データサイエンス学部新設、国際総合科学部改組で5学部体制へ/横浜市立大学

横浜市立大学キャンパス


ポイントは外からの見えやすさと、専門性の深化

 2018年に創立90周年を迎えた横浜市立大学は、2018年4月に首都圏で初、全国2番目となるデータサイエンス学部を新設し、さらには2019年4月には、国際総合科学部を国際教養学部、国際商学部、理学部へと改組し、従来からの医学部を併せて5学部体制になった。なぜ今、立て続けに学部新設や改組に取り組んだのか。

 それを知るには、2005年の公立大学法人になった際の改革に遡らねばならない。法人化を契機に、商学部、国際文化学部、理学部を統合して国際総合科学部とし、文理融合を目指した教育・研究を開始した。それから10年前後を経た第2期中期計画(2011~2016)の終盤、第3期中期計画を考える頃から徐々に見直しの機運が生じてきた。

近年の改革でどう変わったか

窪田吉信 学長/中條祐介 副学長/データサイエンス学部 岩崎 学 学部長

 窪田吉信学長は、「文理融合を掲げて約10年やってきて、一定の成果を上げました。しかしながら、逆に弱点と言えるようなところも見えてきました。その1つは、大学の外から、国際総合科学部が何であるかよく見えないという声を聞くようになったことです。特に受験生からそういう反応があったのです。また、学生の就職活動時においても、何を学んだのかと聞かれることが多くありました。もう1つは、教員の異分野交流は大変進んだものの、他方でそれぞれの専門分野での研究力がやや鈍化しました。これらを克服し、時代に適応するためには、外から見えやすくするとともに、専門性を深化させることが必要と考えた次第です」と、改組の理由を説明する。改組までには3年ほどかけて議論を重ね、2019年4月から新体制が発足した。

 それよりも1年前に設立されたデータサイエンス学部は、時代を象徴している。今やビッグ・データの解析は必須となり、データサイエンティストに対する需要は沸騰している。これからの時代を考えると、データサイエンス学部の設置は不可欠と判断した。工学部を持たないがために、学内で教員を揃えることはできない。そこで統計学や数学を専門とする学内の教員を中心にして構想を固め、あとは外部から適任者を集めることで、学部の骨格を考えた。一日でも早く設置したいと計画を進める大学のスピードに、最初、大学の設置母体である横浜市は驚嘆していたという。

図表1 志願者数推移【2014年度~ 2019年度】

 興味深いのは、データサイエンス学部の想定される卒業後の進路として掲載されている職業リストの最後に、「今はまだ存在していない職業」という項目があることだ。何が起きるか不確実な将来に向けて、果敢にチャレンジしようという姿を見ることができる。

 学部の新設と学部の改組がほぼ並行したここ2~3年、学内はさぞかし大変だったことだろう。学部新設・改組の受験生への影響について、志願者の推移から見てみよう(図表1)。データサイエンス学部は、2018年度は初年度効果で志願者が多いが、2019年度も募集定員に対して4倍の志願者があり、人気学部であることが分かる。改組した理学部、国際教養学部は志願者の増加が認められる。多くの大学が志願者を減らしているなか、まずまずの出だしであろう。よく見えるようになるのは、卒業生が出始める頃からであり、そこからが勝負である。

 ところで、国際総合科学部から3学部への改組は、2005年以前への回帰ではないかと思われるかもしれない。確かに、学部の名称だけみれば、そう言えなくもない(図表2)。しかし、法人化とともに進めてきたいくつかの改革をみれば、単なる回帰ではなく、前進であると納得することができる。

図表2 学部新設・改組の図

4キャンパスの学部が一緒に学ぶ「共通教養」

 法人化に際して行ったのが教養教育の改革である。その中でも「共通教養」と命名されている教育は、「自ら主体的に課題を発見して解決する力」の涵養を目標に掲げている。それは、専門の基礎的な知識を学ぶものでも、専門以外の領域を幅広く学ぶものでもないという認識の上に構築した。高校までの正解に到達する教育と比較すれば、大学での教育は、自ら問いを立ててその問いに自ら答えを探していくことである。鉄は熱いうちに打て、の例えの通り、大学へ入学したての学生にその違いを教え、課題発見・解決能力を鍛えようというのが教養教育改革の主旨であった。

