショナリズムへ。ICUの挑戦は続く。

カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓(2019/3/13)