図表3 共通教養の図


 その新たな教養教育である共通教養は、具体的には「問題提起」「技法の修得」「専門との連携」の3つの科目群からなる(図表3)。「問題提起」科目群ではテーマ別科目や教室外で実践する科目を中心とし、それらを通じて、問題を見つけるとはどういうことか、自分にとって問題とは何かを考えることを学ぶ。「技法の修得」科目群は、問題を解くための方法論を身につけるための科目であり、PracticalEnglish、ICT、少人数の教養ゼミ等から構成されている。「専門との連携」科目群は、専門を始めるにあたって必須の科目、課題探究科目という、学問とはどのように課題解決に関係するのかを学ぶ科目、リメディアル講座という、専門に進むにあたって必要だが、高校で履修していない者のために単位が付与されない科目が用意されているところが興味深い。

 この教養教育の重要な点は、所属の学部に拘わらず全学生が一緒に学ぶことにある。専門教育が始まると4つのキャンパスに分かれるため、他学部の学生との交流は自ずと限定される。そのため、1年次の教養教育では、金沢八景キャンパスで全学生が一緒に学ぶという環境を提供し、多様な考えを持つ学生と触れ合うことで視野を広げ、課題発見・解決力の向上を狙っている。5学部体制となってもこの共通教養が教育の核としてあり、ここを足場にしてそれぞれの専門を深めるのだ。

 ここで特色ある英語教育としてPractical Englishに関して触れておきたい。後述するように横浜市立大学は、以前から国際性を売りにしてきた。それを具現するために設けられたのがこの科目であり、全学生がTOEFL-ITP®で500点に達することを3年次への進級の要件(医学科は2年次への進級要件)とする野心的な試みである。これを導入した当時、他大学からは無謀と言われ、最低基準に到達できる学生も70%程度しかいなかった。しかし、Practical EnglishCenterを設置し、インストラクターは全て母語を英語としない人向けの英語教授法の資格を有した者とし、加えて教授法の改革、少人数クラスによるコミュニケーション重視の授業等のきめ細やかな指導によって、現在では2年生の約95%が基準点をクリアするまでになった。むしろ、早く基準点に到達してしまうがため、その後のブラッシュアップを怠る者が出てくることに対し、あくまでもPractical Englishはスタートとし、Advanced Practical Englishのクラスを充実させ対応するまでになったという。

国際都市横浜と連携した教育・研究

 言うまでもなく横浜市立大学は横浜市によって設立された公立大学であり、法人化後も横浜市との関係は深い。多くの公立大学が設立地域への貢献を基本方針とすることは、同大学でも同様だが、異なるのは横浜という近代化開始からの国際都市に立地している点である。横浜市への地域貢献は必然的にグローバル化へのチャレンジになる。こうした立地を生かして、学部名称に国際を冠し、かつ、それを実体化する活動に力を入れている。大学の国際化を促進することは、必然的に横浜市との連携を高めることになるというメリットがある。2009年に地域貢献センターが設置され、学外ニーズの学内資源とのマッチングを図ってきた。

 研究という面から横浜ならではの取り組みを挙げれば、横浜市立大学が、マレーシア・タイ・ベトナム・フィリピン・インドネシアの大学との間で形成しているアカデミックコンソーシアムを核にし、横浜市と連携した活動がある。持続可能な社会を目指して、環境・まちづくり・公衆衛生の3つのテーマを掲げて活動し、ここ数年ではJICAの草の根技術協力事業に参画し、マレーシアの都市の課題解決に向けての人材育成や技術協力を行った実績がある。

 また、新たに設立されたデータサイエンス学部は、横浜市の課題をデータにもとづき分析し教育・研究に役立てるとともに分析結果を横浜市に提供することで、win-winの関係を築こうとしている。興味深い事例として、横浜市の救急車の出動頻度に関する分析がある。現状からは、将来さらなる救急車の出動が予測されるが、それにとどまらず救急通報の時間帯や要請場所、頻度等の分析結果により救急車の将来的な配備体制の検討に生かしていく等の取り組みを進めている。

 学生の教育という側面からは、学生の各種の地域貢献活動がある。例えば、横浜市にはもともと外国人が多いが、ここ数年急激に増加しており、とりわけフィリピン・ベトナム・ネパールからの流入者が多く、その子どもの教育の手当てが学校現場での大きな課題となっている。日本語でのコミュニケーションが不十分なケースが多いことが学習困難を招き、高校進学を諦め、結果として良好な就労機会に恵まれないという、貧困の再生産が生じる。これを少しでも阻止するために、外国につながりを持つ子どもたちの学習を支援する活動を行っているが、これは国際都市横浜が抱える課題への貢献である。

 他方で、横浜という地域からの恩恵もある。例えば学生のインターンシップの実習先として、横浜市をはじめとして区役所や市内の企業からの協力は不可欠である。多くの企業が集積し、国際機関も置かれている横浜の地の利に恵まれ学生の実習先は多いが、それはまた卒業後の学生が横浜という地域に貢献する人材となっていくことにつながるのである。

学部自治からの転換で機動的な改革を推進

 法人化とともに行った改革、また、今回の学部新設や改組は、極めて迅速である。なぜこれほどまでに機動的な改革ができたかといえば、それは、法人化時にいち早くガバナンス改革をしたことによる。

 即ち、理事長と学長のリーダーシップ権限を強化し、大学運営はトップダウンを基本とし、カリキュラム編成と学生に関してのみ学部の事項とした。人事も全学の人事委員会で決定することとし、学部自治に委ねられていたこれまでの方式を、完全に転換した。加えて、職員の在り方に関しても議論を重ねた。これらの改革は、当然ながら決してスムーズに事が運んだわけではない。とりわけ教員からの反発は強く、喧々諤々の議論が続いたという。

 こうした思い切った改革を回顧し、窪田学長は、「当時の日本の大学からすれば、学部の自治を縮小したことは例外の部類に属するでしょう。学内の反発は、それはもう大変でした。しかしながら、今後の日本の大学が直面する状況に鑑みると、学部単位で物事を決定する方式では立ち行かなくなることは明白です。時代の流れに敏感に対応して先へ進むことを考えると、必要な改革だったと言えるでしょう」と語る。

 それとともに、2011年から教員の所属組織を学術院に一本化し、学部と切り離したことも、今回の改革を容易にしたもう1つの要因であろう。全教員は学術院に所属し、そこから学部へ教えに行く。教えに行く学部は1つとは限らない。これは教員という資源の教育・研究における有効利用である。教育という点では、従来であればできなかった、所属学部以外の学部・研究科の教育に従事することができるようになった。研究という点では、領域横断的な研究や全学的な重点課題への対応が可能になる。例えば前述のアカデミックコンソーシアムは2009年に設立されたが、その活動を推進するために2011年には学術院内にグローバル都市協力研究センターを設置した。これは学部・研究科の枠を超えた領域横断的な組織であり、教職員の弾力的な人員配置が可能となる。

 改革から10年余の歳月は、教員の意識を次第に変化させた。学部に固執していた多くの教員は、全学的な視点で大学の問題を考えるようになったそうだ。優れたリーダーのもとでの機動的な改革ができる体制は、大学の教育力・研究力をさらに高めていくことだろう。

新たなるミッションのもとで

 さて、改組した3学部の特色はどこにあるのだろう。

 国際教養学部は、高い外国語運用能力を基盤とし、思考力と実践力を持った学生の育成を掲げている。国際商学部は、グローバル企業で求められる経営管理能力や新事業を創出する企画立案力を身につけたグローバルリーダーを育成することを目標としている。また、海外協定校からの留学生のために英語で日本のビジネスを学べる1年間の交換留学プログラムも設置した。大学の前身である横浜商法学校からの伝統は今でも基盤にある。

 この「国際」を冠する両学部は、海外留学や海外インターンシップ等、大学や日本から外に出て学ぶことができるプログラムとし、1年次でPractical Englishの基準点をクリアして、2年次での留学を推奨している。それを可能とするため、2年次前期後半の第2クォーターには必修の授業を入れていない。

 理学部は、多角的なアプローチで生命現象を解明できる学生の育成を目指し、特に医学部との連携を重視している。大学院進学者も多いため、修士課程までの6年一貫制、あるいは、優秀な者は5年間で修士課程までを修了できるプログラムも編成した。

 医学部は最も改革が困難な組織といわれることが多いが、ここもアメリカ型の臨床実習重視の医学教育を導入し、学生の海外派遣にも力を入れている。

 それぞれの学部がそれぞれの伝統に立脚しつつ、国際を1つのキーワードとして新たなミッションを掲げ、教育プログラムを編成している。横浜と共に歩みつつグローバルなチャレンジという目標の達成はそう遠くはないように思われる。

(吉田 文 早稲田大学教授)



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